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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第十二章: 浸食(夏休み)
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077 : 変わり果てた教室

明けましておめでとうございます!


僕は、母さんに学校へ行く事を伝える為、ひとまず僕んに戻った。

家に着くと、まだ母さんは、鯨岡朱美くじらおかあけみさんと庭に居た。二人は、昔から庭に置かれている木製のテーブルセットに座って、すっかり寛いでいる様子だ。さっき見た時は、このテーブルとかもキラキラと光ってたと思うんだけど、掃除したんだろうか? 

そう思って、何となく庭にある蛇口の方へ眼をやると、ビニールの手袋と雑巾が掛けてある。母さんも、今日と明日だけだからと、イルージョンの事は割り切って考えているようだ。


『そういや、金森さんは何処どこだろう?』と思って振り返ると、例のミモザの残骸を、一生懸命に写真に収めている所だった。僕が寄って行くと、「樹くん、これは凄いね」と言う。

その金森さんは、ミモザの残骸から三メートル程の距離を取り、口元はしっかりとマスクで覆っていた。

僕は、その金森さんに街の様子を聞いてみた。


「いやあ、想像以上だったよ。この木の残骸ほどじゃないんだけど、どこもかしこも、キラキラと輝いてて、まるでおとぎの国とでも言えば良いのかな。ほんと、こんなにイルージョンの濃度が高いと思ってなかったよ。これは、僕らも長居しない方が良いね」


金森さんの表情は、マスク越しでも分かる程に険しいものだった。


「そんなキラキラした街で見かける人は、誰もが金色に近い髪の人達ばかりなんだ。それに、誰もが妙に楽しそうなのも気掛かりだ」


つまり、緑川瑞希みどりかわみずき鯨岡菜摘くじらおかなつみ、そして、あそこにいる朱美さんだけじゃないって事だ。


「あの、市役所の事は、僕もちょっとだけ聞いたんですけど……」

「ああ、そうなんだよ。誰も、まともに仕事なんかしちゃいない。つまり、街が機能してないって事だよ。本当は、イルージョン濃度の測定もしたかったんだけど、機械のレンタルができなくてね。市役所だったらデータがあるだろうと思って期待してたんだけど、それ以前の問題だったよ」

「そうでしたか……」


それから僕は母さんの所に戻って、菜摘、瑞希、翔太しょうたの三人と学校に行く事を伝えた。

母さんからは、「そう、気を付けて行くのよ。私は、金森さんと一緒に少し街に出てみるわ」との事。すると隣に座っていた朱美さんが、「晩ご飯は、うちで一緒に食べましょう」と言ってくれた。

どうせまた地元の食材や水道水とかを使っての料理だろうけど、割り切るしかないや。僕らが持って来た食材や飲料水を使ってくれたら良いんだけど……。


僕は母さんに、「街がどんな感じだったか、後で教えて。気を付けて行って来てね」と声を掛けて、菜摘と瑞希、そして金森翔太が待っている公園に戻った。そうして、その四人で、久しぶりのセンターヒルズ南中学校へと向かったのだった。



★★★



「そう言えば、お前ら、その恰好で学校に行っても良いのか?」


ふいに、翔太が菜摘と瑞希に訊いた。その二人は、それぞれ水色と白のワンピ姿だったからだ。

僕の知ってる限りセンターヒルズ南中では、放課後や休みの日でも学校に行く時は、制服が基本だった筈。もっとも、部活の後とかだとジャージのこともあるし、震災後はいつもジャージ姿だったんだけど……。


翔太の質問に菜摘は、「うん、今は良いんだよ」と答えた。


「今はね、何だって自由なんだよ」


さっき、僕が瑞希からも聞いたのと同じだ。でも、あの頑固者の滝沢教頭が趣旨変えしただなんて、俄かには信じ難いんだけど、本当なんだろうか?


だけど、そんな疑問を僕は速攻で否定した。

どのみち、その辺の事情も学校に行ってみれば分かる筈。だったら、今は考えたって仕方がない。


僕が考え事をしながら歩いていたからか、いつの間にか三人は、ずっと僕より前を歩いていた。先頭を行くのは菜摘と瑞希で、すぐ後ろに翔太がいる。

焦った僕は、小走りで三人を追い掛ける。そうして、翔太の横に並んだ所で、懐かしい校門が見えてきた。


やがて、横断歩道を渡り校門に入る。すると、菜摘と瑞希は、いきなり校舎の方に向かって走り出した。

翔太が、「おい、待てよ」と叫ぶ。だけど、二人の少女は止まらない。

僕らの前を、ワンピース姿の金髪少女達が、軽やかに駆けて行く。午後の強い陽射しを浴びて、その背中が銀色に輝いている。その二人は、まるで天使のようだった。


「こら、待てったら!」


翔太が叫びながら、その美しい天使達を全力で追い駆けて行く。仕方がないので、僕も三人を追って走り出した。



★★★



最初に意外だったのは、昇降口で上履きに履き替えなかった事だ。菜摘と瑞希は、「上履きって何?」って感じでスニーカーのまま校舎に入って、階段を駆け上がって行く。そんな状態なのに、廊下も階段も綺麗だ。それどころか、どこもキラキラと輝いて見える。


僕らの教室に入ると、そこにはまだ十人近い生徒がいた。と言っても、男子生徒ばかりで、女子は一人だけ。えーと、たぶん佐川さんだと思うんだけど……。

でも、それより僕の関心は、教壇にいる女性にあったんだ。


「あら、誰かと思ったら香山くんと金森くんじゃない。久しぶりね。それに鯨岡さんと緑川さんも、また戻って来ちゃったの?」


そう言って僕等を迎えてくれたのは、リカちゃんこと菊池先生だ。

リカちゃんの外見は、それほど大きくは変わっていなかった。たぶん、以前から茶色に髪の毛を染めていたからだろう。でも、ちょっと痩せたようだ。それと、やっぱり肌の色が白っぽくなっている。

いや、問題は外見じゃないんだ。リカちゃんは、教卓の向こうで椅子に腰かけて、何やら缶に入ったものを飲んでいる。そして、明らかに顔が赤い。


「先生、それってビールじゃないですか?」

「そうよ、悪い? 夏と言えば、ビールに決まってるじゃない」

「でも、ここは教室でしょう?」

「良いの。今の私達は自由。それが滝沢教頭の方針よ。あの親父、最近は人が変わったように優しくなっちゃってさ……って、そんなの、どうだって良いんだけどね」


そう言ってリカちゃんは、右手に持った缶ビールを一気に空けてしまう。それを見た佐川さんが、寄って来て言った。


「先生、飲み過ぎ!」


その佐川さんが、パッと見て分からなかったのは、金髪のせいだ。それに服装はタンクトップにホットパンツ。とても、学校に来るような恰好じゃない。


「別に、良いじゃん。まだ今日は、三本目なんだもん。ねえ、香山くん。悪いけど職員室へ行って、冷蔵庫からビール、持ってきてくれなーい?」


改めて教室を見回してみると、ここにいる生徒の全員が軽装で、それぞれに好き勝手なことをしている。

男子四人はトランプに夢中で、Tシャツに短パンといった服装だ。真ん中に置かれた机の上には、コーラのペットボトルと紙コップ、そしてポテトチップスが無造作に置かれている。

その他の男子はマンガの本を読みふけっていたり、スマホでネット動画を観たり、ゲームをしてたりといった様子。それらの誰もが金髪かそれに近い髪色で、色白で痩せている。


翔太と僕は、仕方なく教室を出て職員室へと足を向けた。

その途中で、あちこちの教室を覗いてみたけど、どこも良く似た感じだった。中には、床に敷物を引いて全員お昼寝をしていたり、生徒が先生と一緒に酒盛りをしているクラスまであった。それに、生徒だけしかいないクラスもある。生徒の数は、どこも十人程度といった所……。

僕らはもう、ただただ呆れるしかなかった。



★★★



職員室の中は、雑然としていた。一応、まだ五時限目が終わっていない時間だからなのか、教員はほとんどいない。


奥の方に白髪の老人が一人、机で新聞を読んでいた。近寄って覗き込んでみると、新聞の日付は一ヶ月ほど前のものだった。端の方が既に黄ばんでしまっている。


「君たち、何か用かね?」


突然、その老人が、じろっと睨んできた。

答えてくれたのは、翔太だった。


「三年C組の菊池先生に言われて、ビールを頂きに来ました」

「そうか。そこの冷蔵庫にあるから、好きなだけ持って行きなさい」


冷蔵庫の脇には、ビールの他にも缶の飲み物が入ったカートンが幾つも積んである。

「これは……」と思わず呟くと、老人が言った。


「救援物資だよ。もっとも、ビールだけは義捐金で買ったんだがね」


その時、僕の隣に見知らぬ小柄な女子がやって来て言った。


「教頭先生、これカートンごと持ってっても良いよね?」


どうやら、この老人が滝沢教頭だったようだ。

でも、いつの間に、こんなに老けたんだろう? これも、イルージョンの影響なんだろうか?

ちなみに、金髪ポニーテールの彼女は、ピンクのビキニトップにデニムのショートパンツ姿だった。見た目は活発そうな女の子なのに、どこか影が薄いように感じてしまうのは何故なんだろうか?

ああもう、分かんない事が多すぎる!


「持ってっても良いけど、冷えてないよ」

「良いの。うちの先生、っちゃい冷蔵庫を家からち持って来てくれたんだ。うちの先生、学校に住んでるようなもんだから、家に冷蔵庫は、もういらないんだって」


その老人は、それ以上は何も答えずに、再び新聞に目を落とした。ピンクのビキニトップの女子は、重そうなカートンを両手と胸とで抱えると、ポニーテールを揺らしながら出て行ってしまった。


僕は、ビールを一本だけ冷蔵庫から取り出すと、翔太を促して職員室を出た。

全てが夢の中での出来事のようだった。でも、思い起こしてみれば、震災の後はいつだって、こんな感じだ。とても現実とは思えない事ばかりが、あの時から今までの間、ずーっと続いてる気がする。

僕は、五月の頭まで自分の居場所だった教室の前で立ち止まると、翔太と顔を見合わせて今日何度目かの溜め息を吐いた。




END077


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「変わってしまった世界」です。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


尚、大変お手数ですが、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。

「いいね」のリアクションだけでも有難いです。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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