興味本位で、、、
学校から、帰ろうと下駄箱で靴を履き替える。
今日は、雨が降っている。
生徒達は、持参した傘を差し徐々に帰宅していく。
傘を忘れた生徒が居た。
雨は雨でも、今の雨は土砂降りだ。
傘を差さずに、帰宅は躊躇してしまう。
朝は、晴れていたが昼過ぎから雨が降り始めた。
天気予報で、昼過ぎから雨が降るので傘を忘れずにと言っていた。
きっと、この青年は天気予報を観ないタイプなんだろう。
何となく気になってしまったので
私は、その青年を観察する事にした。
私の名前は、尾野 さやか。
笠美ヶ原高校に通う二年生だ。
髪型は黒髪ロングストレート。
友人は人並みに居る。
自分で言うものではないが、顔は可愛い方だと思う。
この学校には、とある噂がある。
『雨の日に傘を忘れ下駄箱で立っていると…が現れ傘を貸してくれる。」
これだけ聞けば、親切な人の噂話である。
だが、この噂には続きがある。
『その傘は呪いの傘』だと。
傘を貸してくれる人を『…』と呼んでいるのには理由がある。
人によって、貸してくれた人の姿が違うのだ。
友人、教師、用務員等だ。
それに、これはあくまでも噂なのだ。
何故なら、傘を借りた人以外の目撃者が居ない。
何故、呪いの傘と呼ばれているのかは私は知らない。
まだ、この噂には続きがあるのかもしれない。
私が、青年を観察しているのは何となくだと言ったが
この噂を目の当たりに出来るかもしれないという気持ちもある。
そんな事を考えていると、下駄箱には
私とその青年の二人だけになった。
恐らくだが、青年は私の一個下だ。
同級生には見えない。
ましてや、年上にも見えない。
見た目は、大人しそうな感じで
髪型はマッシュルーム。
背は低め。
陽キャか陰キャかと言われたら
絶体、陰キャだ。
そんな事を考えていると
青年に近づいていく人影があった。
噂の『…』なのかと内心ドキドキしている自分が居る。
顔が見えた、、、
が私の知らない人物だ。
青年の知り合いだろうか?
手には、青い傘を持っている。
青年と何か話しているようだが
流石に、距離が遠すぎるので会話までは聞こえない。
会話は聞こえないが、表情程度なら見れる。
青年は、親しげに話している。
やはり、知り合いの様だ。
だが、『…』かどうかは分からない。
下駄箱で友人を待っていたという可能性もあるからだ。
呪いの傘の噂は知っているが
傘の色までは知らない。
そうだ、知らないのだ。
私が青年を観察していたのは、『…』の噂を目の当たりにする為。
では、どうやって『…』だと判断するのか。
その重要な要素を何も知らないのに判断出来るわけがなかった。
私は、無駄な時間を浪費しただけだった。
その事に気づいた私は、家に帰ろうと思い
下駄箱の玄関に歩こうとした。
次の瞬間、耳元で
「次は、君の顔が欲しいな」
と誰かが囁いたのだ。
私は、すぐに後ろを振り返った。
誰も居ない。
周りを見渡しても誰も居ない。
さっきまで居た青年とその友人?も消えていた。
声が聞こえる直前までは、居たのだが、、、
急に背筋に悪寒が走った。
考えすぎかもしれないが、青年は消えたのではないか。
そして、次のターゲットは私なのかもしれない。
私は、あまりの恐怖に下駄箱の玄関に向かって走り出した。
一秒でも早くこの場から逃げたい一心で、、、
下駄箱の玄関を出る直前 後ろを振り返ってしまった。
下駄箱の奥の廊下に、消えた青年が居た。
その隣には、友人と思われる青年も。
こちらを見ながら、手を振っている。
だが、違和感があった。
違和感が何かは分からない。
一言で言うなら、『不気味』
私は、振り返った事を後悔した。
私の全身を、恐怖が襲ってくる。
傘も差さずに、土砂降りの雨の中
家まで走り続けた。
走っている間、頭の中は最後に見た青年二人の姿。
脳裏に焼き付いて離れない。
冷たい雨が、私の全身を打ち付けてくる。
傘を差すには一度足を止めないといけない。
だが、足を止めるのが怖い。
追って来ているかもしれない。
耳元で囁いた謎の声もある。
私は、一度も足を止める事無く走り続けた。
やっとの思いで、家の前まで辿り着いた。
玄関のドアノブに手をかけようとした。
その時、背後から視線を感じた。
私は恐る恐る後ろを振り返った。
そこには、青い傘を差した青年が立っていた。
恐怖で私は頭を抱えしゃがみ込んで叫んだ。
「ぎゃあああああああああああああ」
と。
目の前の玄関が思いっきり開いた。
家の中から、妹が驚いた表情で飛び出してきた。
「お姉ちゃん!?大丈夫!?何があったの?」
妹は、私の背中を擦りながら聞いてきた。
「後ろに、、、」
私は、何とか声を絞り出し指だけを後ろに向けて差した。
その手は、震えていた。
「後ろに何かあるの?何もないよ、お姉ちゃん」
そんな筈はない。
そう思った私は、後ろを振り返った。
そこには、青年の姿は無かった。
見間違いだったのだろうか、、、
そんな事を考えていると、妹が私の体を支えながら
家に入っていった。
「・・・ちゃん。・・ねえちゃん。お姉ちゃんってば」
妹が私の事を呼んでいる。
ゆっくり目を開ける。
天井が見える。
体を起こし周りを見渡す。
ここは、リビングか。
何故か、ソファの上で横になっていたらしい。
私は確か、、、
玄関の前で、青年を見て叫んで
妹が出てきて青年が消えた。
その後は、思い出せない。
頭が酷く痛む。
あまりの痛さに頭を押さえる。
そんな私を、心配した表情で妹が見ている。
「お姉ちゃんどうしたの?何かあった?
傘を手に持ってたのに全身びしょ濡れだし
玄関前で叫んで家に入った瞬間気を失うし
帰って来てから様子が変だよ?」
そうか、私は気を失ったのか。
妹に言われて知った。
じゃあ、ここまで私の事を運んでくれたのか。
申し訳ない事をしてしまった。
妹の名前は、尾野 美雪。
中学二年生だ。
髪型は私と同じ黒髪ロングストレート。
顔はかなり可愛い。自慢の妹だ。
お姉ちゃんっ子だ。
両親は、共働きで、あまり家には帰って来ない。
基本、家には美雪と二人きりだ。
私が中学生になった時から二人きりの生活をしている。
二人の時間が長いからなのか
私と美雪は仲良し姉妹で近所では有名だ。
美雪に今日の出来事を話そうかと思ったが
変に心配させたくないのと、嘘みたいな話で信じてもらえる自信が無い。
だから、私は美雪を心配させない為に嘘をついた。
「美雪、ごめんね。もう大丈夫だよ。
傘差してたら壊れちゃって走って帰ってきたんだよ
叫んだのは、理由忘れちゃった」
苦し紛れの発言だが何とかごまかせただろう。
そう思ったのも束の間
美雪はスッと立ち上がると玄関の方に歩いて行った。
どうしたのだろうと思ったのだが
戻ってきた美雪の手には私の傘が握られていた。
そして、美雪は傘を開いた。
当然だが、傘は壊れてはいない。
傘を閉じ美雪が無音で近づきこう言ってきた。
「お姉ちゃん、何で私に嘘つくの?
何かあったのならちゃんと言ってよ!!
私は、何があってもお姉ちゃんの味方だよ?
今までだって、色々二人で乗り越えてきたじゃん
だから、、、頼りないかもだけど頼ってよ」
それを聞いた私は、張り詰めていた糸がプツンと切れ泣き出した。
そして、泣きながら下駄箱から家に帰るまでに
起きた出来事を美雪に全て話した。
話を聞き終わった美雪は
私の事をギュッと抱きしめ
「怖かったよね」と何度も言った。
どちらが姉なのか分からない状態だが
何があっても私には美雪が居る。
その事を強く感じられた。
その後、私は濡れた体を温める為にお風呂に向かった。
お風呂でシャワーを浴びながら青年の事を考えていた。
私が、玄関前で見た青年は青年だったのか。
興味本位で踏み込むべき噂ではなかった。
私のせいで美雪まで巻き込む事になるかもしれない。
美雪は、何としても守る。
私はそう決意した。
「君に逃げ場はないよ」
また、耳元で囁かれた。
下駄箱の時と同じ声だ。
今回は、私は全く動じなかった。
夜は、美雪と一緒に寝た。
やはり、あんな事があったので一人で寝るのが怖かった。
~次の日~
登校しクラスに着いた。
教室に入ってすぐ噂好きの友人が飛びついてきた。
「さやか!知ってる??昨日また出たんだって」
彼女の名前は、相川 栞。
中学生からの付き合いだ。
噂が三度の飯より好きと豪語している。
黙っていればモテる顔なのに
喋ると残念な美女だ。
一緒に居て楽しいので私は良いが
勿体ないなと思う。
さて、そんな栞がまた出たという話は
十中八九『…』だろう。
だが、私がその場に居た事は伏せる事にする。
巻き込みたくはないから、、、
「栞、興奮しすぎ。また出たって何が出たの?」
私は、分かっているけど分からないフリをした。
だって、体験するまでは只の噂話だと思って
半信半疑で聞いていたから。
「昨日は雨!雨と言えばあれでしょ!!」
栞は、興奮しながら私に顔を近づけてきた。
あまりの近さに鼻息が顔に当たりそうである。
「もったいぶらないで教えてよ」
私は、自分で答える事はせずに
栞に答えを言って貰おうとした。
「もう、いつも話してるのに。『…』が昨日また出たんだって」