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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第十三章:焦燥(夏休み)
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094:二人だけの勉強会(2)


田中美佳(みか)の部屋は、意外とシンプルで好感が持てた。ぬいぐるみとかは多少あるものの、過剰な少女趣味の装飾とかは一切無いし、きちんと片付いてもいる。僕の部屋より散らかった菜摘なつみの部屋は論外として、瑞希みずきの部屋と比べても男子よりって気がする。それに、本の数が断然に多い。

元々は「夏休みの宿題をみんなでやろう」という事で呼ばれた筈なのに、いつの間にか田中さんと僕だけになっていて、未だに宿題はリュックの中に入ったままだ。

いつもは元気な田中さんだけど、さすがに二人だけってのは緊張するのか、さっきから落ち着きがない。それでも、僕がいなかった間の事をポツリポツリと話してくれた。


僕や水野が所属しているサッカー部は地区大会の一回戦で負けてしまったけど、陸上部の田中さんの方は、走り高跳びで県大会まで行ったらしい。僕は、応援に行けなかったことを彼女に詫びた。僕らのサッカー部の試合に彼女は、友達と一緒に弁当持参で来てくれたからだ。


「仕方ないよ。私も試合の日程とか言ってなかったし、香山くんはトキオに行ってたんでしょう?」

「うん、まあ、そうだけど」

「でもさあ、昨日、私が電話した時に、トキオで入院してたって事、言ってくれれば良かったのに……」


どうやら田中さんは、入院してた事を彼女に言わなくて、水野に言ったって事を咎めてるようだ……。いや、違うな。田中さんと水野だったら、男同士の水野との関係の方が近くて当然。彼女が怒ってるのは、先に杉浦さんが知ってしまった事にあるに違いない。

ちぇっ。やっぱり悪いのは、水野じゃないか……。


「……まあ、優しい香山くんが友達を心配させたくないっていう気持ちは分からないでもないわよ。でも、私と香山くんの仲じゃない。香山くんが転校してきて以来、ずっと私達お隣どうしだったのよ。私にだって、もっと気軽に色々と話してくれたって良いじゃない」


僕が水野の事を考えている間にも、田中さんの話は続いていた


「ねえ、香山くん、まだ私に隠してることがあるんじゃない?」


しばらく僕が黙り込んでいたせいか、田中さんは僕に疑いを持ったようだ

取り敢えず僕は、「別に、何も無いよ」と返したけど、次に彼女が何て言うか気が気じゃない。


「香山くんってさあ、嘘が付けないタイプだって私、前にも確か言ったよね。前の中学でも同じこと、みんなに言われなかった?」


マズい。また顔に出てしまったようだ。


「まあ、良いわ。ところで、ハッピーアイランドに行った時、ちゃんと彼女さんには会えたの?」


田中さんが、痛い所を突いてきた。てか、瑞希の事は、いくら田中さんでも、むやみやたらに触れて欲しくはない。


「ふーん、一応は会えたけど、連れては来れなかったって事かな?」


『お節介な奴だ』と思った僕は、正直イラっときた。


「しょうがないだろ。簡単に連れ出せる状態じゃなかったんだよ!」


動転していた為か、思わず責めるような口調になってしまった。


「もう、怒鳴らないでよ。前もこんなことあったよね。香山くん、ハッピーアイランドの事になると、急にムキになる……」

「あ、ごめん」

「別に、良いよ。そんなに怒ってないから。それより、『未知の病原菌』のせいでハッピーアイランドが隔離されたってニュースが、昨日から何度も流れてるじゃない。そんな時に香山くんがハッピーアイランドに行って入院したって話を聞いたから、私、あれこれと想像しちゃって……」


そこで僕は、田中さんが「未知の病原菌」について、どう思っているのかが気になり出した。彼女の母親の里美さんの反応は、明らかに怖がっている様子だったからだ。


「あの、田中さんは、僕が『未知の病原菌』に感染してて怖いとか思わないの?」

「えっ、何で? その病原菌に感染してたとしても、イルージョン濃度が低い環境では無害だって話だよ」


やっぱり彼女は、正しい情報を持っていた。だけど……。


「そうなんだけど、そんでも、イメージだけで普通の人は怖いとか思っちゃうと思うんだけど」


そこで田中さんは、明らかにムッとした表情で僕を睨んできた。


「私は、そんな風には思わない。むしろ、私は香山くんの助けになりたいって思ってる」

「えっ、助けに?」

「そう。だって、香山くん、いつも何かに悩んでるって感じなんだもの……。まあ、ハッピーアイランドにいる彼女さんの事だとは思うんだけど……」


それから、田中さんは僕に向かって、真剣な顔で言った。


「あの、もし良かったらで良いんだけど、香山くんが悩んでる事、私に話てくれない? あ、もちろん、嫌だったら話さなくても良いんだけど……。でもね、私、香山くんの味方だから。ずっと応援していたいから……」


僕は、改めて田中さんを見た。彼女は、ノースリーブの白いワンピ姿。そういや、こないだ僕が再会した時の瑞希もまた、白いワンピースを着ていたっけ。

それから僕は、トキオで入院していた時、青木麻衣から言われた事を思い出した。どうやら、麻衣が言ってたのは正しかったようだ。田中さんのお節介は、僕を本気で気遣っての事らしい。

僕は、田中さんの思いを聞いているうちに、何だか心が軽くなって行く気がした。そして、『この子になら、瑞希や菜摘の事を打ち明けても良いかも』と、思えたんだ。

もちろん、麻衣にだって何でも話せるし、聞いてもくれる。でも、麻衣は、僕が甘えられる相手じゃない。麻衣は翔太の彼女なのだから……。


「あの、田中さん……」

「ねえ、そろそろ『美佳』って呼んでくれないかな?」

「えっ?」

「だって、香山くん、前の中学の友達の事は、女子でも名前の方で呼んでるじゃない。私も名前じゃ駄目かな?」


田中さんみたいな女子にそんな風に言われてしまったら、駄目だなんて言える筈がない。


「ねえ、美佳……、うーん、何か調子狂うなあ」

「大丈夫。そのうち慣れるよ、樹くん」

「了解、美佳。実は、お願いっていうか、すっごく大事なことがあるんだけど……、良いかな?」

「えっ、何?」

「あの、僕に聞いた事は、絶対に誰にも言わないって約束して欲しいんだ。家族にも、どんなに仲の良い友達にも、、絶対に言わないで欲しい。じゃないと、最悪は田中さん……じゃなくて、美佳の命が危ないかもしれないんだ」

「随分と大げさなのね」

「うん、大げさなだけだったら良いんだけどね、万が一でも美佳に何かの危害が及んだりすると、僕は生きていられない。大切な女の子を、もうこれ以上は失いたくないんだ」


一気に捲くし立ててから、『しまった』と思った。何か、とんでもない事まで、勢いで口走ってしまったみたいだ。

でも、意外なことに、田中さん、つまり美佳の表情は穏やかだった。


「分かった。約束は絶対に守るよ」


美佳は、キッパリと言った。彼女が走り高跳びのバーを見詰めている時の、あの真剣な表情だった。


その言葉を信じて、僕は美佳にヒカリ市で見てきた事を話した。当然、にわかには信じられない事ばかりだと思ったけど、彼女は真面目に聞いてくれた。

次第に僕の口調は熱を帯びてしまい、その間、時間は飛ぶように過ぎて行った。


気が付くと既に夕食の時間で、美佳の母親の里美さんが、「お夕飯、一緒にどうかしら?」と誘ってくれた。母さんに電話すると、『せっかくこっちでできたお友達だから、大切にしなさい』という言葉が返ってきた。

僕が、「それでは、御馳走になります」と言うと、美佳も里美さんも笑顔で頷いてくれた。



★★★



田中家の夕食は、定番のハンバーグだった。

最初に僕は、美佳の母親の里美さんから謝罪を受けた。


「さっきは、突然、例の『未知の病原菌』の話を聞いて、私、動揺しちゃって……。本当にごめんなさいね。もし人にうつるとかなら、退院できる筈が無いものね。少し考えたら分かる事なのに、本当に情けないわ」


さっきは少し怖い人だと思ったけど、実際の里美さんは、とても優しい人のようだ。その里美さんは、僕の父さんが未だに入院している事を知ると、本気で心配してくれた。


「……そんなに酷い事になってるだなんて、全然、知らなかったわ」

「今まで、テレビじゃ報道されませんでしたからね」

「そうね。津波の報道ばかりだったもの。それが、ここへ来て急にハッピーアイランドの事ばかり報道されるようになって……」


とはいえ、未だに本当の事は何も伝えられてはいない。でも、僕は余計な事は何も言わない。美佳も僕との約束を守って、何も言わないでいてくれた。


食後のコーヒーを飲みながら、僕が持参した洋菓子をつまんでいる時だった。里美さんが、急に真面目な口調で話し出した。


「この子ね、今まであんまりお友達を家に連れてきたことが無いの。小さい時から友達の少ない子で、小学校の頃は心配したわ。中学生になってしっかりした面はあるんだけど、相変わらずこれといった友達はいなくて。それが最初に連れてきたのが男の子でしょう。少しびっくりしたけど、嬉しかった……」

「お母さん、私のこと、こんなとこでぺらぺらと喋んないでよ。もう」


隣で美佳が膨れているのが、何だか僕には、とても可愛く見えた。



★★★



ところで、この食卓にいたのは、里美さんと美佳と僕の他に、もう一人いた。

美佳の父親じゃない。やっぱり田中家でも父親は遅く帰って来て、夕食を一緒に取るのは稀なようだ。


「良かったね、お姉ちゃん。彼氏できて」


そんな風に美佳に言ったのは、妹の美咲ちゃん。彼女は小学六年生なんだけど、身長は既に美佳と同じくらいある。ちなみに胸とかも見た感じでは美佳と遜色ない。

僕が、『将来、楽しみな子だ』と思っていると、美佳に睨まれてしまった。相変わらず美佳は、僕の顔を見ただけで何を考えているのかが分かってしまうようだ。


「あたし、最初に香山さんを見た時、『怖い人かも』って思ってビビってたんです。でも、話してみると気さくな人で良かったあ」


美咲ちゃんが何で僕を「怖い人」だって思ったかというと、やっぱり髪の毛が茶色だったからのようだ。

僕が美佳に、「髪の毛の事、学校が始まる前に関谷先生に言っておいた方が良いかな?」と訊くと、美佳は「当然でしょう」と即答だった。


「関谷先生って、少し思い込みが激しい所があるんだよねえ」


具体的な事は言ってくれなかったけど、どうやら前に美佳も、関谷先生に色々と誤解されていた事があったらしい。


僕が田中家を出た時、里美さんにも美咲ちゃんにも、「また来てね」と言われた。僕も笑顔で、「また来ます」と言って、自転車に跨った。


家路を辿る時のペダルは、いつもよりもずっと軽やかだった。




END094


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「樹の後悔」です。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


尚、ストーリーが終盤に近付いた事で、この後、投稿のペースが遅くなってしまう事があるかと思います。大変申し訳ありませんが、ご了承下さい。


また、大変お手数ですが、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。

「いいね」のリアクションだけでも有難いです。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


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