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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第七章: 疎開(三月一七日)
33/86

033: 脱出の翌朝(1)


翌朝、僕が目を覚ましたのは、午前八時を過ぎてからだった。『寝坊したな』と思いながら、急いで顔を洗い、着替えてからダイニングに入って行く。すると、母さんは既に起きていて、祖母ばあさんと一緒にテレビを見ていた。

僕が二人に「おはよう」を言うと、母さんがボソッと、「あら、ようやく起きたのね」と言った。それで僕は何気なく、「何か、動きがあったの?」と訊いた。もちろん、新型発電所の事故の事だ。


「なんか、首都圏の水からイルージョンが検出されたみたいよ」


僕は慌ててテレビ画面に目をやったけど、そのニュースは既に終わっていた。


「僕らの所は水が出て無いんだから、水から何が検出されようと関係ないんじゃない?」

「だから、首都圏の人達が騒いでるってわけ。政府は今回の事故で従来の基準値を大幅に引き上げたんだけど、今回検出されたイルージョンの濃度は、その基準値をも大きく超えちゃったみたいなの。政府だって、ここまで高い濃度が検出されるなんて想定外だったんでしょうね」


母さんは、独り言のように言っていた。

僕は、話題を変えた。


「えーと、みんなは、まだ起きて来ないの?」

瑞希みずきちゃんなら、洗面所にいるから声をかけてきたら。あとの二人は、まだ寝てるわ」


それで、早速、僕が席を立とうとすると、引き戸がガラッと開いて緑川瑞希が入ってきた。


「あ、いつきくん、おはよう」

「おはよう。どう、眠れた?」

「だいぶ」


瑞希の髪は、きちんと梳かしてある。昨夜の三回のシャンプーのおかげで、ツヤツヤの黒髪だ。

母さんは既にご飯を食べたと言うので、僕は瑞希と一緒に朝食を取ることにした。

相変わらず、出された物の何を食べても旨い。


「このお味噌汁、美味しい。赤味噌って、私、初めて食べた」

「そうでしょう? アサリとは良く合うわよね」

「こんなにご飯が美味しいと、太るから困っちゃう」


どうやら、瑞希も僕と同じ様に感じているらしい。


「大丈夫よ。食べ盛りなんだから、たくさんお食べ」


祖母さんが、笑顔でそう言ってくれた。瑞希も笑っている。改めて僕は、『ここは、平和だな』と思った。


「おっはようございまーす!」


突然、鯨岡菜摘くじらおかなつみの無駄に元気な声が響いた。『うるさいのが来たな』と思っていると、その後ろからちょこちょこと愛奈あいながやってきて、いきなり僕の首に纏わり付いてきた。


「お兄ちゃん、おはよう」

「あんたって、樹の妹だっけ?」


菜摘が首を傾げてみせるけど、ちっとも可愛くなんてない。

そこで母さんから、「あら、菜摘ちゃんだって、樹と兄弟みたいなもんじゃない?」というツッコミが入った。


「それなら、アタシは樹のお姉さんだね。なっ、弟?」


そう言って肩を叩く幼馴染の頭は、いつもどおり寝癖だらけだった。

僕の隣の席では、瑞希がケラケラと笑っている。


「あらまあ、仲の良いお友達だこと」


祖母さんが呆れた顔で言って、既に席に座っている愛奈の所にご飯と味噌汁を持って行く。母さんに、「早く座って」と言われた菜摘は、またも「ハーイ」と元気よく返事をして、僕の瑞希とは反対側の席に腰を下ろしたのだった。



★★★



食事後は、みんながダイニングに留まってテレビを見た。と言っても、震災関係のニュースばかりで、今は計画停電の事。首都圏の人達は、相変わらず計画停電で苦労しているらしい。


「ねえ、お兄ちゃん。ここは電気があるのに、何でトキオの方は電気が足りないの? 何でトキオの人達に電気を分けてあげないの?」


愛奈が素朴な質問をした。


「それはね、簡単にはできないからなんだよ」


僕は、五十ヘルツと六十ヘルツの違いを、愛奈ちゃんに説明してあげることにした。


「ニホンの電気には、二つの種類があるんだ。トキオの電気とナコヤの電気は、同じじゃないんだよ。だから、変電所と言う所で電気を作り変えないと、トキオの人達には渡せないんだ」

「ふーん、何だか難しそう。じゃあ、何でトキオの人達は電気が足りなくなっちゃったの?」

「それは、新型発電所の事故のせいだよ。新型発電所で作った電気は、ハッピーアイランドで使うんじゃなくて、全部トキオとかの首都圏の人達が使うんだ」


僕がそう言った所で、突然、菜摘が口を挟んできた。


「えっ、そうだったの? それって随分と勝手な事じゃない。トキオの人達って、自分達が使うものを危険だからって、うちらの近くで作ってたって事?」


菜摘は、頬を膨らませてプンスカと怒っている。


「だったら、電気が足りなくなって良い気味じゃん」


そこで母さんが、「新型発電所の事故から、首都圏の人達の関心を少しでも引き離しておく為に、わざとニホン政府が計画停電を演出した」という疑惑について話した。「本当は、首都圏でも電気は足りているんじゃないか?」ということだ。


「これは私の考えじゃなくて、ネットでそういう書き込みが多いということだからね」


母さんは、怪訝な顔をする祖母ばあさんに、そう説明した。


「ネットって所には、変なことが書いてあるんだねえ。でも、『噂には惑わされないように』って、テレビで何度も注意されとるんじゃなかったかい?」

「あのね、お母さん。ネットに書かれた事が、全て嘘って事じゃないのよ。ネットの方が正しい事だって、いっぱいあるの」

「そうかねえ、テレビのニュースだけ見とれば、大丈夫な気がするんだけどねえ。毎日、あんなに報道されているんだし……」


そのテレビでは、「何故、新型発電所の事故が起こったか?」について、専門家を名乗る首都電力の人が説明していた。


『なんたって、十五メートルの津波ですからね。そんな規模の津波は「想定外」ですよ』


『じゃあ、何メートルの津波を想定していたんですか?』と司会役の女子アナが訊くと、『五メートルです』と言う。


『本当に、地震そのものの影響は無かったんでしょうか?』

『基本的には、無いと思っています。充分な耐震設計がされていましたからね。でも、全ての電源が無くなる事態は、始めから想定されていませんでした。今回の大地震は千年に一度なんですから、仕方ありませんよね。ハッピーアイランドには大きな地震が今までほとんど起きてこなかったし、今後も起こらないとされていた所なんですよ。それが、いきなり震度七だなんて、いくらなんでも「想定外」です』


専門家が「想定外」を口にする度に、却って僕には不信感が募った。発電所のあった所は、ヒカリ市も含めて震度六強であって、震度七ではない。それに、十五メートルの津波というのは、そんなに珍しいんだろうか? 最近は、インドネシアとかでも大きな津波が起こっている。津波大国のニホンで、たった五メートルの津波しか想定してないのって、何だか変じゃないだろうか?


「この人の話を聞いてると、『今まで散々聞かされてきた「絶対に安全です!」って言葉は、いったい何だったのっ?』て言いたくなるわね」


母さんのコメントには、みんなが一様に頷きを返す。さっきから母さんの言動に呆れた目を向けていた祖母ばあさんでさえ、この事には賛成のようだ。


「だから、『絶対』なんて言う人は、たいてい嘘付きなんだよ」


前にも聞いた菜摘の言葉が、今は心にストンと落ちる気がしたのだった。




END033


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「脱出の翌朝」の続きです。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

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