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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第十章:転校(五月二日)
65/85

065:転校初日の出来事(1)


実を言うと、僕は転校するのが初めてじゃない。小学四年生になった時、センターヒルズ南小学校からニューヨークのニホン人学校に転校しているからだ。

だけど、ニホン人学校ってのは少し変わっていて、ほぼ全員が転校生。僕は二年間だったけど、一年しかいない子だとかもいて、入れ替わりが激しい。それと、一クラスの人数が少ない事もあって、クラスに馴染むのが割と簡単だったりするんだ。

それに海外という特殊な環境から親同士も親密になり易く、家族ぐるみの付き合いになる事が多い。つまり、学校以外でもしょっちゅう顔を合わせているから、その分、仲良くなるのも早いって訳だ。と言っても、どうしても合わない奴はいるから、全員が仲良しって訳じゃないんだけど……。


ともあれ、ニホン人学校での経験は、あまり関係ないって事だ。特に母さんの話だと、ナコヤっていうのは、とかく閉鎖的な土地柄だとも聞く。つまり、そんだけ転校生が少ないという事でもある。それに方言とかもあるから、相当に馴染むのは大変みたい。

そんな風に母さんに脅されていた事も加わって、僕は余計に緊張していた。


僕の新しい教室は、震災に遭った二年の時と同じ三階だった。それが少し不吉に思えたけど、意識して気にしないようにした。そんな事を気にし出したら、一生ずっと気にしなきゃなんなくなってしまう。

今、僕がいるのは、その教室の前の廊下。マンガやドラマで良くあるシーンのままに、緊張してそわそわしながら、関谷先生の声が掛かるのを待っているという訳だ。

だけど、先月、菅波奈々子(すがなみななこ)達が転校してきた時のリカちゃんのように、僕は待たされる事もなく割とすぐに声が掛かった。


そして、教室に一歩足を踏み入れた途端、いきなり七十もの瞳に見詰められて、僕の緊張はピークに達した。

怖い。大勢の好奇の視線に晒されるってのが、こんなに怖いとは思わなかった。まさに、心臓がバクバクして口から飛び出しそうだ。

それでも、必死の思いで口を動かした。


「ハッピーアイランド州から転校してきた香山樹かやまいつきくんよ。みんな、仲良くしてあげてね」

「香山樹です。ハッピーアイランド州ヒカリ市から来ました。宜しくお願いします」


一斉に拍手が鳴り響く中、僕は改めて新しいクラスメイト達に目をやった。

やっぱり、学ランとセーラー服だからか、教室内が黒一色で何となく不気味に感じてしまう。制服の違いだけで、こんなにも教室の雰囲気が変わるとは思わなかった。

短い挨拶を終えた僕は、指示された後ろの方の席へと歩いて行く。何となく恥ずかしくて、誰の顔もきちんとは見られない。


席に着くと、直ぐに最初の数学の授業が始まった。国語以外は全て前とは違う教科書なので、どうしても戸惑いがある。それに、授業の進み具合がまるで違う。やっぱり都会の方が早いんだと思い掛けて、ハタと気が付いた。

四月は余震で一週間休みだったじゃないか。それに学校が始まっても最初は教科書も無くて、二年生の復習のプリントしかやらなかった。だから進行具合が違うのは当たり前だ。


でも、そんな風に開き直った所で、分からないのはどうしようもない。こんな時に頼りになる委員長の青木麻衣は、もうここにはいないんだ。



★★★



休み時間になってもまだ途方に暮れていた僕に、隣の女子が話し掛けてきた。


「ねえ、香山くんだっけ。ノート貸したげよか? あ、私、田中美佳(みか)と言うの。宜しくね」

「あっ、宜しく。凄く助かる。でも、何で?」

「何か、君が困ってるみたいだったから」

「うん、前の中学、四月はあまり授業無かったんだ。こっちは授業が進んでて、ちょっと驚いちゃった」

「えっ、何で?」


僕は、そこで本当の事を言うべきかどうか少しだけ考えて、正直に話す事にした。


「えーと、新型発電所の事故、知ってるかな?」

「えっ? ああ、そう言えば、あの事故ってハッピーアイランドだったね」


彼女は、一瞬だけ意外そうな顔をしたけど、すぐに分かってくれた。

ちなみに、最近、新型発電所の事故の事は、ニュースでもほとんど報道されなくなっている。もちろん、事故が収束された訳じゃない。たぶん、その逆で、ヤバい状態だからこそ、政府は国民の目を逸らせたいんだというのが、母さんの意見だ。


「四月は、事故のごたごたで、ちゃんとした授業ができない状態だったんだ。ほとんど水とかも出なかったし……」

「ふーん、そうなんだ。大変だったんだね」


僕は、ハッピーアイランドの事は、こっちであまり言わないようにしようと決めていた。言いたくない事まで、根掘り葉掘り聞かれたくないからだ。だから、彼女の割とアッサリとした反応は、却って好感が持てた。


「あ、それで、分かんないとこあったら、気軽に聞いて良いよ」

「ありがとう。そうさせてもらうよ」


この田中美佳に対する僕の第一印象は、いたって平凡ってとこだ。身長はたぶん百六十センチくらい。どちらかというと痩せている。肩に触れるかどうかという長さの特徴の無い髪型。顔はそれなりに整ってはいる……。

強いて言えば、僕にとって、まだ見慣れないセーラー服を着ている分、若干の美少女補正が掛かっている所だけど……、それが本当に補正なのかどうかさえ、今の僕には怪しいって気がする。

ああ、やっぱり駄目だ。今の僕にはまだ緑川瑞希みどりかわみずき以外の女子のことは考えられない。もっとも、たまたま隣の席になったってだけで、僕の前の彼女と比較されたんじゃ、田中さんの方が迷惑だろうけど……。


僕は、田中美佳から借りたノートをひたすら写すことに専念した。一度には終わりそうになかったので、その後の休み時間も、昼休みも使って写した。

その間、いろんな奴が僕の席にやって来て、あれこれと尋ねて行った。僕が想定していた震災のこととか、新型発電所事故のこととかは、ほとんど聞かれない。「ハッピーアイランドって、どんな所?」という質問は稀にあったけど、多いのは僕個人の趣味だとか、「好きなスポーツは?」、「好きなアイドルは?」といった質問ばかりだ。

みんな、遠慮しているのかな?』と思ったら、違っていた。


「新型発電所の事故ねえ……」


放課後、思い切って隣の田中さんに尋ねてみると、彼女がその理由を明かしてくれた。


「あんまりピンと来ないのよね。トキオよりも向こうって行ったこと無いし、どういう所か、全く想像つかないっていうか……」


つまり、「関心が無い」って事だ。


「それよかさあ、香山くんって彼女いるの?」


突然、彼女から直球で一番に聞かれたくない事を聞かれてしまった。

『さあ、何て答えるべきか』と考えあぐねていると、田中さんの方が先回りして声を上げた。


「やっぱ、遠距離恋愛は難しいってことかな。トキオとかだったら、まだ何とかなるかもしんないけど、その向こうだと時間もお金も掛かるもんね。大人だったらともかく、中学生じゃ無理か。やっぱ、考えちゃうんだよね……。と言っても、私は経験ないから分かんないし、きっと良いお世話よね。ごめんね、余計なこと言っちゃって」


田中さんの話が途中で変わったのは、彼女が僕の顔色を見て何かを察したからなんだろう。


「香山くんって、結構、思ったことが顔に出やすい人なんだね。ねえ、前の学校でも、そう言われた事あるんじゃない?」


やっぱり、顔に出ていたようだ。


「まあいっか。話したく無い事って、誰にでもあるもんね……。あ、でも、もし香山くんが話したくなったら、私、何でも聞いてあげるよ。まあ、たまたま隣になったよしみって奴かな。別に親しくはないけど、かと言って全くの他人でもない女子って、そういう打ち明け話をするには最適だと思うんだ。あくまで私の直感なんだけど、何か、香山くんって色々とありそうだし……。もし、その気になったら、気軽に言ってね」


田中さんは、早口で一気にそれだけ喋ると、部活があるからと言って急いで教室を出て行った。


去って行くセーラー服の後ろ姿を見送った僕は、帰ろうと思って自分のリュックに手を伸ばす。

ふと窓の外に目をやると、いつの間にか今朝の雨が上がって、澄んだ青空が広がっていた。




END065


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話も、転校初日の話が続きます。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

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