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第2話 始動、ハニカム計画⑤


 その後、なし崩しに潤花と帰宅した俺は、結局捨てることのできなかった元カノの荷物を放置したまま、自室のパソコンで延々とヒヨケムシの動画を見ていた。 

 

「……邪魔だ」


 荷物が気になって、動画の内容が頭に入らない。

 捨てようとしていたものがいつまでも部屋にあり続けるのは存外にストレスだ。事あるごとに部屋の隅にある負の遺産に意識が向いてしまうせいで、楽しみにしていたヒヨケムシⅤSカマキリの異種格闘技戦の動画にほとんど集中できなかった。

 時刻は午前十一時を回ろうとしている。

 潤花を始め、すでに他の下宿生は起床してそれぞれ春休み最後の一日を満喫している頃だろう。

 現に、

 

『かわいーーーーーー‼』


 さっきから一階がやたらとうるさい。

 今の甲高い声は、みずほ姉ちゃんと優希先輩のものだ。

 何をしているのか知らないが、なんだって女子って生き物は軽々しく『可愛い』と言いたがるんだ。いるんだよな、『可愛い』って言ってる自分が一番『可愛い』とか思ってるやつ。世の中そう簡単に可愛いものがあってたまるか。

 どうせ下宿の連中も建前で馴れ合っているだけだ。

 知り合ったばかりの頃は誰だって仲良くしていても、ものの数週間であっという間に疎遠になるなんて光景、腐るほど見てきた。

 女なんてそういうものだ。

 ここの女子だってきっと例外じゃない。いつか誰かしら問題を起こして喧嘩が勃発するに決まっている。こんな少ない人数で険悪な空気を食卓に持ち込まれると思うとすでに憂鬱だ。

 しかしいざそうなったら、どうやってみずほ姉ちゃんをその厄介な人間関係から守ろうか。

 そういうトラブルがあった場合、男同士の揉め事ならわかりやすくて対処しやすいのだが。


「そういえば……あれ、早く見ないと」


 俺は引き出しから幼馴染みの『キャプテン』こと佐々木将悟(ささきしょうご)から借りたUSBを取り出した。中には、キャプテンが所属するボクシングジムの人が作ったキャプテンの試合KOシーンを特集した動画が入っている。手の内が他の選手たちにバレないための非公開の動画らしい。

 俺の一つ年上のキャプテンは、現役無敗のアマチュアボクシング王者として格闘技界から注目を注がれる期待の新星だ。最近は誰とでも友達になれる無敵のコミュニケーション能力に目をつけられメディアや配信番組からのオファーが引く手数多の日々を送っているらしい。

 

「すごいよなキャプテン。今やすっかり有名人だもんな」

 

 USBをポートに挿しながら、しみじみと独りごちる。

 子供の頃と違って今は住んでいる世界が変わっているのに、こんなすごい人が俺なんかといまだに仲良くしてくれるのが不思議でしょうがない。

 俺も元カノのことでウジウジしていないで、キャプテンみたいにもっと人生を賭けて打ち込めるようなものを見つけて、少しでも──

 警告音(ボンッ)


「えっ」


『不明なエラーが検出されました。データを読み込みできません』


「は?」


 ディスプレイの警告文を見つめながら、思わず目が点になった。

 嘘だろ? 高校生になるからって奮発して組んだばっかりのパソコンだぞ?

 俺はUSBに異常がないかを確認してから、もう一度ポートに再挿入する。

 今のは何かの間違いだ。このⅠQ280(自称)の俺が組んだパソコンに失敗なんてあるわけがない。あるわけが……

 警告音(ボンッ)


「んなあああああ‼」


 無情な宣告が再び画面に表示され、断末魔の悲鳴が出た。 

 その後何度も試行錯誤を繰り返したが、いくら読み込ませても同じエラーが続くだけで、一向に起動する気配がない。


「ウッソだろ……明日直(すなお)に貸さないといけないのに……!」


 呆然としつつ頭を抱える。

『試合してない将悟だけ見せて』と言って本編を見る気ゼロなみずほ姉ちゃんはさておき、直はキャプテンを(いじ)るために楽しみにしていたので、すぐに見せてやらないと忍びない。ひとまずエラーの原因解明は置いておくとして、早いところ見終わらなければ。

 となると……


「下で見る、かぁ……?」


 一階には大きなテレビと一通りの再生機器が揃っているので鑑賞するには申し分ない。

 ただし問題は、あの大はしゃぎ中の女子の群れに飛び込み、またあの台風みたいなハイテンションに巻き込まれて動画を見るどころじゃないリスクがある。

 ……イヤホンでも持って行って、一人の世界に没頭するか。

 猛烈に気が進まないが、何しろ時間がない。

 俺は渋々ポケットにイヤホンをねじ込み、今日で何十回目かのため息を吐きながら部屋をあとにした。

 去り際に机の上に置いていたスマホからピコンと通知音が鳴ったが、あとで確認することにした。




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