弱いお兄ちゃんとバブ子
「やだ、よっわ!」
剣をふっ飛ばされて派手に転ばされ、砂敷きの練習場に腕をついたリアムをレイピアタイプの模造剣を手にしたレジーナが嘲笑った。
「レジーナ。そういう態度は良くない。お前は相手に敬意を持って接する事が出来る子だろう」
リアムを立ち上がらせたアレックスが注意してくれたが、レジーナはそれに対して激昂した。
「パパもそいつを取るの? 嫌い! 大っ嫌い! 私は一生あんたと会いたくなかった!」
涙を浮かべて、追い詰められたような顔で踵を返そうとする少女をソフィアが止めた。
「見苦しいですわよ。何に苛立っているのか何一つ伝わりませんの。リアムに無理やり相手させた上に煽って注意されたらキレて、かまってちゃん? いえ。バブ子ちゃん」
「なっ! なによ、そのバブ子って!」
「バブバブ赤ちゃんのバブ子ちゃんですわ。あなた何ちゃい? そろそろパパのお手手を離して一人であんよする年よ」
顔を真っ赤にした少女はソフィアに食ってかかる。
「何ですって!! そうやって人に対して毒を吐き散らかして失礼よ! そんなんだから、婚約者に売り飛ばされる羽目になったんじゃないの?!」
「まあ、確かに自覚はありますけれども、貴方に言われる筋合いございませんわ」
肩をすくめると、ソフィアはリアム取り落とした剣を拾った。
「父仕込みの腕前、披露させていただきます。勝負なさい、バブ子」
シャツに胸の下までウエストの編み上げのついたスカートに丈夫なブーツ、女性にしては活動的な服だが戦いに向いていないように思うのに、剣を構えた様は自分よりも余程様になっている。
「だから、それを止めろって言ってるでしょう! この毒舌女!」
そう言いながらレジーナは剣をソフィアに突き出す。それをいなして避けたソフィアのスカートがはためいた。
おろおろと二人を見つめたリアムは、三人のうちの誰かに止めてもらおうとぐるりと見回すが、何故か三人とも静観の構えだ。
「ライモンド……!」
「ああいうのは少しガス抜きをしないと爆発しますからやらせときゃあいいんです。大丈夫。命に関わる怪我をしそうな時と顔に当たりそうになったら止めますよ。しかし二人ともなかなかのもんですね。ソフィアの戦い方は初めて見るな。面白い。ベルニカはもっと力任せの剣だと思ってたけど、膂力がない時はこういう動きになるんだ。姫君の方はケインさんが教えたのかな。うちっぽい動きをしてますね」
「止めないと怪我しちゃうよ。女の子なんだし」
「男女関係ないでしょ。正直二人とも殿下よりもよっぽど強いですし」
「アレックスさん、ケインさん、お二人ともいいんですか?!」
「やらせておけ」
「正直止めたいが、俺は弱いから無理だな。それにケインもライモンドと同じ意見みたいだし、俺は口を出さない。それよりレジーナがすまなかった」
「あなたに謝ってもらうことじゃないですし、最初は胃にきましたが、僕のことを貶めて他の人間を巻き込んで嫌がらせをするわけでもなく、彼女がツンケンしてるだけなので大丈夫です。もちろんいい気分ではないですし、理由は気になりますけど……」
「理由か。そうだな。あの子は……」
「アレックス! リアム! 油を売ってないで、下手くそ同士で練習したらどうです。二人ともその実力で釣り合う相手はそうそう居ないからちょうどいい」
「……やれやれ」
「やりたくない……」
図らずもアレックスとため息のタイミングが被った。
ケインに意図して邪魔をされたような気がしたが、言われてしまえばやらないわけにはいかない。
リアムは仕方なく置いてある模造剣を取り、アレックスと打ち合った。確かにアレックスはあまり上手ではなく、いい勝負だった。
その後、アレックスとリアムが二人で稽古をしてたことに、引き分けでソフィアと引き離されたレジーナが臍を曲げ、宥めるのに苦労したのは余談である。
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そろそろリベルタからディフォリアに舞台が移ります。(明日はまだリベルタです)
過去の話も入ってくると思います。よろしくお願いします。
来週から古戦場なので、更新速度が少し落ちますが週1は更新していきたいと思っているのでよろしくお願いします。




