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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第十三章:焦燥(夏休み)
92/106

092:隔離された故郷(4)


新型発電は、発電に至るプロセスが適切に管理されている限り、最小限の自然への負荷で膨大な電力エネルギーが得られる、いわば理想的な発電技術と言える。近年、燃料となるイリジウムは供給が安定しており、更に最近では国内で自給できる目途が付きつつある事から、今よりも更に安価で豊富な電力供給が期待されている。


新型発電の原料となるイルジウムは、レアメタルの一種であり、従来は中国の西域、ロシア、南ア等、一部の国々でしか採掘されてこなかった。しかし、前世紀末にニホンの排他的経済水域の海底で新たな鉱脈が発見され、、将来有望な資源として俄かに脚光を浴びた。

今までの調査によると、埋蔵量は無限大と言って良い程に豊富であり、国内の新型発電の需要を賄うどころか、輸出も充分に可能とされている。しかも、近くの海底には新しい鉱脈が次々と見付かっていて、それらの推定埋蔵量は無限大と言って良い。


通常、イルジウムからエネルギーを取り出す際、副産物としてイルージョンと呼ばれる微細な粒子状の物質が発生するが、今の所、その最終的な処分方法は見付かっていない。このイルージョンは人体に有毒である為、その対応には各国共に苦慮している。

現状、我が国では、格納容疑に取り付けられた特別なフィルターによって捕捉し、それを特殊な液体に溶かし、濃縮した上で安全な容器に詰めて、地下に作られた施設で保管している。首都電力は、向こう数十年分の保管庫を所有しており、当面、困る事はないとしている。


自分の部屋で僕は、新しく買ってもらったノートパソコンを使って、一時間くらいネットサーフィンをしていたけど、どんなに「イルージョン」に関する検索を掛けても、得られた情報は一般的なものだけで、本当に欲しい情報は何も無かった。

次に僕は、「ハッピーアイランド」や「ヒカリ市」についても調べてみたけど、おんなじような感じだ。唯一気になったのは、ハッピーアイランドの州庁やヒカリ市役所のホームページの更新が止まっている事だろうか? 本来なら、「ハッピーアイランド州の隔離」が決まったのだから、それに対する説明があってしかるべきだと思うのだが、何もないのは異常だ。

新型発電所事故関連についても調べてみたけど、そっちもまともな情報はどこにもない。それに、検索を掛けてヒットする件数が思いの外に少ないのだ。あれだけの事故だったんだから相当な件数があって当然なのに、これも明らかにおかしい。


とはいえ、金森さんの話を聞いた後では、それも仕方がないと思えてくる。

『これじゃ時間の無駄だ』と思った僕は、ノートパソコンを閉じて、部屋を出て行った。



★★★



トキオから戻った翌日の午後、僕は香澄叔母さんと一緒に近くの家電量販店に行って、ノートパソコンを買ってもらった。「もう中学生なんだから、パソコンくらい持っていなさい」という事だが、たぶん、落ち込んでいる僕を慰める為なんだろう。

一方、母さんは夫婦で早めの外食をしてから大学病院に出向き、父さんの入院手続きを済ませた後、ようやく夕方になって戻って来た。そして、僕の手元にあるノートパソコンを見るや否や、香澄叔母さんに「いつきを甘やかさないでよ」と散々に小言をぶつけてから、今度は急にしおらしくなって、「ありがとうね」とお礼を言っていた。


その後、僕は二人から「ゲームばっかりしてたらダメよ」、「変なサイトは見ちゃダメだからね」、「ちゃんと勉強もするのよ」の三つを約束させられた。更に、その後に追加で母さんから、「イルージョンに関する書き込みは、絶対にしちゃ駄目」を約束させられた。

午前中、あんな事を金森さんから言われた後だから、僕だって母さんが何を言いたいかは分かる。


「心配しなくても良いよ。約束は守るから」

「それなら良いけど、何か気になる事があったら、必ず私か香澄に言うのよ」

「分かった。大丈夫だよ」


そんなやりとりがあった後、僕は自室でネットサーフィンを始めた訳だけど、どうしても検索対象は「イルージョン」に関する事になってしまう。母さんも「書き込みさえしなきゃ良いから」と言ってくれていたので、色々と調べてみたのだが、全く成果が得られなかったって訳だ。


僕が再びダイニングに入って行くと、そこには母さんと香澄叔母さんがいた。萌香もえかちゃんは、祖母と一緒にお庭にいるようだ。


「樹、香澄に買ってもらったパソコンはどうだった?」

「うん。サイコーだよ。香澄叔母さん、どうもありがとう」

「どう致しまして。でも、サイコーだって言う割には、冴えない顔ね」

「うん。イルージョン関連の情報は、検索を掛けても何も出てこなくってさ」

「まあ、そうでしょうね。そういう時は英語で検索してみると違うんだけど、まだ樹くんには早いかな」


二年とはいえアメリカにいた為、僕も普通の中学生よりは英語が出来る。だけど、さすがに英語で検索を掛けようという気にはならなかった。


そこで僕は、ようやく母さんと香澄叔母さんの視線がテレビに向いている事に気が付いた。ダイニングにあるテレビは、小さめの食器棚の上に置かれた小型サイズの物だ。これより大きくて立派なのがリビングにあるけど、こっちのテレビの方がずっと稼働率が高い。


「ねえ、母さん。ハッピーアイランドの隔離の件だけど、『未知の病原体』について、何か新しい報道はあったの?」


僕の質問に母さんは、香澄叔母さんと目だけのやり取りをしている。そして僕に返事をくれたのは、香澄叔母さんの方だった。


「残念ながら、具体的な報道は何もないわね。その『未知の病原菌』については、解析に相当な時間が掛かるんだそうよ……。あ、でも、『イルージョンと合わさって人体に作用する』って事で、『ハッピーアイランドから外に出てしまえば、他の人にうつるとかは無いだろう』って報道は、されていたわね」

「へえ、そこは割とまともなんだ」

「そうじゃないと、ハッピーアイランドから避難した人はみんな、白い目で見られかねないじゃない。樹くんだって、他人事ひとごとじゃなくなるわよ」

「確かに……。じゃあ、ハッピーアイランドから外へ出る分には、自由って事?」

「まずは、病院に行く必要があるみたい」


その辺は、だいたい金森さんから聞いた通りのようだ。


「それで、ハッピーアイランドの住民に避難を促す動きとかはあるの?」

「明日から、JRが新幹線の特別車両を出すんですって。希望者は全員、タダでセンダ市に移送してもらえるそうよ。それと、今回の病原菌対策の拠点は、センダ市に置かれる事になったんだって」

「あの、香澄おばさん。ヒカリ市には新幹線なんて通ってないんだけど。それに在来線にしたって、ヒカリ市から北上する路線は、不通のままだよね?」

「そうみたいね」


そこで、ようやく母さんが口を開いた。


「ヒカリ市に関する報道は、相変わらず一切ないの。完全に忘れられてるって感じね」


問題は、それが故意かどうかだけど……。


「あ、それと、今回の新型発電所の事故で、ハッピーアイランド州からの撤退を余儀なくされた企業には、国からの補償金が出るみたい。通常、そういうのって、実際に支払われるまでに時間が掛かると思うんだけど、今回は審査を後回しにしてでも、請求があった金額を速やかに支払うって言ってるわ。国も経済への影響を恐れてるって事ね」

「でも、それって、個人への補償の方が大事なんじゃ……」

「確かに、そういう話も出てるようよ。だけど、それより避難の方が先だっていうのが、政府の見解みたい」

「ヒカリ市の住民は、その避難の対象にすらなってないとなると、本当にとんでもない話ね。これも、渡部市長が安全宣言を出しちゃったから、何もできないとか言われたら、私、マジで切れるわよ」

「なるほど、ヒカリ市には『安全宣言』が出ちゃってるんだ。それは、国も積極的に動けないかもしれないわね。『うちは安全だから、援助はいらない』って宣言してるようなものでしょう……って、お姉ちゃん、マジで怒ってる?」

「当然でしょう。本当に香澄の言うとおりだったら、私、国会議事堂に爆弾でも仕掛けてやるわ」


どうやら、僕以上に母さんの方がキレているみたいだ。



★★★



夕食の時間が近付いた頃、またしても僕に電話が架かってきた。『誰だろう?』と思って受話器を取ると、相手は今のクラスメイトの田中美佳(みか)だった。


「あ、田中さん、久しぶり」

『うーん、まだ二週間も経ってないと思うんだけど……』

「そうだっけ?」


僕にとっては、その間に色々な事があったから、本当に「久しぶり」って思ったんだけど……。


『それより、香山かやまくん、明日の午後、開いてる?』

「うん、今の所、何もないけど」

『そう、良かったあ。久しぶりに勉強会をやるんだけど、来ない?』

「えっ、勉強会?」

『具体的には、夏休みの宿題をみんなでやろうって会なんだ』

「ああ、なるほど。それだったら、分かるよ」

『場所は、うちなんだけど』


「えっ、田中さんの家?」

『うん。一応、犬飼いぬかいさん、丹羽さん、渡辺さん、杉浦さんも誘ってるんだけど……』


どうやら、女子ばっかりのようだ。それに、女子の家っていうのも……。


『あのー、香山くんに来てくれると、みんなも喜ぶと思うんだ』

「えっ、何で?」

『嫌?』

「そ、そんな事は無いけど……」


結局、僕は田中美佳に押し切られる形で、明日の午後、田中邸に行く事になったのだった。




END092


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、田中邸に行った時の話になります。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


尚、ストーリーが終盤に近付いた事で、この後、投稿のペースが遅くなってしまう事があるかと思います。大変申し訳ありませんが、ご了承下さい。


また、大変お手数ですが、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。

「いいね」のリアクションだけでも有難いです。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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