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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第八章:帰郷(四月六日~)
49/85

049 : 憂鬱な現実


翌日は、当然のように休校になった。

それでも父さんは、会社に行った。


僕は、母さんを手伝って、ダイニングを中心にした家の中の片付けをした。二度の地震で食器の数が減ってしまった事を、母さんはしきりにぼやいていた。

一階があらかた片付くと、昨日のスパゲッティとかの残りを温めて母さんと一緒に食べた。あんなに昨日は感動した料理にも、今朝は何も感じなかった。

それから、自分の部屋の片付けをした。余震が続いていた為に置き方とか気を付けていたこともあって、見た目は散らかっていても、ほとんど被害が無い。それが終わった後は、机に座って、昨日に出た宿題をやった。


その後は、もうやる事が無い。取り敢えず僕は一階に下りて、テレビのスイッチを入れてみた。

震災から一ケ月が経っているので、さすがに普通の番組編成に戻ってはいる。だけど、未だに画面の端には震災情報とかが出ていて、それが非常に鬱陶しい。それで、すぐにスイッチを消してしまった。

そうして、雨戸の無い窓から外を覗いてみると、昨日とは違って良い天気だった。僕は、瑞希を公園に呼び出そうかと思い立ち、外出の準備を始めた。その途端、母さんが飛んで来て、「お願いだから、今日だけは何処どこにも行かないで!」と喚かれてしまった。


仕方がないので、午前中はベッドに寝転がって、マンガの本を読んだりして過ごした。



★★★


そうして、遅めの昼食を再び有り物で済ませ、しばらくベッドでごろごろした午後二時頃の事だった。再び、僕らを震度六弱の地震が襲ったんだ。

震源地はヒカリ市の北西部で、マグネチュードは6.4。昨日のマグネチュード7.0の地震よりは規模が小さかったものの、直下型で震源が浅かった為に揺れが激しかったようだ。


今回の地震は外が天気だったこともあり、昨日ほどの恐怖は感じなかった。停電もしなくて、直ぐに電気も使えた。それでも、地震の揺れは強烈で、咄嗟に僕はリビングのローチェストの下に身を隠した。直下型だから、突然ドンと強い縦揺れが来る。心臓に悪い揺れ方だ。

その後で頻発した余震のどれもが同じようなタイプばかりで、言い方はどうかと思うけど、僕は遊園地のアトラクションに乗り続けてるような気分だった。あれは、短い時間だから楽しいんだ。それが四六時中続いていたら、嫌になるに決まってる。だって、トイレに入ってる時だって、突然に地震が来たりするんだから……。

ニュースによると、ヒカリ市の中央に新しい断層ができたという事だった。当分、この状態が続くかと思うと、本当にうんざりだ。


そして、それ以上にうんざりなのは、水道の復旧時期の事だ。

部屋の片付けを終えてテレビを点けると、ニュース速報が続いていて、年配のアナウンサーが手元の原稿を見ながら、工事には相当な時間が掛かる事を伝えていた。二度の激しい余震で、再び水道管がズタズタになってしまったらしい。

その後、若手の女子アナが現れて、軽い調子で『全部の復旧は、ゴールデンウィーク開けになるみたいですねー』と言う。


『被災地の皆さんは色々と大変だと思いますけど、頑張って下さいねー』


そんな事を澄ました顔で言う女子アナを見て、正直、僕は殺意さえ覚えてしまった。

今から一カ月近くも水が出ない生活をしなきゃなんないなんて、冗談じゃない。あの女子アナは、きっと自分には関係ないと思ってるから、あんな残酷な事を言っても涼しい顔でいられるんだ……。

単なる八つ当たりだとは思っていても、この時の僕には、腹の中のどす黒い感情を制御できないでいたのだった。



★★★



僕のイライラが頂点に差し掛かっていた時、一階の電話が鳴った。

少し乱暴に受話器を取ると、聞きなれた女の人の声がした。菊池里香先生だった。

リカちゃんの声は、酷く沈んでいた。

僕が『ああ、最悪だあ!』と思った時には、もう遅かった。僕は、深い海の底から聞こえるような彼女の嘆き節を、長々と聞かされる羽目になってしまった。


『学校、今週一杯休みになったよ。良かったね。嬉しい? 私、ちっとも嬉しくなーい。教職員はね、明日も出勤なの。馬鹿げてるでしょう? 水道、止まっちゃってんのにさ。あーあ、またトイレに入る度に、自分のくっさいうんちを水で流す日々に逆戻りかあ。それに、当分は温かいシャワーともおさらばって事よねえ。取り敢えずガスは出てるから、お湯を沸かして身体を拭いたりはできるけど、英語の藤田先生とか悲惨よ。ガスも出ないんだってさ。まあ、プロパンのタンクが空になってるとかのオチなんだろうけど……。どっかで電気コンロでも調達して来ないと、生きて行けないと思う。彼女、さすがに今日は学校に来てなくて……、そんでも先崎の奴はぶつぶつ言ってたけど、まずは生き残れるように、生活を立ち上げるのが先だよねえ』

「はあ……」

『それよりも心配なのは、イルージョンの方。ただでさえ短い乙女の命が、毎日蝕まれて行ってるのよ。あ、香山くん、ひょっとして呆れたりしてない? 「もう、乙女って歳でも無いだろ?」とか思ってるんじゃないの? でもね、ここにいる限り、うちらの寿命は確実に短くなって行くの。こんなこと言うと、あの教頭の奴、「そうやって、変な噂なんかに踊らされて、むやみに危険を煽るんじゃない!」とか「お前は、このヒカリ市の復興を妨げるつもりかあ!」とか怒鳴るんだろうけど……。でもさ、本当のこと言って、何で悪いのよ。ねえ、香山くんも、そう思わない? それに、「教師は聖職者なんだから、有難がって殉職して当然だ!」とでも思ってるのかしら。ああ、何で、こんな歳で死ななきゃならないの、私……』

「あ、あの、先生。まだ、死ぬと決まった訳じゃないですよね?」

『あのね、香山くん。こういう生死に関わる事ってのは、慎重すぎるくらいで丁度良いの。遠慮する必要なんて無いの。怖い時は怖いと言わなくちゃ……って、実際には、なかなか言えないんだよねえ……』


リカちゃんは、それから更に十五分以上も無駄なお喋りを延々と続けて、やっと電話を切ってくれた。



★★★



そして、いつも悪い事は重なるものである。


僕はリカちゃんから、親しい幼馴染達の青木麻衣、金森翔太かなもりしょうた鯨岡菜摘くじらおかなつみ緑川瑞希みどりかわみずきへの連絡を託されてしまった。

仕方なく僕は、順番に電話を掛けることにしたのだが、名簿順だと最初は青木麻衣だ。

そして僕は、その青木麻衣に、いきなり衝撃的な事実を聞かされてしまったんだ。


『……学校の事は、分かったわ。さっきから翔太が私んに来てるから、彼には私が伝えておくね』

「そっか。ありがとう」

『別に、良いわよ。それよりも私、いつきくんにも伝えなきゃなんない事があるの。実はね、私、引っ越すことになったんだ』

「えっ、引っ越すって、いつなんだ?」

『それが、今日なの。今日、この後すぐに車でオサカに行くの!』




END049


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「麻衣との別れ」です。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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