鉱山のカナリア4
これを含めて残り4話です。
誰よりも早く起き出したテオドールは身支度を済ませて、坑道でカナリアを受け取った。
籠を片手に山を降り、鉱山のゲートで出獄証明を見せる。
「二度と戻ってくるなよ」
「心に留めます」
深く頭を下げて、ゲートの先、山を降りる道を歩く。リベルタは早朝でもなお蒸し暑いが、久々に存分に浴びることのできる日光は心地よい。
1時間ほど山道を降りて、自然の広場のようになっている場所の腰掛けがわりの岩に尻を乗せたテオドールは水筒の水を呑みながら、朝食代わりに渡されたいつもより少し大きなパンを噛みちぎって飲み込んだ。
チチッと鳴いた傍らのカナリアに話しかける。
「もう少し待っていてくれ。ジーナ」
カナリアの分を残してパンを食べ切り、手の上に千切ったパンを乗せるとその手を籠に差し入れた。
カナリアはすっかり貴族らしさを失い分厚くなった掌の上に飛び乗ってパンくずをつついた。
食べ終えた頃を狙ってそっと籠の中から手を出し、カナリアと見つめ合う。
「つらい生活の中で、お前がずっと俺……僕の心のささえだった」
自分が籠の外に出されたと気づいたらしい。カナリアのジーナは小さな嘴でテオドールを数回つつくと小さな足で掌を蹴って大空に舞った。
喜びの歌を美しい声で奏でながら、空高く飛び回る小鳥を目を細めて見つめ、カナリアのために小さく祈った。
これからは幸せに生き、自由に大空を舞えるようにと。
「……ありがとう」
テオドールはもはや影も見えなくなったカナリアを見つめて礼の言葉を口の端に乗せる。
ふと元の色がわからなくなるほどくたびれた護りを隠しから取り出し、陽光の中で見つめると同じ場所に戻す。
そしてテオドールは再び歩き始めた……のだが。
「おおーい! カナリア! 置いていくんじゃねえよ!」
「……歯抜けか」
ばたばたとテオドールを追って走ってきたのは、やはり恩赦になったあの男だった。
「クソみてえなあだ名をつけやがって」
そうぼやいた男はテオドールの顔に目を止めて、何度も瞬きした。
「カナリアだよな? お前さん、そんな色男だったのか?」
「テオだ。二四六〇一番でもカナリアでもない。歯抜け」
「俺だってジュードっていう名前があるんだよ」
「で、何の用だよ。釈放されたらもう無関係だ」
「つれねぇなぁ。テオさんよ。お前行くところあんのか?」
言葉に詰まると、ジュードは馴れ馴れしく肩を抱く。
「ヤサが決まるまで、俺のうちに来たらいい。女房と娘がいる。娘は年頃だ。色男を連れてきゃ、喜んで入れてくれる」
「もう逃げられてるんじゃないか?」
「うちの女供はそんな薄情じゃねえよ」
「……麓までは一本道だ。一人じゃ暇だったしな」
そう嘯いてテオドール、否、テオは男に足並みを合わせた。
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