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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第八章:帰郷(四月六日~)
43/84

043:始業式の日


そして、再び戦場での生活たたかいが始まった。


僕らは、かろうじて日が沈む前にヒカリ市のセンターヒルズニュータウンに到着し、緑川瑞希みどりかわみずきを家に届けてから、自分んの駐車場にミニバンを停める。すると、隣の家の勝手口が開いて、白いウィンドブレーカーを羽織ってマスクをした女性が飛び出してきた。途端に、スライド式の車のドアを開けた鯨岡菜摘くじらおかなつみ愛奈あいなが飛び出して行く。

運転席から降り立った母さんに、朱美あけみさんが深々と頭を下げてお礼を言う。母さんは、「取り敢えず荷物を下ろしたら、うちに集まりましょう」と言って、まずは簡単に話を切り上げたようだった。


家の中はガランとしていた。何となく湿っぽいのは、きっと父さんもずーっと雨戸を閉めたままにしていたからだろう。

荷物を下ろすのを僕に任せて、母さんは軽く掃除を始めた。と言っても、埃が飛び散るのを避けて、掃除機は使わない。床はフローリングワイパーを使っての拭き掃除。壁や家具、窓枠とかも使い捨てのウェットシートを使って、手当たり次第に拭いて行く。


母さんが最初に拭いてくれた玄関の片隅に、僕は次々と車に積んであった荷物を下ろして行く。帰りの車内は、行き以上に荷物がギッシリと積まれていて、その大半が飲料水と食料品だ。

それ以外にも、何とか頼み込んで受け付けてくれた宅配業者に、段ボール十箱分の荷物を預けている。到着するのに一週間以上は必要との事なので、あまり期待はせずに待つことにしていた。


ある程度の作業が終わった所で、隣の鯨岡家の三人がやって来て、一緒に夕食を取る事になった。メニューは、カレーライス。カレーは祖母が作ってくれたのを、タッパーウェアに詰めて冷凍状態で運んで来たもの。ちょうど解凍されて食べ頃になっている。同じ物を瑞希にも渡してあるので、今夜は緑川家もカレーの筈だ。


朱美さんからは、生活に関する様々な情報を得た。

相変わらず、水は出ない。だけど、給水車は頻繁に来るようになった。それでもイルージョンが心配なので、飲料水はペットボトルの水を使っている。その水は、支援物資として配られた物だそうで、まだ数日分はあると言う。スーパーにも徐々に商品が戻って来ているとのことで、次はスーパーで買うとの事だ。

そのスーパーは、午後三時までの営業だそうだが、生鮮食品も徐々に出回るようになってはいるという。ただし、それらの大半はハッピーアイランド州かイーストゲート州北部で生産された物らしい。

肉類は輸入品メインだから大丈夫として、問題は魚介類だ。ナハマ港は未だに復旧されておらず、地元産の物は皆無。他の地方からの生鮮品はほとんど出回っておらず、干物とかがメインだという。母さんは、「まあ、出回ったとしても、当分は食べないけどね」と言っていた。


一番の問題はガソリンだけど、一応、朝早くから並べば問題なく入れられるようだ。しかも、今週からは満タンも可能だとの事。


「となると、やっぱり問題は水道の復旧ね。洗濯とかお風呂はどうしてるの?」

「洗濯の方は、少し遠いけどナコソ地区のコインランドリーで開いてる所があるわよ。お風呂の方は、先週から営業してる温泉が幾つかあるんだけど、どこも人が殺到しちゃって整理券方式になったのよね。その整理券も、できるだけ朝早く行った方が良いわよ」

「えっ、朝早く並ぶの?」

「そうよ。とにかく、今は何でも行列に並ばないとダメなの。ほんと、嫌になっちゃうわ」


もはや、イルージョンを避けて家に引き籠っている生活など有り得ない。生き残る為には、それなりのリスクを取る必要があるという訳だ。



★★★



翌日、僕らは学校指定のブルーのジャージの上に、各々の親達が調達したナイロン地の白いウィンドブレーカーを着て、いつもより遅い時間に登校した。


「おはよう。瑞希みずきいつきくん」


教室に入ったとたん、声を掛けてきたのは青木麻衣だった。直ぐに金森翔太かなもりしょうたも寄って来る。


「お前ら、春休みの間、同棲してたんだって?」

「違う。樹のお母さんの実家に、居させてもらっていただけ」

「分かってるって。からかっただけだよ」

「それでも、瑞希ってずっと樹くんと一緒に居られたんでしょう」

「うん。でも菜摘も一緒だった」

「そうそう。アタシと妹の愛奈も一緒に付いて行って、二人をずっと監視しててやったんだ」

「そっか。でも、この二人だったら、あんまりエッチな方向には暴走しそうに無いでしょうし、監視のしがいが無かったんじゃないの?」


僕は、余計なことを言う麻衣を睨みつけてやった。当たってるから尚更にむかつく。

久し振りに教室で会った僕等は、避難中のできごとをお互いに交換し合った。オサカの前にオキナワに行っていた麻衣は、今だに日に焼けている。翔太はトキオにいて、親戚のマンションの狭さと計画停電とで、随分と苦労したらしい。


「でも、麻衣はもう戻って来ないかもって心配したんだけど……」

「うーん、この後の事は分かんないんだけど、取り敢えず戻って来たって感じかなあ……」


翔太の前だからかハッキリとは言わなかったけど、麻衣は無理やり親に我儘を言って戻って来たようだ。つまり、近々いなくなってしまう可能性大って事らしい。てことは、翔太も薄々は分かっているという事なんだろう。


「ほらほら、もうすぐ始業式が始まるから、みんな、急いで体育館に集合よ」


菊池先生が呼びに来て、僕らは一斉に体育館へと移動を始めた。

僕らの新しい教室は、二階になった。三階は地震の被害が大き過ぎて、まだ当分は使えそうにないからだ。その為、新一年生のうちの二クラスは教室が無くて、この後この体育館に机と椅子を運び込んで授業をやるのだと言う。パーテーションで間を区切るそうだが、お互いの声が漏れて不便に違い無い。

ちなみに、その新一年生の入学式は、僕らの始業式の前に行われたらしい。その為、僕らの登校が遅い時間になったという訳だ。


教室に戻ると何故かまだ菊池先生がいて、当たり前のように出席を取り始めた。そして終わると、こんな事を言い出した。


「今年度もまた、君達の担任になってしまいました菊池里香です。よろしくねっ!」


クラスメイト達の間に、ざわめきが起きた。


「先生っ、クラス替えはどうなっちゃたんですかあ?」


さっと手を上げて、菜摘が問い質した。


「クラス替えねぇ。なんか、どの先生方も忙しくって、そこまで手が回んないんだよねえ。で、もう面倒だから今年は無しって事になっちゃった。あんたらも、その方が良いんじゃないの? この優しくて綺麗なリカちゃんと、また一緒になれるんだもんねー」 

「ちぇっ、自分で『リカちゃん』って言ってら」


高萩勇人たかはぎゆうとが呟くと、みんなで「リカちゃん、バンザーイ!」と騒ぎ出した。


「こらっ、静かに。それと私のことは、せめて『リカちゃん先生』と言いなさい。分かった? ご返事は?」


全員が一斉に、「はーい」と返事をした。もちろん、僕も歓迎だ。多少の問題はあっても、学年主任の先崎なんかよりは、リカちゃんの方が断然良いに決まってる。


こうして僕のクラスメイトは、三年生になっても二年の時のままって事になった。つまり、それは幼馴染達と一緒にいられるって事で、僕はラッキーだと思った。

だけど、避難先から帰って来なかったのが五人もいて、三十人いたクラスメイトは二十五人に減ってしまった。そして、この数字は、まだまだ減る可能性がある訳なんだけど……、いや、今、その事を考えるのは止そう……。


「じゃあ、今日は、このホームルームの後は解散になります。明日と明後日あさっても午前中しか授業はありません。教科書もありません。プリントをやるだけです。別に家でやっても同じです。でもまあ、みんなは友達とかいるから、学校に来たいんでしょうねえ……。でも、部活は当面ありません。体育の授業もありません。教室でも、ちゃんとマスクをする事。制服は着なくて良いから、特に女の子はできるだけ肌を出さない事。ちゃんと赤ちゃんを産みたかったら、私の言うこと守るのよ。自分の身は自分で守りましょう。それと、窓は閉め切りでーす。だって、イルージョンが入ってきちゃうでしょう? ほんと、暑くなってきたら、どうすんのかねえ。ああもう、考えるだけで憂鬱だわあ……」


そこで、菊池先生は、いったん言葉を区切ると、盛大な溜め息を吐いた。それから、おもむろに教壇の上で頬杖をつくと、更に投げやりな口調で喋り出した。


「それから、学校でも水が出ないので、各自、必ず水筒を持って来て下さーい。トイレも水が出ませーん。お陰で、すっごく臭いでーす。うんちは、必ず家でやってくるように。どうしてもお腹が痛くなっちゃったら、家に帰っても良いからね-。家に着くまで間に合わない人は、自分で考えて処理しなさいな……。そんじゃ、明日また会いましょう。皆さんの健闘を祈ってまーす。じゃあ、青木さん、いつもの宜しく」


「起立っ!」と麻衣が号令を掛けて、再会した中学校の初日が終わった。




END043


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「大人の事情」です。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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