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104:僕らがいる世界


トキオで僕が二度目の入院をしている間に、政治の方では色々と変化があったようだ。


まずは、ハッピーアイランド州での「未知の病原菌」による被害拡大の責任を取る形で、菅野首相が辞任を発表。後任として他派閥出身の野村首相が誕生した。

当初、菅野首相は「未知の病原菌」のハッピーアイランド州への封じ込めに成功した事を大きな成果として国民にアピール。対策を誤れば全国に甚大な被害が出る所だった事から、一時は英雄としてもてはやされたが、ハッピーアイランド州選出の安斎あんざい代議士が、同州を壊滅的被害に追い込んだ元凶として糾弾。合わせて、政府の過剰な情報規制により避難活動が正しく行われなかった事を暴露した。

更にマスコミが、「今回の菅野首相の対応の背景には、ハッピーアイランド州住民への歴史的な差別意識が背景にあった」との報道を行い、それを安斎代議士が取り上げた事で国会の場が騒然となり、菅野首相の辞任へと繋がったとの事だ。


僕は、そこら辺の詳細情報を、オサカに戻っていた青木麻衣から電話で聞かされていた。


『つまり、いつきくん達は安斎代議士の策謀の一端を担ってたって訳なんだよね。と言っても、安斎代議士が純粋にハッピーアイランド州の住民をないがしろにされて、頭にきてたってのもあるみたいなんだけど』

「でもさああ、それだったら、もっと早く住民を避難させて欲しかったよなあ」

『私がリカちゃんから聞いた話だと、知らなかったって事だよ』

「えっ、知らなかったって?」

『安斎代議士ご自身も秘書官達も、七月になって、のっぴきならない状況になるまで、ハッピーアイランドがどうなってるのか本当に知らなかったみたい。私も正直、「それって、どうなの?」って思わなくもないんだけど、その頃は金森智哉かなもりともやさんも別件で奔走してて、地元には全く帰ってなかったって話なの』


実際、僕自身も金森さんからは、似たような話を聞いている。だけど、あれだけの災害が起こっているのに、そこの選出の代議士が地元の状態を知らなかったって、いったい、どういう事なんだろう?


「あ、誤解があるみたいだから言っとくけど、震災直後から四月中旬辺りまでは、安斎代議士も何度か地元に帰ってたみたいなの。だけど、その後で菅野首相から、何やら重要案件を任されたみたいで……。今になって考えてみると、そこにも策謀めいたものを感じるわね」


ちなみに安斎代議士も金森智哉さんも、地元はコオリ市でヒカリ市ではない。その為、震災直後にコオリ市には何度か足を運んでいても、ヒカリ市に行ったのは一度だけのようだ。その時の目的は、当然、津波の被害状況の視察だったという。


『まあでも、安斎代議士だって後ろめたい思いはあったんだろうね。それで今回の件に関しては、なりふり構わず首相を糾弾したんだと思う。それと同じ思いが、たぶん金森さんにもあって、樹くんの二度目のヒカリ市来訪にも、全面的に協力してくれたんじゃないかな』

「そっか……。あ、そういや、マスコミが暴露した『ハッピーアイランド州住民への歴史的な差別意識』って奴、今回の隔離対象から除外された西部地域の事だよな?」

『そうなんだけど、その事でハッピーアイランド州全体を蔑視する人がいるのは確かだよ。たいていの人は、歴史の細かい事なんて知らないもんね。まあでも、それより、ハッピーアイランド州西部地域の人の、自分達を征伐した人達に対する恨みの方が強いみたいだけど』

「それって、もう百五十年近く前の話だよな」

『うん。まあ、そんだけ根深い恨みって事だよ。ほら、未だに海の向こうの国の人達って、ニホンに損害賠償とか求めて来るじゃない。それとおんなじ事……。それよりも私は、これから元ハッピーアイランド出身ってだけで、結婚とかで差別されたりしないかって事が心配。特に女子にとっては、深刻な悩みだと思う』

「別に麻衣は関係無いんじゃないか? 翔太しょうたがいるんだし」

『もう、いきなり何てこと言ってんのよっ!』


最後で麻衣は珍しく照れて、いきなり電話を切ってしまった。



★★★



青木麻衣は、来春にトキオの私立高校を受験する事で、両親を説得したらしい。もちろん、金森翔太も同じ高校を受験する事になっていて、もしも二人が合格したら、一緒の高校に通える事になる。もっとも、麻衣は特進科で翔太は普通科って違いはあるんだけど、そんなのは二人にとって些事でしかないだろう。

実は、それだけじゃないんだ。翔太の情報によると、その私立高校の教壇に「リカちゃん」こと菊池先生が、この九月から立つ事になったというのだ。

早速、僕はリカちゃんに電話を架けた。


『いやあ、高校の教員免許も取っといて、本当に良かったわあ』

「てことは、翔太の話は本当って事ですね?」

『そうよ。やっぱ、私みたいな美人教師は得よねえ。一回の面接だけで合格しちゃうんだもの』

「あの、僕は麻衣から、安斎代議士のコネだって聞いてますけど」

「うーん、まあ智哉さんの紹介ってのは、事実なんだけど……」

「やっぱり、コネじゃないですかあ」


それより僕が心配だったのは、リカちゃんの髪の毛や瞳の色が、どういう風に評価されたかって事だったのだが……。


『あ、それは大丈夫。元ハッピーアイランド州の避難民で金髪碧眼の人って、結構いるみたいでね。社会的に認知されてきてるらしいの。だから、香山くんも学校に復帰した時、いきなり先生に髪の毛の事で怒られたりはしないんじゃないかな。まあ、生徒には騒がれちゃうと思うけど。香山くんって、割とカッコ良いから、私みたいにモテモテかもよ』

「えっ、先生、マジでモテモテなんですか?」

『えへへ、実はさ。五つも年下の子から今日も食事に誘われちゃって……』


どうやらリカちゃんは、相当に浮かれているようだ。



★★★



ヒカリ市であれほどの災厄に見舞われても、何故かハイテンションのリカちゃんだけど、菅波奈々子(すがなみななこ)の事は気掛かりらしい。彼女は未だに入院中だし、それに他の家族全員が津波に攫われてしまって、今は孤児だって事もある。


「あの、菅波って、確か小学校教師の叔母さんがいましたよね?」

『菅波玲子さんでしょう? 今は、ノースイースト州のセンダ市にいるみたいよ』

「てことは、退院したら菅波は、センダ市に行くんですか?」

『それなんだけど、私のアパートに住まわせて、うちの高校に通わせようって話もあるのよねえ。一応、知ってる人がいた方が良いだろうし……。まあ、センダ市には元ハッピーアイランドの住民が大勢いるみたいだから、そっちで友達を作るって事も出来るとは思うんだけど……』


だけど、菅波は人見知りな所があるから、リカちゃんや麻衣が一緒の方が安心って気がする。問題は東京での生活費と進学費用の面だけど、それこそ金森さんのコネで震災孤児への支援機だとか奨学金だとかが貰えて、何とかなりそうとの事だ。


『菅波さんの事は、まだ時間があるから、じっくりと本人に考えさせるわ。それより、香山くんの方だけど、大丈夫そう?』

「ええまあ、入院中に勉強の方はしてましたし……」


そうなのだ。ようやく僕も来週から学校に復帰する事になる。一応、ナコヤに戻ってから田中美佳(みか)に会って、学校の事をあれこれと訊いてみたりはしたけど、彼女の返事は意外と曖昧なものだった。


「うーん、それは、実際に行ってみないと私も分かんないかな。たぶん大丈夫だと思うけど……」


その後で美佳は、「まあ、樹くんにとって、悪い事にはならないと思うよ」と、少し投げやりに言った。それで僕は、逆に少し心配になったんだけど、まあでも、なるようになるしかない。


ともあれ、こっちの世界へ無事に戻って来た僕に、ようやく穏やかな日常が訪れようとしていた。




END104


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


もう少しエピローグが続きます。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


また、大変お手数ですが、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。

「いいね」のリアクションだけでも有難いです。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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