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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第十三章:焦燥(夏休み)
93/106

093:二人だけの勉強会(1)


僕がナコヤに戻って来て三日目の朝、ちょうど朝食を食べ終えた頃に僕宛の電話があった。相手は、こっちで出来た最初の友達で、サッカー部の仲間である水野恭平(きょうへい)だった。


「こんな朝早くに、どうしたんだ?」

『いやな、オレ、弟がいてな。まだ小学生なんだが、毎朝ラジオ体操とかやってて、オレも一緒に付き合ってやっとるんだわ』


どうやら水野には弟がいて、相当に可愛がっているようだ。


「そっか。それで?」

『あ、いや、こないだも電話したんだが、トキオに行ってるって言われてよ。そろそろ帰って来たかと思ってな』


僕がトキオに行っている間に水野から電話があった事は、祖母から聞いて知っていた。


「実は、一昨日おとついに帰って来たんだ」

『そんなに長くいたんか……って事は、トキオだけじゃなくて、ハッピーアイランドの方にも行ったんだな?』

「まあな」

『そんで、大丈夫だったんか? ハッピーアイランドっていうと、『未知の病原菌』って奴が流行ってるんだろ?』


僕は、割と心配されていたらしい。それで、本当の事を言うべきか迷ったけど、結局、打ち明ける事にした。


「実はさ、ハッピーアイランドに行った後、トキオで入院してたんだ」

『マジかよ。で、もう治ったんか?』

「あ、いや、検査入院みたいなもんだったから、それほど大した事はなかったんだけどな」

『そっか、そんなら良いんだけどよ』


水野の電話の目的は、『暇だったら、遊ぼうぜ』というものだったけど、あいにくと今日は、午後に田中美佳(みか)の所に行く必要がある。それで、遊ぶのは明日以降という事にして、僕は水野との電話を終えた。



★★★



その日の午後、僕は普段よりも多少良い恰好をして田中美佳の家へ向かった。と言っても、白のポロシャツとベージュのチノパンの上に、薄手のジャケットを羽織っただけなんだけど、当然、それは母さんと香澄かすみ叔母さんのお墨付きをもらったコーディネートだ。

ちなみに、そのジャケットは、アメリカのお土産として香澄叔母さんから貰った物だ。僕には良く分からないけど、若者に人気のっブランド品らしい。


「ふーん、トキオから帰って来て早々に彼女の家へ行くなんて、いつきくんも隅に置けないわねえ」

「あのね、香澄叔母さん。女の子の家に行くって言ったって、別に僕だけって訳じゃないんだよ。他にも女の子達が呼ばれてるんだからね」

「ふふふ、その他の子ってのも、全員が女の子なんでしょう? それって、ハーレムじゃない。やっぱり、私の樹くんは、モテモテなんだなあ」

「こら、香澄。『私の樹くん』って何よ」

「別に良いじゃない。私にとっても大事な甥っ子なんだから。ホント、こんなに可愛く育ってくれちゃって、嬉しいわあ」

「もう、あんまり揶揄からかわないでよ」

「はいはい。それより、あおいお姉ちゃんが用意したお土産、ちゃんと持って行かなきゃ駄目よ」


そのお土産というのは、母さんがトキオで買った洋菓子の詰め合わせだ。母さん曰く、「こういう時の為に、多めに買っておいて良かったわ」との事だった。


という事で、昼食を終えて直ぐに僕は、準備万端を整えて、ナコヤに来て初めての女子の家へと向かった。



★★★



田中美佳の家は、割と近い所にあった。祖父母の家と中学校との中間より少し手前って感じで、自転車だと五分少々といった所だ。汗をかく前に着いたのは、有難かった。初めて行く女子の家に、汗臭い状態で入りたくはない。

その田中邸は、大通りから何本か入った丘の上のっ住宅街にあった。外観は割と普通の庭付き二階建て一軒家、大きさも古さも、僕のヒカリ市の家と同じくらいだ。田中さんは長女だった筈だから、きっと彼女が産まれた前後に建てられたんだろう。


「いらっしゃーい。待ってたわよーん」


ふさけた言葉で出迎えてくれたのは、丹羽さんだった。直ぐに後ろから現れた田中さんに、「もう、ここは私のうちなんだからねっ」と怒られている。その二人に連れられてリビングダイニングに入って行くと、食卓テーブルには、犬飼いぬかいさん、渡辺さん、杉浦さんがいて、一斉に立ち上がって僕を迎えてくれた。

僕も決して約束の時間に遅れた訳じゃないけど、自分が一番最後だった事で少し申し訳ない気分になった。それに、さっきの田中さんと丹羽さんもそうだけど、夏なので五人全員が薄着だ。特に丹羽さんと渡辺さんはミニスカートなので、目のやり場に困ってしまう。

更に田中美佳はと言うと、袖なしの白いワンピース。その恰好も何となく気になると思っていたら、それまでテーブルに座っていた三人が次々と僕に声を掛けてきた。


「えーと、香山くんだよね?」

「なんか、すっごくカッコ良いっていうか……」

「てか、どうしちゃったの、その髪の毛?」

「本当だあ。なんかイメージ変わったって思ってたけど、髪の毛、染めたんだね?」


最後のは丹羽さんで、どうやら、またも誤解されてしまったみたいだ。


「あの、この髪、染めたんじゃないから」

「えっ、マジで?」

「噓ついちゃ駄目だからね。どうせ先生にバレるんだし」

「嘘じゃないよ……」


僕は、ハッピーアイランドの事を言うべきかどうか迷っていた。ところが、そこで杉浦さんが声を上げた。


「分かった。入院したからでしょう?」

「えっ?」


僕は、頭を高速で回転させていた。こっちに帰って来てから、僕は身内以外の誰にも入院しただなんて言ってない筈……。あ、そういや、今朝の電話で水野には行ったっけ。だけど、まさか今日の今日で……。


「ふふっ、私が香山くんの入院のこと知ってて驚いた? 実はね、ここへ来る前にコンビニに寄ったら、水野くんとバッタリ会っちゃってさ……」


やっぱり、水野だ。あいつ、人のこと何でも言いふらしやがって……。


「あはは、水野ってさ、杉浦さんの前だと何でも喋っちゃうもんねえ……」

「きっと、杉浦さんとの話を長引かせようと思って、必死だったんだと思うよー」


そんだけ水野は、巨乳でお気に入りの杉浦さんの気を引きたかったって訳だ。


「水野の奴……」

「まあまあ、水野くんの事なら、許してあげてよ。それより、うちらも座るから、香山くんも座ったら? あ、席は美佳の隣りね」

「それって、丹羽ちゃんの隣でもある訳じゃん」

「えへへ。作戦勝ちって事だよー」


つまり、六人掛けの食卓テーブルの片面の端が田中さん、もう片方の端が丹羽さんの席で、その間に座れという事だ。そして、もう片面には、残りの女子三人が座る。直ぐに田中さんが僕に冷たい麦茶を渡してくれて、他の女子達にも麦茶のおかわりを注いで行く。

そうして僕らが談笑を始めようとしていた所へ、田中さんに似た年配の女性が現れて、「あら、今日は男の子もいるのね」と言った。



★★★



僕は、サッと立ち上がって、「あの、お邪魔しています。田中美佳さんの同級生で、香山樹かやまいつきです」と挨拶した。


「まあ、あなたが香山くんなのね。私は、美佳の母親の田中里美。美佳と仲良くしてくれていて、どうもありがとう」

「あ、あの、僕こそ田中さんには、大変お世話になってます。特に勉強とか教えてくれて、凄く助かってるっていうか……」

「あら、そうなの?」

「はい」


そこで僕は、ようやく持参した手土産の事を思い出した。僕は、隅の方に置いてあった自分のリュックから手土産の洋菓子を取り出すと、「つまらない物ですが」と言って里美さんに渡した。


「まあ、高級そうな洋菓子じゃないの。手土産なんて良いのに……、どうもありがとうね」


里美さんはお礼を言ってくれたけど、何となく彼女の目は厳しい。僕に問題があるとすれば、髪の毛の事だろうか?

その時、田中さんが少し強い口調で言った。


「あのね、お母さん。香山くん、東京で入院してたんだって」

「えっ、そうなの? 何か特別な病気だったのかしら?」


僕は、言うべきかどうか迷ったけど、結局、言う事にした。


「あの、入院とは言っても、検査入院なんです。僕、急に髪の毛がこんな風になっちゃって……」

「えっ、染めたんじゃないの?」


そこで声を上げたのは、杉浦さんだった。


「私、知ってる。ハッピーアイランドに行ったからなんでしょう?」

「えっ、それも水野から聞いたの?」

「そだよー。あ、そんでも髪の毛の事までは聞いてないんだけど、たぶん、例の『未知の病原菌』って奴なんじゃないの?」


杉浦さんが病原菌という言葉を出した途端、その場の空気が凍り付いた。


「あ、あの、検査の結果は大丈夫だったのよね?」

「はい。じゃないと、退院なんてしてませんから」

「そ、そうよね」


そう言いながらも、未だに里美さんは疑いの目で僕を見てくる。

気まずくなったのを察してか、犬飼さんが声を上げた。


「じゃあ、美佳ちゃん。お邪魔者はそろそろ退散するわね」


それに続いて、丹羽さん、渡辺さん、杉浦さんも席を立って、次々に声を掛けてくる。


「うちらも行くねー。美佳ちゃん、頑張ってねー」

「香山くん、美佳ちゃんのこと、宜しくねー」

「美佳ちゃんなら大丈夫。後で結果報告、待ってるよー」


唯一状況の分からない僕がおろおろしているうちに、四人の女子は出て行ってしまう。一方、彼女達を玄関で見送った田中さんは、戻って来るなり僕の前でガバッと上半身を前に倒して、「ごめんなさい」と謝ってきた。

僕が更に困惑を深めていると、今度は里美さんが、「じゃあ、私もちょっと出かけて来るから」と言い残して、外へ出て行ってしまった。

そこで、ようやく田中さんは、固まってしまっている僕に気付いて、事情を説明してくれた。


「つまり、夏休みの宿題うんぬんは、口実だったって事?」

「うん、そうみたい……。あ、昨日、私が香山くんに電話した時点では、私も宿題を一緒にやる為の集まりだって信じてて……、まあ、私も丹羽ちゃん達に騙されてたって事かな」

「てことは、言い出しっぺは丹羽さんなの?」

「うん、たぶん……」


要は、余計なおせっかいという奴なんだろう。


「あの、本当にごめんなさい。それで、もし良かったら、私の部屋で話さない? 私の部屋って狭いんだけど、一応、エアコンはあるから涼しいと思うよ」


そんな風に田中さんに誘われて、僕はリビングから彼女の部屋へと連れて行かれたのだった。




END093


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話も「二人だけの勉強会」の続きです。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


尚、ストーリーが終盤に近付いた事で、この後、投稿のペースが遅くなってしまう事があるかと思います。大変申し訳ありませんが、ご了承下さい。


また、大変お手数ですが、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。

「いいね」のリアクションだけでも有難いです。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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