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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第十三章:焦燥(夏休み)
91/106

091:隔離された故郷(3)


僕が電話を架けた相手は、金森智哉かなもりともやさんだった。最初に会った時はフリージャーナリストを名乗っていたけど、本当はハッピーアイランド州選出の安斎あんざい代議士の第三秘書。先日、僕や母さんと一緒にハッピーアイランドのヒカリ市を訪れた人だ。

その金森さんは、安斎代議士の事務所にいたようで、すぐに電話に出てくれた。


『おや、いつきくんかい。僕に電話してきたってことは、ハッピーアイランドの隔離の件かな?』

「はい。金森さんだったら、色々と情報を持ってると思って」

『もちろん、そこそこ知ってはいるけど、それを話すかどうかは別だよ』

「あ、そういや、盗聴とかの心配もありますね」

『いや、それは無いかな。この電話は盗聴防止が施されていて安全なんだ。と言っても、そんなにヤバい事まで話すつもりはないけどね』

「僕も、そんなのは聞きたくないです」

『あはは、まあ、そうだろうね』


そんな前置きをした上で、僕は本題を切り出す事にした。


「あの、一番に知りたいのは、今、ハッピーアイランドにいる人達がどうなっちゃうかって事なんですけど」

『ああ、僕らが残してきた鯨岡くじらおか家の人達とかの事だね』


そこで、いったん金森さんの声が途切れた。

やがて、彼はボソッと『まあ、樹くんだったら言っても良いか』と呟いてから、話し出した。


『僕が政府関係者から聞き出した情報なんだが、新型発電所事故の本当の山場は、四月の終わり頃だったんだ。当時は相次ぐ余震の影響で発電所の建屋がボロボロの状態でね。いつ崩壊してもおかしくない状況だったし、使用済みの燃料棒を保管していたプールとかも、燃料棒が剥き出しの状態になっていたりして色々と大変だったんだ。自衛隊の特殊部隊が何度も決死の覚悟で突入して更なる爆発を防いだんだが、イルージョンの流出の方は続いていてね。もはや「直ちに人体への影響はない」とか言っていられる状態じゃなくなりつつあったんだ。それで政府が考えたのが、放出されたイルージョンを、できるだけハッピーアイランド州の中に留める作戦だったんだ……』


その頃、新型発電所事故の報道は、だいぶ下火になっていた。事故の報道の中心は風評被害とかに移っており、それよりも津波被害からの復旧だとか、瓦礫除去だとかのニュースが多かったように思う。


『それで、政府が極秘裏に取った作戦は、ハッピーアイランド州に微細な粉末を散布する事だったんだ。樹くんも知ってると思うが、イルージョンの粒子は空気中の埃や塵に付着して、徐々に質量を増して行く性質がある。それが一定以上に巨大化すると、あまり遠くまで飛散しなくなるんだ。これは、四半世紀前にロシアの事故を収束させる際にも取られた作戦なんだが、ハッピーアイランド州の場合、ロシアの事故の時よりも狭い範囲に大量の粉末を散布したんだ』


そう言えば、ナコヤに引っ越す前のゴールデンウィークの頃、やたらとヘリコプターが頭上を飛んでいて音がうるさかった。一緒にいた緑川瑞希みどりかわみずきが、何度も顔をしかめて耳を塞いでいたから、良く覚えている。

てことは、あのヘリコプターが、問題の粉末とかをバラ撒いていたって事なんだろうか?


「でも、そんな事をしたら、ハッピーアイランドの方は却ってイルージョンの濃度が高くなっちゃうんじゃ……」

『その通りだよ、樹くん。それで、この作戦を実施した五月以降、ハッピーアイランドのイルージョン濃度が上昇を続けて行ったんだ。当然、この作戦と並行して、政府はハッピーアイランドの住民の避難を進める計画だったんだが、自治体の対応がイマイチでね。斉藤知事は直ぐに各市町村に避難指示を出したんだが、その具体的な方法は現場任せだった。本来はテレビとかのメディアを使って住民全員に羞恥すべきなんだが、それもしない。知事は、自衛隊の協力を仰ぐ事すら見合わせた。まあ、そこに中央政府からの何らかの意図があったのかもしれないが、そこの所は僕も分からない』

「酷いですね」

『ああ、そうだよ。それでも、コオリ市やハッピー市では、自治会だけじゃなく、大半の職場だとか農協とかにも情報が行き渡ってはいたんだ。それで、職場によっては、半強制的に移動させたりもしたようなんだが、まあ、職場のトップ次第って所かな。いずれにせよ、国が非常事態宣言を出した六月下旬迄に、半数以上の人は避難したと聞いている。その後で慌てて避難した人を含めると、三分の二近くの人が避難したんじゃないかな』

「そんでも、三分の一の人は残ったって事じゃないですか」

『まあ、通常の災害時の避難だって、全員って訳には行かないからね。まして、イルージョンは目に見えない訳だし、今まで政府が「直ちに人体への影響はない」って吹聴していた訳だから、説得するのが難しかったんだよ』

「確かに、そうかもしれませんね」

『それで、問題はヒカリ市の場合なんだ。渡部市長は、四月に安全宣言を出した手前、どうしても避難しろとは言い出せなかった。その結果、彼は最悪の事をしでかした。つまり、ヒカリ市としては何もしなかったんだよ』

「そんな……」

『僕はね、渡部市長は、本当の極悪人だと思うよ。六月後半になって、その事に気付いた安斎代議士が、独自のルートで積極的に情報を流して企業とかに避難を呼び掛けたんだが、完全に遅すぎた。まあ、ここまで早く人体に影響が出るとは、僕も含めた誰もが思ってなかったってのもあるんだが……』

「えっ、そうなんですか?」

『そうじゃないと、わざわざ危険なヒカリ市に行ったりなんてしないよ。正直、今のヒカリ市の状態は、完全に僕らの想定外だったんだ。それで僕は、今回の視察の報告として安斎代議士に、自衛隊の全面協力によるハッピーアイランド住民の保護を提案したんだ。そしたら、今朝になって、いきなりハッピーアイランド州の隔離だよ』

「てことは、これから自衛隊が住民の救出に向けて動いてくれると……」

『さあ、それはどうなんだろうね。少なくとも今の所、そういった動きは無いよ。連中、まずは病原菌の調査から始めるんだそうだ』


僕は、電話口であからさまな溜め息を吐いた。


『まあ、樹くんが呆れるのは当然だろうね。僕だって、まさか政府が、「イルージョンによる未知の病原菌発生」だなんて屁理屈を、恥ずかしげもなく持ち出すなんて思わなかったよ』

「でも、これでハッキリしました。やっぱり政府は、僕らハッピーアイランド州の住民の命なんて、どうだって良いって事ですね」

『うーん……、そんでも中には、被害者を最低限にしようと思った人はいたと思うんだ。それに今でも現場には、一人でも多くの人を避難させようと、必死になって活動してる人だっている筈だよ』

「そうですか? 僕がヒカリ市に行った時は、全く見掛けませんでしたけど」

『まあ、そうだね。僕も見てないよ。救出に向かって動くにしても、たいていの人はコオリ市やハッピー市の方を優先するからね。アクセスの点でも知名度の点でも、いつもヒカリ市は二の次なんだ』

「てことは、ヒカリ市の人達は見殺しって事ですか?」

『……っ』

「しかも、今のハッピーアイランドの人達は、州の外への電話もネットも使えない状況なんですよ。情報の取りようがないじゃないですか。たぶん、今回の隔離の事だって、ヒカリ市の人達は知らないですよね?」

『……そうだね』

「かと言って、そうしたヒカリ市の人達の窮状をネットで訴えたって、直ぐに書き込みが消去されちゃうんでしょう?」

『いや、それどころか、もし君がそんな事をしたら、公安警察に身柄を拘束されてしまうだろうね』

「……何故なんです? 何で、そこまで僕らは恨まれているんですか?」

『別に恨まれてる訳じゃないよ。ただ単に邪魔だってだけだと思う。元々、新型発電事業には、様々な利権が絡み合っていてね。役人や政治家の多くが昔から甘い蜜を吸っていて、まあ、それが既得権って奴なんだが、そうした連中は、その既得権を絶対に手放したがらない。その為だったら、人が何万人、何十万人死のうが、どうでも良いと思ってる。今回は、そういった連中が徒党を組んで、ハッピーアイランドやヒカリ市の住民の排除に動いているんだ』



★★★



受話器を置いた後も僕は、しばらくの間、電話機の前で呆然と立ち尽くしていた。

金森さんの話の内容が僕の心の中で、なかなか消化できていなかったからだ。


最初に僕の頭に浮かんだのは、ヒカリ市の渡部市長、そして首都電力とそこに群がる多くの役人や政治家に対する憎悪の念だ。

でも、ただの中学生でしかない僕に、いったい何が出来る? それに、今の僕がすべき事は、そいつらを糾弾する事なんかじゃない筈……。


冷静になって考えれば、金森さんが語ってくれたのは政治の世界の事であって、今の僕にとっては雲の上の話だ。つまり、どんなに僕が憤った所で、残念ながら何もできない。今のヒカリ市で起こっている事に、この僕が解決策を考えたって仕方がないのだ。

それより僕が考えるべき事は、まだヒカリ市にいる特定の人間、緑川瑞希と鯨岡菜摘くじらおかなつみに対して、どうやって手を差し伸べたら良いかって事の筈……


そんな事をあれこれ考えている僕の所へ、二歳の萌香もえかがとてとてと走って来て、いきなり抱き付いてきた。直ぐに僕はしゃがみ込んで、彼女の頭を撫でてやる。


そういや、昔の愛奈あいなもこんな感じだったな。


そう思った途端、またもや自然と涙が溢れてきた。

そんな僕の頭を、萌香が逆にポンポンと叩く。きっと彼女なりに慰めてくれているつもりなんだろう。

まもなくして香澄かすみ叔母さんが萌香を引き取りに来てくれた。


「樹くん、さっきの電話で何を聞いたの?」


僕は、少しだけ躊躇ためらった後で、金森さんが語った事をポツリポツリと話し出したのだった。




END091


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、金森さんからの話を受けて悩む主人公の話になります。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


尚、ストーリーが終盤に近付いた事で、この後、投稿のペースが遅くなってしまう事があるかと思います。大変申し訳ありませんが、ご了承下さい。


また、大変お手数ですが、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。

「いいね」のリアクションだけでも有難いです。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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