妹の塩対応
「ぎっっづづい!!!」
机に突っ伏したライモンドが叫んだ。
エリアス島にあるアレックスの邸宅兼オクシデンス商会事務所で、かれこれ1週間、リアム達は膨大な量の書類と格闘させられていた。
「手も目も痛い。普段使わない筋肉が育ってる感じがする!!」
「脳みそも育てばいいな。ほら追加だ。お前が一番遅れてるぞ」
「んなこと言ったって、俺は本来肉体派なんですよ! 頭脳労働を脳筋に求めないでいただけます?!」
「今しっかり覚えておけば将来役に立つ。叔父上の金勘定は雑だから、ひょっとしたら今頃大変な赤字になってるかもしれない。それを立て直さないといけないかもしれないだろ」
「うちのお袋がかしこなんで、大丈夫でーす! 赤狼団の財布がっつり握ってますし、俺の給料も半分持ってかれて結婚費用に貯められてます!! まだ相手はいないんですけど!!」
ライモンドがケインとやりとりをしている様はまるで兄弟だ。ちらりと机の上から視線を上げ、それを眺めたリアムはごく小さくため息を漏らして、視線を隣の席に流した。
「なによ」
「なんでもない……」
「じゃあこっち見ないで」
「ごめん……」
それに返って来たのは舌打ちだ。
異母妹は今日も恐ろしい。なんとか交流を深めようとするのだが、その度に塩対応されて取り付く島がなく、どうやって関わっていいのか分からない。
「レジーナさん。言いたい事は言うべきでしょう? そうやってイライラと不機嫌な様子を見せるだけで、分かってもらおうって、赤ちゃんなのかしら?」
「は? なんで部外者に口出しされなきゃいけないわけ。だいたいこれだけの量の仕事させられてるのだってあんたたちのせいでしょ!」
ばんっ! と少女は机に書類を叩きつけた。
重い木を使っているおかげで机が小揺らぎもせず助かった。
「そうやって怒るんじゃなくて、ちゃんと説明しなさいって言ってるのに、やっぱり赤ちゃんですわね。バブバブ泣いてたら綺麗なパパが甘やかしてくれるから赤ちゃんのままなのかしら」
この調子でテオドールとやり合っていたのだろうとリアムは理解する。言っていることの趣旨は間違っていないが、三言ぐらいは多い。
「なんですって!!」
そのまま掴み合いになりそうなソフィアとレジーナの首根っこをそれぞれ抑えて、ライモンドとケインが二人の諍いを止めた。
「やっぱりずっとこもって書類仕事は健全じゃないんですよ」
「たしかにそろそろ運動の時間だな。外に行って剣の稽古にしよう。アレックスも呼んでくる。あの人は書類を前にすると集中していつまででも仕事してしまうからな。ライモンド。この子猫を頼む」
「誰が子猫よ!」
「ここに来て反抗期か。頭が痛い」
「はいはい、行きますよ。姫君。ソフィアとリアム殿下もです」
「え……僕はまだ全然平気だから、皆で行って」
剣術は苦手だ。やらなくていいならやりたくない。うだうだと書類に向かっていたら、ライモンドの声が強くなった。
「殿下。行きますよ」
「……はい」
リアムは未練がましく書類を片付けると、とぼとぼと庭へ向かった。
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