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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第七章: 疎開(三月一七日)
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039:叔母達の来訪(2)


「いやあ、あんなに混んどるとは思わんかったわ」


ダイニングに現れるなり、祖父は、両手にぶら下げた大きなレジ袋二つを食卓テーブルの中央にドンと置いた。その中には、十人分のお寿司が入っている。近くの回転寿司の店で、お持ち帰りにしてもらった物だ。お寿司は叔母の香澄かすみのリクエストで、祖父が調達しに行ってくれたものの、混雑する時間帯だった為に時間が掛かってしまったらしい。


「あそこは、予約が利かんであかんのだわ」

「あら、ネットでの予約は可能だと思うわよ。私、こないだ予約したもの」

「あのね、椿つばきお姉ちゃん。年寄りがネットなんて使える筈がないでしょう?」

「こら、香澄。俺だって会社にいた時は、パソコンくらい浸かっとったわ」

「だって、お父さん、未だに人差し指だけでキーボードを打ってるじゃない」

「しょうがないだろ。年取ってから、キーボードなんて覚えられんわ」

「はいはい。私、お父さんみたいな人、会社に入ったばっかりの頃に見た事あるわよ」

「ふーん、私が会社にいた頃は、偉そうなオヤジに手書きの原稿を渡されて、良く清書させられてたわ」

あおいお姉ちゃん、それって、九十年代の話でしょう?」

「そんだけ当時は、のんびりと仕事してたって事よね」

「うん、残業はあったんだけど、当時はメールの対応で振り回されるような事は無かったわね」

「ふーん。私には想像できないんだけど、パソコンが職場に導入されて、仕事のやり方がガラッと変わったって話は良く聞くわね」

「俺は、パソコンは嫌いだ」

「お父さん、パソコン、使えないもんね」

「バカ言え。昼休みとかに、しょっちゅうゲームしとったわ」

「だから、そういうのは、使えるって言わないのよ……。あ、いつき、そろそろみんなを呼んで来てくれる?」


大人達の話をテキトーに聞き流していた僕は、母さんに「分かった」と返事して、鯨岡菜摘くじらおかなつみ緑川瑞希みどりかわみずき達を呼びに、座敷の方へ向かって行った。



★★★



叔母さん達が来た事で、何だか男女比がますます女に傾いた気がする。今ここには十一人いて、男は祖父と彩人あやとと僕だけだ。まあ、彩人くんは幼児の括りだから、実質的には祖父と僕だけなんだけど……。


「ああ、お寿司がお腹いっぱい食べられるってのは、サイコーだわ」

「バイキングなら、向こうでも、お腹いっぱい食べられるんじゃないの?」

「バッフェの事? 全然、美味しくない何とかロールしか無いわよ」

「あら、カルフォルニアロールとか、私は好きよ」

「チーズとアボカドが許せるかどうかだよね。僕は好きだけど」

「ふーん。子供は、やっぱり適応力があるって事ね」

「香澄叔母さん、僕、もう子供じゃないんだけど」

「まだ、中学生じゃない。それに、香澄さんって言ってよね」

「はいはい。叔母さん」

「むぅ。葵お姉ちゃん、樹くんがイジメるぅ」


香澄を中心に三姉妹が騒いでいるのを、祖母が窘めた。決して、僕の事ではない。

今日のメニューは、お寿司を中心に、手羽先と各種のサラダ。手羽先は椿叔母さんの手土産で、サラダだけが母さん達のお手製だ。


「もう、あんた達、うるさいよ。ほら、菜摘ちゃん達もいっぱいお食べ」

「ありがとう。あ、この手羽先、美味しい」

「そうよねえ。これ、ビールに最高なのよねえ」


そう言う椿叔母さんの手にあるのは、辛い方。一応、僕らの為に辛くないのもある。


「アメリカにもバッファローウィングってのがあるんだけど、酸っぱい味なのよねえ」

「ふふっ、あればあれで美味しいじゃないの」

「そうかしら。まあ、ビールに合うのは同じなんだけど……」

「もう、葵お姉っちゃんったら、香澄とアメリカの話で盛り上がらないでくれる。それより、震災の話をしてよ」

「こらっ、椿っ!」「あんたねえ」


祖母と母さんが、椿叔母さんの能天気な発言を同時に窘めた。すると香澄叔母さんが、さっきまでとは一変して落ち着いた声音で言った。


「まあ、椿お姉ちゃんが空気読めないのは前からだけど、ある意味、それがこっちでの常識なのかもね。要は、そんだけニホンでの報道が変だって事よ」

「香澄、何が言いたいわけ?」

「香澄まで、政府やマスコミが何か隠してるとか言うんじゃないでしょうね」


椿叔母さんと祖母が相次いで声を上げる。既にあらかた食べ終えた祖父が、静かに席を立った。祖父は、これまでに母さんから震災の話を延々と聞かされていて、もう飽き飽きといった感じなんだろう。


「……アメリカでの報道も、ちょっと行き過ぎだとは思うんだけど、ニホンに人が住めなくなるのは確定って感じなの。当然ながら向こうの関心事は、アメリカの国土への影響がどんだけあるかって事よ」

「それ、本当なの?」

「本当よ。椿お姉ちゃんの所、衛星放送でCNNとか見られるんじゃなかったっけ?」

「私が英語オンチなの、香澄だって知ってるでしょう?」

「字幕だってあるんだから、ちょっとは見てみなよ……。とにかく、こっちに来て私が感じたのは、あまりにも新型発電所事故に無関心って事なの」

「無関心じゃないわよ。未だにテレビは、震災と発電所事故の報道が続いてるじゃない」

「それはそうなんだけど……、葵お姉ちゃん、そろそろ話を変わってよ。あ、樹くんでも良いわよ」

「……はあ」


母さんが盛大な溜め息を吐いた。椿叔母さんの顔に、ますます困惑の表情が浮かぶ。いつの間にか菜摘と瑞希も、こっちに真剣な顔を向けている。

祖母は、退屈し出した幼児三人の相手をしてくれていた。



★★★



母さんと僕は、大地震が起こってからの事を、かいつまんで説明して行った。できるだけ淡々と話すように心掛けてはいたけど、どうしても所々で強い感情が漏れ出てしまう。更に、菜摘も時々口を挟んできたりして、話は思いの外に長くなってしまった。

途中で、祖母がデザートのケーキを出してくれて、それを食べ終えると祖母と幼児三人は座敷の方へ行ってしまった。

僕らが一通り話し終えると、椿叔母さんが素直に「ごめんなさい」と謝ってくれた。


「私、そんなに深刻な事になってるだなんて思ってなかったの」

「まあ、一番大変なのは、物流が滞っている事ね。水と食料が来ないと、どうしようもならないわ」


そこで瑞希が声を上げた。


「いや、救援物資とかは来てるんです。ただ、ガソリンが無いから配りようがなくて」

「それで、みんな、こっちに来ちゃったって訳ね」

みんなじゃないわよ。この子達の両親とか弘道ひろみちさんは、まだヒカリ市にいるの。まあ、七割以上の人は避難しちゃったみたいなんだけど」

「そうなのね」


「弘道」というのは、僕の当sんの名前だ。

その時、ダイニングの引き戸がガラガラと開いて、祖母が入って来た。

その祖母の「そろそろ子供達、お風呂に入れてやった方が良いんじゃないかい?」という声を受けて、急に話題がお風呂の事になる。

確かに今日は人が多いから、どんどんと入らないと後の方の人は夜遅くなっちゃう。既に祖父が一番風呂に入っているそうだ。


「アメリカだと、ベッドルームにはたいていバスとトイレが付いてるから楽なのよね。ニホンは本当に不便だわ」


そんな香澄叔母さんの言葉に、椿叔母さんがあからさまにイラっとした感じだったけど、母さんが「まあまあ」と取りなして、入浴の順番を決めて行く。それが一通り決まった所に、愛奈あいな萌香もえかちゃんと一緒にやって来て言った。


「愛奈、萌香ちゃんと一緒にお風呂に入るぅ」


そこに祖母から、「お祖父じいさんが風呂から上がったから、香澄、早く入りなさい」と声が掛かった。


「じゃあ、萌香の事は愛奈ちゃんに頼もうかしら」

「でも、愛奈ちゃんと二人だと、ちょっと心配じゃない」

「葵姉さんの言うのももっともね」

「あ、アタシが一緒に入ります」


菜摘が申し出てくれた事で、ちょっと窮屈ではあるけど、愛奈と萌香の入浴を任せる流れになった。

すると、そこに彩人が瑞希の手を引いてやって来た。


「ボク、お姉ちゃんと一緒が良い~」


どうやら、彩人は瑞希と一緒にお風呂に入りたいという事らしい。


「ふふっ、瑞希ちゃんは男の子にモテるのねえ」

「じゃあ、ちょうど良いから、お願いしようかしら」


椿叔母さんが了承した事で、瑞希と彩人は菜摘達の次に入る事になったのだが……。


「だったら、樹くんは、久しぶりに私と一緒に入ろっか?」

「あらあら、樹くんだって、モテるじゃないの」

「あの、人妻に言われても嬉しくないです……、てか、香澄叔母さんも椿叔母さんも、からかわないで下さい」

「そう言う樹くんだって、本当は彩人が羨ましいんでしょう?」

「あ、いや、そんな事は……」

「あはは。そんなの当然だよねー。彼女ちゃんなんだから」

「樹くんも、いつの間にか男の子になっちゃったのよねー。お姉さん、淋しいわあ」

「あのー、僕は前々から男なんですけど」


そうやって僕が弄られているのを、少し離れて所で彩人と手を繋いだ瑞希が、じーっと見ていたのだった。



★★★



やがて、瑞希と彩人が風呂から上がった気配を察した椿が、急いで脱衣所に入って行った。その後、彩人は椿に連れられて、布団を敷いてある奥の座敷へと向かったようだった。

僕が母さんに促されて脱衣所に入ると、パジャマ姿の瑞希が髪の毛を乾かしていた。


「あ、樹くん、すぐに場所を開けるね」

「別に、ゆっくりでも良いよ」

「そう。ごめんね」


瑞希に謝られたものの、僕は瑞希と一緒にいられて嬉しかった。


「彩人は、どうだった? 大変じゃなかった?」

「彩人くん、良い子だったよ。頭も洗ってあげたんだけど、ちゃんと大人しくしてた」


それから瑞希は、一泊置いてから、僕の方に向き直って言った。


「あのね、樹くん。彩人くんって、私達が最初に出会った頃の樹くんとそっくりなの。私、あの頃に樹くんと一緒にお風呂に入ったの、思い出しちゃった」


そう言って、少し恥じらいがちに笑う瑞希の顔を、僕は複雑な気分で眺めたのだった。




END039


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「風評被害」です。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


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(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

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また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


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