鉱山のカナリア1
テオドールのその後の話です。
カクヨムコンの連続更新のために書き、完結させた物ですが、せっかくなので少し推敲して掲載しています。(大筋は同じです)
完結まで書いてあります。全6話です。
カナリアは鉱山での危険を小さな命と引き換えに伝えてくれる。
その健気な囀りは、ただひたすら辛いだけで変わり映えのしない日々の小さな癒しだ。
「ほら、今日の分だ」
男は次々と代替わりする全てのカナリアに同じ名をつけて、毎日自分のパンを分け与えていた。
だが、代替わりして日の浅いこの新顔はいまだ懐いてはくれない。
胸の痛みと共によく懐いてくれた先代を思い出していると、新顔は鳥籠に入れた小さなパンのかけらの周りを警戒するように飛び跳ねた後につつき、ピピッと愛らしい囀りをあげた。
その無邪気な様子を見つめて口元を緩めた男は首元に巻いたボロ布を鼻まで引き上げて顔の半分を覆い、今日の作業を始める。
看守の目を避けて地に顔を伏せ、煤や埃で肌を黒く染めてただひたすら地中深くに潜って鉱脈を掘り進め、重い鉱石をトロッコに乗せて運び出す。
二四六〇一番。
重犯罪者のみが送られる鉱山に入れられて、この番号を焼きつけられて十二年。
かつてはテオドールという名で呼ばれていたが、今はその名で呼ばれる事はない。
看守から番号で呼ばれ、囚人仲間からはあだ名で呼ばれ、過去の栄光からははるかに遠いこの山奥で彼は自分の犯した罪を贖う毎日を過ごしている。
死を考えるほどの辛い毎日でも、それを選ぶ勇気を出すことも出来なかった。
本来ならば輝きに満ちていたはずの十代後半から二十代全てを穴掘りだけですり潰し、三十の誕生日はなんとか越えた。
だが四十は難しいだろうと、過酷な環境で弱った眼や痛む肺が告げている。
「なあ、カナリア。これ読んでくれよ」
看守の目を盗んで近づいてきた囚人仲間がテオドールの手にくしゃくしゃの紙をねじ込んできた。
「だれがカナリアだ」
「食いぶち削って小鳥に餌やるマヌケにはお似合いだろ? 髪の色だって揃いだ」
「くそっ。見張ってろ」
ここには文字が読めるような人間はほぼいない。来ても水が合わずに、囚人達にすぐに責め殺される。
だがうまく暴力的な男達に合わせることさえできれば、こうやって重宝される。
皮肉にもここに送られる前日にエリアスからうけた助言や、苦しかった赤狼団での雑用が、彼をここの異分子にしなかった。
しゃがみこんだテオドールは、カンテラを地面において暗い中で矯めつ眇めつしながら手紙を一読し、歯の抜けた顔で笑う囚人仲間に突き返した。
「看守のゴミ箱から漁ってきたのか」
「どうだ? 良い事書いてあったか?」
期待に満ちた顔をする男に親指を立てて見せ、周りにいる他の囚人達をハンドサインで呼ぶ。
看守の目を盗んで寄ってきた同班の皆にテオドールは咳払いをしてみせた。
「もったいぶるなよ。学者さま」
せっつかれて自分ほどではないが古参にあたる男達にいいニュースを伝えてやる。
「慈悲深い陛下から、今晩ここにいる全員に肉と酒が振る舞われるそうだ」
「そりゃ、いいニュースだ」
「ついてるな。他の班の奴らより早く並べりゃデカい肉が食える」
「今回はなんでだ?」
「またガキが産まれたんだと」
「おいおい何人目だ?」
「よっぽど具合がいいんだろうよ」
「恩赦もあるかもしんねぇな」
誰かの発したはしゃいだ言葉にテオドールの顔は苦く歪んだ。
この十二年、新王の即位に結婚、子供の誕生など、短期間に重なった慶事への寿ぎとして大盤振る舞いされた恩赦で、この地獄の釜から抜け出た者は多い。
だがテオドールに、それが与えられる事はなかった。
最初は落胆し、気鬱に沈んだ。
そして自らを省みて、これだけ酷い目にあえば彼らが許してくれるのではないかという甘えた気持ちがどこかにあったと気がついた。
二回目に名前が呼ばれなかった時点で割り切った。
自分は恩赦が与えられるような立場でない、それが当然だと諦めをつけた。
恩赦が出るほどの祝いの日には、舌が痺れるほど不味いが一杯で酔える強い火酒と筋張った硬い肉が全員に振る舞われる。
それは体を維持する最低限の食事しか出されず、辛さばかりが積み上がっていく日々の中では望外の馳走だった。
それ以降の慶事は酒と肉が振る舞われる日として待ち望むようになった。
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