全校集会(テオドール視点)
※2/11、13時頃女生徒のセリフ変更しています。
食事会の翌日、テオドールは学園の講堂に全生徒を集めた。
講堂の段の下に簡素な背もたれのない椅子を置いて生徒たちが座っている。
男女揃いの白の簡素な木綿のシャツに女子はロングスカート、男子はトラウザーズを身につけ、上からローブを羽織るのが学園の制服だ。靴は特に定められていないが、編み上げの短ブーツを選ぶものが多い。
彼らの視線を感じながらテオドールはステージの中央に歩みを進め、一般生徒に向き直った。
「今年度の卒業パーティーは学校で行わず、王宮での大夜会と共催になった。ドレスコードは王宮の物に従うので、二ヶ月で各自用意するように。伯爵家以上の爵位のある者など保護者が招待されている者については各々の家に帰り保護者と共に会場入りしてほしい。親が招待されていない者については学校から馬車を出すので、それに乗って行くように」
生徒全員が大夜会に参加出来ると誇らしい報告をすると生徒達からどよめきが上がる。
このような栄誉、そうそう味わえるものではないから、驚きと喜びでどよめきが上がるのも当然だろう。
その中で、一人の男子生徒が挙手し、会長! と大きな声を上げた。
新学期が始まって前期が過ぎても帰ってこなかったリアムが休学扱いとなったため、後期からはテオドールが会長になった。副や代理という言葉がつかないのは気分がいい。
「質問をよろしいでしょうか? 我が家は男爵家で、親も王宮の催しには縁がありません。王宮のドレスコードがどんなものかお教えいただけませんか?」
男爵令息の問いにテオドールは自信満々に答えた。
王家の晩餐会に呼ばれた時の父母の服装で間違いない。
「男性はシャツの上からジレやウエストコート、ベストなどの袖のない短衣を身につけて、上着にアビ、コートなどと呼ばれる長衣を羽織り、首元にクラバットを巻く。そうだ、シャツのカフスは宝石を使った物。キュロットやブリーチズ等の膝丈の下衣。ストッキングは絹が望ましい。靴は黒の革靴が基本だ。衣服の素材は絹か高質の綿だな。女性も同じく絹のドレスが望ましいが、最近は上質な更紗等も出回っているようなので、格式を落とさない範囲での綿のドレスも選択肢に入るだろう。靴はドレスと共布で作った物や同じ色味で刺繍などを入れた物だ。アクセサリーをつけると美しいな」
主に試験を受けて学園に入った者たちから再びざわめきが起きる。
「申し訳ありません。この夜会の参加は全員絶対でしょうか?」
不安そうな顔をした一年生が手を挙げ、震える声を上げた。
「当然だ! 王宮の夜会だぞ! 国に対してさしたる功績もない下級貴族が無条件で王宮に招かれるのだ。これほどの栄誉があるか?」
その少女は肩を縮め、小声で何か言った。
「はっきり言え!」
その様を見かねたらしい騎士爵家の上級生が手を挙げて大きな声で意見を重ねた。
「我が家もですが、普段高位貴族の方々が参加するような舞踏会に出ない家には仰るような衣装を二ヶ月で用意できる手立てがございません。その場合どうしたら良いのでしょう?」
テオドールは内心、舌を打った。いや、実際に出ていたかもしれないが、イラつかせる彼らがいけない。
伯爵家以上の者は概ね落ち着いている。彼らの家には事前に王室から連絡がいっているからだ。すでに衣装の準備をはじめているのだろう。
「そうだな。この程度の支度に手間取る貴族家があるとは思わなかった。貴重な意見をありがとう。それについては生徒会で検討し、後日対応を発表する。各クラス役員は、学園出発の馬車を使う者がどれだけいるか確認して名簿を作るように。以上だ」
下位貴族などの受験をして学園に入った者達から少し嫌な空気を感じる。
なぜ彼らは困惑し不安そうな顔をしているのだ。喜びに咽び泣くシーンではないか。
内心の怒りを押し殺して必要なことを言い捨てると、テオドールは舞台の袖に引っ込んだ。生徒たちの騒めきはいまだに収まりそうになかった。
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