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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第九章:対立(四月十八日~)
57/84

057:窓開けバトル(2)


菜摘なつみ、逃げろ! リカちゃん呼んで来いっ!」


咄嗟に僕の意図を理解してくれたのは、親友の金森翔太かなもりしょうただった。僕らの所に駆け寄った翔太は、サッと鯨岡菜摘くじらおかなつみの手を掴んだ。そして、戸惑った状態の彼女を強引に教室から引っ張り出すと、そのまま廊下を走って行った。

その直後、教室の隅で心配そうにしている緑川瑞希みどりかわみずきと目が合った。僕は彼女に『大丈夫だよ』と伝えたかったけど、彼女は僕を見詰めたままだ。


一方のオバサン先生こと猪狩いがり先生はというと、ますます怒り心頭の様子で、未だに訳の分からない事を喚き続けている。まるで壊れたオモチャみたいだと思ったら、僕は笑いが込み上げてきた。それでも、ここで笑う訳には行かない。だから、必死で笑うのを堪えたんだけど、どうやら、その努力は意味が無かったようだ。

そのオバサン先生は僕をキ゚ッと睨みつけると、甲高い声で怒鳴ったからだ。


「あんた、その不敵な笑みは何なのっ! この私を馬鹿にしてるんじゃないわよっ!」



★★★



学年主任の先崎先生が教室に入って来たのは、その直後の事だった。

その先崎は、最初から何故か酷く怒っていて、明らかにケンカ腰の態度だった。そして、その彼がターゲットにしていたのは、僕と菜摘だったんだ。

この段になって、ようやく僕は悟った。この茶番劇は、きっと最初から全てが、オバサン先生と先崎との間で仕組まれていた事なんだろう。


そして僕は、瞬時に今までの事を思い返した。そういやオバサン先生は、僕らセンターヒルズ組の仲間を順番に貶めていなかっただろうか? と言っても、今までのターゲットは女子ばかりで、その中で唯一人、泣かなかったのが菜摘。幸いにも瑞希の場合は、常に僕か翔太が一緒にいたから、まだ大きな被害には遭っていない。

てことは、オバサン先生は菜摘へのリベンジと合わせて、僕を男子の第一号に選んだに違いない。翔太よりは大人しそうだったから、きっと僕の方をターゲットにしたんだろう。あ、それと、僕がリカちゃんと仲良しだってのも、オバサン先生の癪に障ったって可能性もあるな。

だけど本当の僕は、そんなに大人しい性格って訳じゃないんだ。だって、小さい頃からずーっと、隣の鯨岡菜摘に鍛えられてきたんだから……。


どうやらオバサン先生は、今まで、僕らを糾弾するチャンスを窺っていたって気がする。その際、状況によっては、先崎にも加勢してくれるように頼み込んでいたんだろう。それが、まさに今という訳だ。

まあ、今回の件を僕らのせいにするってのは、かなり乱暴なこじつけだと思うけど……、そんでも、世間でいう置換冤罪事件のようなもんだと思えば、納得も行く。このオバサン先生にとっては、どうせ理由なんてどうだって良いんだろうから……。


「こいつかあ、教師に逆らうクソガキはっ!」


怒り狂う先崎先生の前にいるのは、やっぱり、僕だけだった。

前から僕は、この先崎って教師が嫌いではあったけど、ここまで恨まれる事をやった覚えはない。でも、日頃からストレスを抱えてる様子だったから、どんな些細な事だって、引き金になる筈。つまり、僕が知らないうちに、何かしちゃったのかも……。


『ああ、今日が厄日だ』と、僕は悟った。


ところが、その時、教室の隅から声が掛かった。


「違います。い、いつきくんは、全く関係ありません! 窓の方で何かがあった時、樹くんは廊下の側の席に座って、私とお喋りしてましたから」


声を発したのは、瑞希だった。そして、彼女の声を聞いた途端、ようやく僕は本気で焦り出した。「瑞希、黙ってて!」と言いたかったけど、その思いは彼女に届かない。

案の定、先崎は瑞希にも、「お前もグルだなあ!」と決め付けた。

しかし、その直後の事だった。他のセンターヒルズ組の生徒達から、次々と声が上がったんだ。


「香山くんは、関係ないです!」

「緑川さんの言う通りなんです」

「先生、ちゃんと僕らの言う事も聞いて下さい!」

「新妻さんからしか話を聞かないなんて、横暴です」

「何で、見てもいないのに、香山くんが悪いとか言えるんですか?」

「悪いのは、その新妻さんです。彼女がいきなり……」

「それと、矢内くんもです……」

「お前ら、ごちゃごちゃと、うるっさーい!」


そうやって怒鳴った後、先崎は僕を正面から睨み付けると、いきなり右のこぶしを振り上げて、僕の頬を殴り付けてくる。僕は、咄嗟にしゃがみ込んだ。

すると先崎は、大きくバランスを崩して前のめりになる。オバサン先生が支えようとしたものの間に合わず、近くの机の角に頭をぶつけた。

ぶつかった机が大きな音を立てて倒れた。それで回りの女子達が、「きゃあ-」と相次いで悲鳴を上げた。


オバサン先生に助けられて、よろよろと立ち上がった時、先崎の額には真っ赤な血が滲んでいた。彼の顔は、まるで赤鬼の形相だった。


ヤバい、逃げなきゃ!


僕がそう思った時には、先崎の右手がしっかりと僕のジャージの襟首を掴んでいた。

『今度こそ、殴られる!』と思った瞬間、教室のドアがパーンと開いて、微かなシャッター音がした。そっちを見ると、菊池先生が、携帯電話を先崎と僕の方に向けていた。

その直後、翔太と菜摘が教室に飛び込んで来た。


「先崎先生、私の大事な生徒に、今、何をしようとしてました?」


リカちゃんが叫んだ。今まで聞いたことの無い、凛とした大人の怒声だった。

ところが、リカちゃんに声を掛けたのは、猪狩先生の方だった。


「いったい何の真似ですか、菊池先生?」

「何の真似ですって? たった今、そこの暴力教師を、警察に告発する所ですけど」

「はあ? あなた、自分がしていることが分かっているの?」


相変わらず先崎の代わりに、オバサン先生が叫ぶ。


「ええ、良―く分かっているわよ。オバサン」

「お、オバサンですって。あんたまで……」


オバサン先生がオバサンと言われて、絶句していた。


「オバサンをオバサンと言って、何で悪いのよ。今まで私のクラスを散々引っ掻き廻してくれちゃってさ。もういい加減あったまにきたわ。毎日毎日、避難民ヅラしやがって。避難民が、どんだけ偉いのよ。ふざけんじゃないわ!」

「……っ」

「とにかく、これ以上、私の生徒達に手を触れようもんなら、あんたの髪の毛むしり取って坊主にしてやるから、そのつもりでいて頂戴っ!」


ドスの利いた低い声で、リカちゃんは、間髪を入れずに捲し立てる。その迫力に押されて、オバサン先生は声を出せない様子。

普段に見る小柄で童顔のリカちゃんからは、想像も付かない迫力だった。


「それと、そこの新妻亜紀。あんた、同級生に怪我までさせて、ただで済むと思うなよ」


最後にリカちゃんは、亜紀の方を睨んで言った。亜紀のふざけた表情が、一瞬で凍り付いた。


それから菊池先生は、まだ空いたままになっていた窓をバシッと音を立てて締めると、普段の先生の顔に戻って、みんなに言った。


「さあ、皆さん、そろそろ授業が始まるわよ。次は、私が担当する理科でーす」


菊池先生の明るい声を合図に、僕らはハッと正気に戻って動き出す。そして、倒れた机と椅子を元通りにすると、自分達の席に付いて教科書を広げた。もちろん、窓は、しっかりと閉めたままだ。


それらを呆然と眺めていた先崎とオバサン先生の二人は、僕らの教室から逃げるようにして出て行った。


だけど、この日の放課後に行われた職員会議で、結局、僕だけが謹慎処分にされてしまったのだった。




END057


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「窓開けバトル」の事後の話です。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


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