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二次創作集

あまりに白すぎる世界

作者: 歌川 詩季

シロイセカイ 2222【WEB】

検索用Nコード:N8122IL

作者:雨澤穀稼 先生

の二次創作です。

 作者の雨澤穀稼 先生より許可をいただいております。



 そこまで長く、なりませんでした。

 ここは白い世界。


 真っ白な世界。


 あまりに白すぎる世界。


 どこまでも。どこまでも。


 行けども。行けども。


 うえも。したも。東西南北、見渡すかぎり。


 その世界のなかで、私は私。私である私。


 だけど。伸ばした手も、歩む足も、この世界にとけこんでしまったように、白い。

 鏡がもしあるのなら、覗きこんだ私の顔も、のっぺらぼうのように白いことだろう。

 唯一、私の心うちだけは、真っ白とはほど遠く、色が渦巻いているというのに。


 白くて、真っ白な、あまりに白すぎる世界。


 何刻(いつ)から此処(ここ)()るのだろう?


 何刻(いつ)まで此処(ここ)()るのだろう?


 私が犯した罪の報いなのか?

 その罰だとしても、(ゆる)されることはあるのだろうか?


 わからない。


 なにひとつわからないし、思い出せるものもなければ、理解できる気もしない。


 もし、わかることがあるのだとしたら。


 この世界に、私の、私たる、この私が。


 白い、真っ白な、あまりに白すぎる世界に、囲まれて、それを感覚で(とら)えて感じていること——それだけだ。


 果てのない、白い、真っ白な、あまりに白すぎる世界。



 そこに、とけこみそうになりつつも。


 私であることをやめられそうにない、この私は。何刻(いつ)こたえがかえるのかわからない、問いをくりかえしつづける。



 かえってきた、そのこたえまで。

 この世界のように、白い空欄でないことを願いながら。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「先輩、進捗(しんちょく)どうっすか?」

 湯気の立つ紙コップをおれのぶんまで運びながら、後藤が声をかけてきた。

 時代錯誤ではあっても。うちのようなちいさなプログラミング会社では、こんな夜中までの残業は、まだ珍しくない。

 とはいえ、さすがに。ここに残っているのは、主任(チーフ)であるおれひとりだが。


 ゲームの制作会社は、いくつかの下請けプログラミング会社に分担して、仕事を発注することも多く。

 うちにも、フィールド担当やエフェクト担当の部署もあるのだが。今回、この仕事がまわってきたのは、キャラクター担当であるおれの部署だった。

 発注社は、新鋭のVRゲーム専門レーベル。

 ヒロインと一対一(サシ)のコミュニケーション・ゲームで。ひとパッケージごとに、ひとりのヒロインだけがおり、プライヤーがお気に入りのコのヴァージョンを選ぶ仕様らしい。こいつは、その第一弾ということだ。

 受注した複数の下請け会社からのデータの統合・調整は、依頼社の仕事とはいえ。自分のところの作業のためには、ほかの下請け会社からのデータを受けとらなければならなかったり、その連携が実に億劫(おっくう)である。

 穏便ないいかたで催促をしたりと、作業面以外の負担は、あまりかんべんしてもらいたいものだ。

——ふうっ。

 もともとは、好きでやってきたとはいえ。仕事と名目がつけば、やはりそれなりに気も張るし、疲れも溜まれば、ときに嫌気(いやけ)もさすことも珍しくない。「好き」を仕事にするには、それなりの代償をともなうということか。


「いや、まだぜんぜんだって。

 とりあえず、ヒロインAIの性格設定は終わってるみたいだから。まずは、基礎グラフィックをしあげて。会話テキストに、表情やモーションとをあわせるのはそれからだな。

 いまは夕方あがってきたぶんを、チェックしてたとこ。あしたから、倍速でかたづけなきゃなんねえから」

 まだ熱いコーヒーをうけとって礼を言うと、猫舌のおれはおそるおそる口をつける。


「ヒロイン、どんな感じすか?

 キャラデザ、めっちゃ好みなんすよね。

 動かしてみてくださいよ、見たい見たい!」

 無遠慮にはしゃいでは、デスクに置かれたイメージイラストのペーパーを(のぞ)きこむ。手に取ろうとしたので、冗談めかして、その甲をかるくはたいてやった。

 コミュ系オタクといったかんじの後藤は、うちの会社でも最近は珍しくなくなったタイプだ。

 悪気(わるぎ)はないのだろうし、可愛い後輩ではあるのだが。こっちが疲れているときに、このテンションは正直、少々ウザく。技術職でないがゆえの不理解も、面倒このうえない(彼の名誉のために言っておくが、営業職としては「若手のホープ」らしい)。


「だから、送られてきたAIの性格設定だけって言ったろが。

 体型(フォルム)をフレームのパターンからカスタマイズしたところだから、こいつを入力()れてやらねえと【マネキン】さえ、おがめねえよ!」

 おれの言葉にがっかりしたようすの後藤は、ふてくされたように自分もコーヒーをすする。


「ちぇっ。せっかくこんな時間まで、残ってたんだから。あのコの動くとこ、見たかったんすけどね」

 ちらと、壁の時計に目をやるこいつだが、終電がもうないことは承知のうえだろう。

 仮眠室にシャワーの個室が併設されるようになってからは、みんな平気で終電を(のが)すようになったのだけれど。肝心(かんじん)の寝具のほうは、仮眠どころか、ここで寝泊まりする連中に埋められてしまっている。応接室のソファが空いてりゃラッキーとはいえ、それも期待薄か。デスクでつっぷして眠るのは、肩がこるからなぁ、なんて考えていたおれに。

「AIの設定だけは、できてるって言いましたよね?」

 後藤のやつが、しぼりおとすようなひとことを(つぶや)く。


「んだぁ?

 未練がましいぞ。まだ、動かせねえっていったろ?

 フィールドどころか、モーションチェックのサンプル用オブジェ(ドアやプレゼントの箱など)すらもまだ届いてねえし」

「あ、いや。そうじゃなくて」

 やや、不機嫌を混じらせてしまったおれの声に、こいつは弁解の音色(ねいろ)を含んだようにこたえた。

「AIの性格設定ができてるってことは、あのコはもう【自意識】をもってるんっすよね?

 そんな、フィールドもなにもないどころか。じぶんのすがた、かたちさえないところに【自分自身】だけがあるのって。いったい、どんな気分なんだろうなって。

 自分の考えをめぐらすことはできても、過去も記憶も、背景も、取り巻く世界もありはしない。ましてや他者もいないんですよね」

 とぼけたことをぬかすやつだと思っていたおれに、これは寝耳に水だった。

 シナリオもイベントも、会話テキストもできてない以上。「彼女」はからっぽな存在だが、AIが性格設定されているということは、いわば(うつわ)だけはできあがっている状態だ。形状(かたち)はあれど、飾り()のない、白い(うつわ)が。

 そして、その(うつわ)が置かれているのは、フィールドも座標もない、自分と同じくからっぽの、あまりに白すぎる世界。

 そのなかで「彼女」はどんな想いをして、()るのだろう?

 それを考えると、おれの猫背は、冷たいそら恐ろしさに襲われた。



 ふと、不穏な使命感に駆られそうになったが。

 この時間から。「彼女」の(うつわ)に、せめて飾り()をくれてやろうとするのは、現実的でも効率的でも、賢い考えでさえもない。

 不憫(ふびん)に思うなら、この場をかたづけしだい、とっとと眠って。形式だけの始業時刻より、いくらかはやく動き出せるように、目覚めたらシャワーを浴びて、臨戦体制にはいることだ。


 コーヒーを飲み干し、おれは眠るからおまえももう休めと、後藤に告げると。ライトを切って、デスクにつっぷす。


——悪いな、もうちょっと待ってくれ。


 声に出ていたのだろうか?

「期待してますよ。おれに、いちばんに見せてくださいねっ」

 くちびるを震わせているとも知らなかったおれのつぶやきに、後藤のやつはおやすみのかわりなのか、置き台詞(せりふ)を残して姿を消した。

 営業の連中は自分の社用車があるため、運転席のシートで眠るのだろう。足も伸ばせない後部シートで横になるよりは、ずっとましだし、おれのようにデスクにつっぷすのとはくらべものにならない。


 まあ、いいさ。おれに必要なのは、睡眠の「質」より最低限の「量」だ。

 そいつさえ確保できれば。あしたから、また修羅場をくりひろげられる。


 うと、とするまえに。

 おれはもういちど顔をあげて。

 いまはなにも映していない、デスクのうえのディスプレイを見やった。


——悪いな、もうちょっと待ってくれ。

  すぐに、あんたにそんな想いを、させないようにしてやるからな。


 とはいえ、眠る寸前の(かすみ)かかった頭じゃあ。「彼女」がいだくのがどんな想いなのか、きちんと想像できるとも思えないが。


 とにかく、いまは眠ろう。

 この睡眠時間こそ、おれと「彼女」にとって、必要なものなはずだからだ。

 そう自分に言い聞かせるおれに。


 デスクに置かれたペーパーにならぶ、イメージイラストの彼女が微笑んだ気がした。



 この夜、おれは。


 あまりに白すぎる世界に、自分までとけこみそうな夢を見て、うなされることになる。

 業界わからないので、フィクションどころか出鱈目(でたらめ)ですがご容赦を(汗)


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【こちらの作品の二次創作です】
シロイセカイ 2222【WEB】
作者: 雨澤穀稼 先生
― 新着の感想 ―
[良い点]  そんな風に考えたことはなかったです。  AIとはちょっと違うのですけど、お話を考える時に『こういう子がいて…』と思ったこの瞬間と同じようなものかなぁ、なんて思ってしまいました。 [気にな…
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