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3.レヴィ

 嫌がるヒイロを先生のもとへと毎日引っ張っていくのが、護衛騎士としてのレヴィの一番の仕事といってよかった。

「やだよう……先生に会いたくない……絶対怒られる……」

「挨拶に行かないほうが怒られるって」

 先生とはヒイロに儀式のいろはを叩き込んだ人物で、秘伝の舞の継承者でもある老齢の女性だ。ヒイロに対してあなたには思慮深さというものがありませんと散々注意しているのを見ていて、たしかにと内心同意してしまってからレヴィは彼女には好感を持っていた。厳しすぎる指導のせいか、ヒイロはくそばばあといつも文句を言っていたが。

 そういうわけでこの半年間、怒り狂っていたり半べそをかいていたり、色んな状態のヒイロを先生のもとへと引っ張って行ったものだが、儀式は昨日終わったというのに今日もまた同じことをしていると思うと再び笑いが込み上げてきてしまって、レヴィは慌ててすました顔を取り繕った。

 儀式の成功から一晩明けて、城には安堵の空気が流れるはずだった。ところに、ヒイロが元の世界に帰らなかった事実が広まって、それらは困惑に上書きされた。まあレヴィたちのような末端はヒイロが帰らなかった理由を知れば完全なる他人事として爆笑で済ませられるが、上のほうの偉い人たちは今頃ヒイロの今後の扱いについて頭を悩ませていることだろう。

 不本意ながらこの世界に残ることになってしまったヒイロが、「これからどうしよう」と捨てられた子犬みたいな顔をしていたので、

「とりあえず、先生に直接事情を話しに行くべきだ」

 と、もっともらしい顔でさらに追い打ちをかけて絶望の叫びを密かに楽しみつつ、先生のいる神殿の建物へと向かっている最中だった。昨晩は儀式のあと、自分の勘違いを知ったヒイロが泣き出してしまい、いったんお開きになってしまったので、先生も混乱しているはず。ヒイロもそれはわかっているのか、イヤイヤ言いながらも比較的おとなしく引っ張られている。

 レヴィは今、自分でも自覚できるほどに機嫌がよかった。ともすれば歌い出しそうになるのを、心の中で自分の歩数を数えて抑えている。まさか目の前でこんな後世に語り継がれるレベルのバカを見られるなんてというのも理由の一つだが、

「やだーやだやだー怒られる―」

 握った手の先で、昨日までのようにだだをこねるヒイロがまだ存在していること自体奇跡のようなものだからだ。

 本当なら昨日の夜、女神が消えると同時に彼女も消えていなくなるはずだった。誓って言うが、みんななにもわざと教えなかったわけじゃない。聖女の一番の望みというのは常に元の世界に帰ることで、全員そうやって役目を果たして帰っていった。だから今回もそうなるものだと誰も疑わなかっただけなのだ。

 レヴィもそう思っていたから。

 だから何も言わずに諦めるつもりだったけど、そうじゃないならもう何も遠慮しなくていいよな。

 地面に線を引くための道具みたいになったヒイロを引っ張りながら、後ろからは絶対に見られないのをいいことにレヴィは少しだけ口角を上げた。


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