束の間の平穏
お読みいただきありがとうございます。これを含めて3話で完結です。
結局テオはリベルタ大陸海賊諸島、パルレ島にあるジュードの家に転がり込んだ。
貴族の子息として世馴れぬまま今度は重犯罪者として鉱山に送られたテオは、結局のところそれしか独り立ちする手段を思いつけなかったのだ。
ジュードの妻は亡くなっていたが、娘のマリアはパルレ島の酒場の酌婦としてまだその家で暮らしていた。
器量は十人並だったが胸が大きくて、愛嬌があって気立てが良く、料理が上手かった。
居候となってすぐ、ベッドに潜りこまれて関係を結び、なし崩しに子供ができて世帯を持った。
パルレ島は賭博の街だったが、賭場を併設した高級娼館もあってテオはそこに出入りする代書屋として働き、家族四人の生計を立てていた。
「テオ。今月もツケを払ったらこれしか残んないんだけど」
またか、とうんざりとため息をついたテオは、眼鏡を持ち上げ、女に見せられた財布の中身を確かめてもう一度ため息をついた。
今月もまたカツカツのようだ。
「俺はちゃんと稼いでる」
実際、テオの稼ぎはこの島で真っ当に稼ぐ人間の中では悪い方ではない。むしろいい方だと自認している。
「今月はあんたが銀貨2枚も出してそんなもん買っちゃうからでしょ」
眼鏡を指さされてテオは言い返した。
「これは商売道具なんだよ! 安物買いの銭失いはごめんだ。前のは度も合わなかったし、1週間で壊れてまったくの無駄になった!」
鉱山での土竜生活で傷んだ目は回復しきれず、代書屋として暗い中遅くまで書き物をしていればますます悪くなる。
それで購入した眼鏡が最近の喧嘩の原因だ。テオとしては妥協できる最下限の品を買って安く抑えたつもりだが、妻の理解は得られない。
金銭感覚の違いを完全に払拭するのは難しい。
「文句ならお前の親父に言え! 毎日毎日賭場に入り浸って金をドブに捨ててるのはあいつだろ!」
鉱山ではそう思わなかったが、釈放されたジュードはどこに出しても恥ずかしいロクデナシだった。
酒は飲む、女は買う、嗜めた娘を殴ろうとして代わりにテオが殴られる。
最近は賭場にハマってなけなしの生活費を溶かしてくる。
鉱山を出てから世話になったし、義父なのは事実だから我慢しているがそろそろ限界だ。
「言えないよ! また殴られろっていうの?!」
「喧嘩しないで」
そこに息子が顔を出し、しっかりとした口調でテオ達を止めた。
「喧嘩していたわけじゃないよ。クロム」
目が隠れるほど前髪を伸ばした幼児を抱き上げて頭を撫でる。かつて父が自分にそうしたように穏やかに心配するなと話しかけ、テオはマリアに向き直った。
「今やってる仕事の金が入ったら、あのロクデナシを捨てて神聖皇国の開拓村かエリアス島に家族三人で引っ越そう」
「で、でも……」
「その話は後にしよう。急いで仕事を仕上げないといけないからな」
「うん……」
もう十分、ジュードに対して義理は果たした。
マリアはずるずると金を渡してしまうから隠しているが、出獄した時にもらった金に加えて折に触れて小金を貯めている。
今受けた仕事がうまく行けば、島を移動して家族三人で小さな家を借りてなんとか暮らしていけるだろう。
乗り気ではなさそうなマリアを背にテオは再び書類に向き直った。
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