HAPPY NEWYEAR3
あけおめ小説3/3です。1話目からお読みください。
「まず手を上下に上げ下ろす。1フレーズ終わったら手を交差させて左手で右隣右手で左隣の人と手を繋ぎ、一周右回り、手を上げながら真ん中に寄って、下げながら離れる。次は左回り、近づく、離れるという動きをだんだん早くしていくダンスだ。ステップもない。子供でも出来る」
ジョヴァンニとソフィアの間のライモンドが彼らに簡単に説明する。
誰でもそこに集まった人間がすぐに楽しめるのがこの新年の踊りとも言えないダンスのいいところだ。
だがサミュエルが新年の曲をワンフレーズめで止めてきた。
「いや、待て待て待て、一回止まれ、なんでこの曲なんだ?」
「???」
「あ……! この曲、ベルニカでは別れのワルツと呼ばれているのです。戦場に向かう恋人達が踊るロマンティックなメロディですわ」
「そして飲み屋での閉店追い出し曲だ。詩人がこれを弾いたら閉店。新年早々、閉店ガラガラ、始まる前から終わっちまう」
「お父様は城下に飲みに行かれることが多いので」
「メルシアでは再会の歌です。旧友や家族、親しい人との再会を寿ぐ歌だ」
レオンハルトがチラリとエリアスに視線を送るが、エリアスはその視線を避けた。
「サム、これがメルシア式の年越しだ。違和感はあるかもしれないが合わせてくれ。俺も昔ベルニカの酒場でこの曲を聴いた時は戸惑った」
ヴィルヘルムの言葉にサミュエルは頷いた。
「そういやこっちの飲み屋じゃ、女将に普通に叩き出されたな……。分かった。続けろ」
再び沁みるスローペースで音楽が始まった。確かにこのスピードのメロディは別れのワルツと言われても納得できる物悲しさだ。
ライモンドのレクチャー通りの動きを始め、段々とスピードが上がってくる。最初の文句はなんだったのか、サミュエルが一番楽しんでどんどんとスピードを上げていく。
リアムはすっかり失念していたのだが、サミュエル、ケインは大陸最強の剣士だ。
当然運動神経が良い。ライモンド、ソフィア、ベアトリクスも同様だ。
つまり運動神経のいい人間が1箇所に固まっていて、そしてリアム、エリアス、レオンハルトの一団は頭脳派……いや、あえて己も貶める言葉で言おう、運痴の一団を固めてしまっている。関係性だけを追った結果だ。
ヴィルヘルムとレジーナも運動神経はいいのだが、いかんせん努力を重ねてやっと人並みの自分、デスクワーク体力しかない40代のエリアス、そして何もないところでこけるレオンハルト。まだまだいくぞという運動バカ共のスピードにこの一角がついていけなくなるのは自明だった。
「うわぁ!」
縮んだところでレオンハルトがよろけ、そろそろ足に来ていたエリアスがつられて転ぶ。当然自分が立て直すことなどできず、三人でももんどりうって転び、ヴィルヘルムとレジーナもそれに引っ張られて転びそうになるが、ヴィルヘルムがレジーナを咄嗟に庇って一人潰れる。
「……どうして今更、しかもこんなことで」
小さな声だったが、そこには深い悲しみが滲んでいる。
「ててっ……。特に深い意味はないさ。転びそうになったから助けただけだ」
立ち上がったヴィルヘルムはレジーナの頭をためらいがちに撫でた。
「お前をずっと蔑ろにしてきた。今更父親面をするつもりなんてない。お前の父は兄貴がふさわしい。兄貴を父とし、そして好きな男と結ばれて幸せになってくれ……すまなかった」
「……あなたに言われなくったってなるわよ!」
「確かに俺が口を挟むことじゃないな」
苦笑したヴィルヘルムはケインに抱き起こされていたエリアスに頭を下げた。
「兄貴……謝ってすむことじゃないって分かってる。でも、ごめんなさい」
「許すと思うかと言いたいところだが、元凶は俺の受けたお前とイリーナの婚姻だ。それに俺達の態度のせいで子供達に気を使わせ続けるのもいい歳をしてみっともない。ただ、次はないからな」
「ごめんなさい……」
エリアスがヴィルヘルムに手を伸ばして抱擁を交わし、リアムを立ち上がらせる。
「気を使わせて悪かったね。ああ、しかし子供というのはあっという間に大きく頼もしく成長するんだな。リアム、お前は今、全ての関係のかすがいになっている。リアを思い出すよ。なあレオン」
「ああ……そうだな……」
尻餅をついたままレオンハルトは涙を掌で擦って拭った。
そこに狙い澄ましたかのように新しい曲が演奏され始め、ジョヴァンニがレジーナに手を伸ばした。
「これはインテリオの新年のダンスです。普通のワルツですが、恋人や家族、大切な人と踊る習わしです。踊りましょう」
「……アレク。ヴィルとレオンと踊って。ライモンド、踊るぞ!」
誘うように視線を飛ばしたエリアスにケインは首を振ってライモンドに言った。
「えっ?! えぇー」
「俺達には選択肢が三つある。二人で踊るか、ベルニカ公と踊るか、姉上と踊るかだ」
「いや、それならベア姐さんが……いや、きっとそれはそれでベルニカ公がめんど」
「なんか言ったか? 小僧?」
「いえ、義父であるケインさんと踊るのが理にかなっていますね、と言っただけですよ。閣下」
そつのない笑顔が上手くなってきたライモンドが、サミュエルに言ってケインと手を合わせた。
サミュエルもそれ以上追及するつもりはなかったらしくベアトリクスと踊り始める。
まだほんの少し気まずそうに、それでも三人で手を取り合ってゆっくりと踊り始めた父と伯父たちに暖かな視線を送ったリアムはソフィアに手を差し出した。
「ハッピーニューイヤー。踊ろう、僕の大切な人」
「ええ。リアム、愛しているわ」
年越しの夜は、そうしてゆっくりと幸せに明けていった。
ハッピーニューイヤーこぼれ話
「インテリオはダンスの他になにか習わしとか食べ物とかないの?」
「ああ……レンズ豆とソーセージを食べます。商売繁盛や繁栄を祈って」
「あと、異性にパンツを配るんですって」
「パンツ?!」
「色は赤で、先鋭的なデザインのものがいいのよ。首都で探すの大変だったわ。ね、ジョヴァンニ」
「いや待って、今じゃあジョヴァンニ……」
「すっごいやつ履いてますが、なにか?」
「い、いや……」
「インテリオの習わしなんで。来年は殿下にも贈るようにインテリオ公妃の義母に伝えておきます」
「いや、ちょっとそれは……断れないじゃん」
「面白い風習だったから、パパとケインにも送ったの」
「すっごいの、履いてるんだ……」
レジーナの言葉に、リアムはエリアスとケインに視線を飛ばし、二人に気付かれる前に目を伏せた。
最初この番外編本編のどこかにこれを入れようと思ったんですけど、入れる隙間がなくなったのでここに掲載して供養します。
新年のお話にお付き合いくださりありがとうございます。
今、カクヨムさんにて2週間毎日連載キャンペーンというものをやっているため、小分けにしてこの話とテオドールのその後の話を書いています。
テオドールの話も完結後に1話の区切りを長めにしてこちらにも掲載したいと思っているため、完結にしないでおきます。もう数日お待ちいただければと思います。
カクヨムコンに応募したんですけど、もう三度目なのでさすがにちょっと通らないよなとは思っているのですが、そちらにアカウントをお持ちの方がいらっしゃれば星で応援していただければありがたいです。(物理で期間内の星の数が中間突破の条件なので)




