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大団円の輪の中で

最終話です。

 食事を片手に歓談を楽しむ生徒達を見てリアムは息をついた。

 城でのパーティーの時に好評だったし、食べ盛りの学生達には食事がある方がいいだろうと今回も立食を用意したが、喜んでもらえているようで何よりだ。

 自分とソフィア、護衛のユルゲン達は残念ながらこの場で食事を取れないが、後で食べられるように別途、同じ内容で用意してもらっている。

 生徒達から挨拶を受け、城で働く事になっている者たちと交流を深め、教師達とも落ち着いて話すことが出来た。

 神聖皇国語の教師のローレンスにも卒業の挨拶と感謝を伝えることが出来た。今日のように長い時間は車椅子でないと難しいとのことだが、杖を使えば歩けるようになったと聞いて安心した。


「殿下、そろそろお時間です」


 ファーストダンスの時間が来て、リアムはソフィアを伴いダンスホールの中心へと歩を進めた。


「ソフィア、ダンスの栄誉に預かる前に一ついいかな」


 ファーストダンスはリアムとソフィアの役割だ。

 だがそれを始める前に、この卒業パーティーの衆人環視の中で、どうしてもなしたい事がリアムにはあった。


「ここで私を突き飛ばしての婚約破棄は認めませんわよ?」


 冗談めかした口調にほんの一抹、不安の影があるのを聞き逃さず、リアムは首を振った。


「まさか! 違うよ。これを受け取ってほしい」


 リアムはソフィアの前に跪くと指輪の入ったケースを開いて差し出した。

 そのタイミングでオーケストラがロマンティックな音楽を奏ではじめる。ユルゲンお勧めの演出だ。


「プロポーズの時に用意できなかったから今日渡すって決めていた。君の卒業パーティーの思い出を、全部僕とのことで塗り替えたい」


 受け取ってくれる? と尋ねるとソフィアは言葉もなく赤い顔で頷いて左手を差し出した。


「愛してる。ソフィア」


 ただ一言、思いを告げてソフィアの薬指に指輪を滑り込ませると、会場から割れんばかりの祝福の拍手が鳴り響き、二人の心を暖めた。

 それに礼を取り、改めてダンスのファーストポジションにつくと楽団がワルツを奏で始める。

 リアムはソフィアと共に会場を広く使って、皆にお互いの唯一を知らしめるように優雅に舞った。

 この国に帰ってきてから、エリアスの指導で何度も二人で練習をした思い出深い曲だ。

 ソフィアの薬指にはめられた指輪がシャンデリアの光を反射して愛の煌めきをみせつける。

 あっという間に一曲終わって、もう一度同じワルツがかけられ、練習通りに代表の生徒がダンスに入ってくる。

 ジョヴァンニが輝く笑顔ではしゃぐように踊るレジーナを包み込むようにリードしている。

 彼も自分と同じでダンスが得意ではなかったはずだから、他ならぬ今日のために練習に励んだのだろう。

 ユルゲンとアネットも楽しそうに踊っている。

 苦難を乗り越えた末の二人の姿には憂いがない。

 二回目も終わり三回目も同じ曲だ。

 今度は踊りの輪に全員が入ってダンスを楽しむから、リアムとソフィアは、輪の端に寄った。

 レジーナはジョヴァンニからエリアスにダンスの相手を変えて踊りはじめた。二人の表情は明るくて、この数ヶ月で二人の間のわだかまりは解消されたとよく分かる。


「姫さん、次は俺と……」


 すかさず寄ってくるオリヴェルの腕を取ったのはライモンドだ。


「くだけたパーティーには余興が必要だからな。俺達で踊ろう」


「えっ?! 勘弁してくださいよ。パイセン!」


「どっちのパートがお望みだ?  ちなみに俺はダンスはうろ覚えだから、男側でも女側でも五回はお前の足を踏む」


「そんなに踏まれたら、俺のか弱い足指が折れちゃう! いやいや、そもそもパイセンと踊るのなんてまっぴらですよ!」


 慌てふためくオリヴェルをよそに、ちらりとライモンドを見やると片方の口元をもちあげてこちらに笑んでくれた。

 どうやら馬の脚をかってでてくれたらしい。


「婚約者にまとわりつくのは男なら雄犬だっけ?」


 あの騒動と査問会を思い出して冗談めかすと、ソフィアは頬を小さく膨らませて唇を尖らせた。


「口を慎む努力をしている私に確認しないでいただけます? 野花殿下」


 ありのままでいてくれればいいと思いながらも、自分のために悪癖と見なされるそれを控えようと思ってくれる気持ちも嬉しい。


「ねえ。もう一曲、このまま踊ろう」


「ええ、もちろん、喜んで」


 ソフィアを抱き寄せたリアムは三回目のワルツを踊りはじめる。

 二年前のあの日、三人の輪の中に巻き込まれておろおろした末に気を失った惨めな自分はこんな未来を予想もしていなかった。


「全部、君のおかげだ。ソフィア」


「それはこちらの言葉ですわ。貴方がいなければこんな未来は望めなかった。愛しているわ。リアム」


 リアムとソフィアはそっと身体を寄せ合い、新たに大きく広がった輪の中に再び戻った。


 そうして、卒業を寿ぐ宴の時間は穏やかに賑やかに流れて、つつがなく、ただただ幸せに皆の笑顔に彩られて、その幕を閉じたのだった。


NTR王子は悪役令嬢と返り咲く —完—

※ここまでお読みいただきありがとうございました。以上を持ちまして、この話は完結となります。

★★★★★でご評価いただけると次回作へのモチベーションに繋がりますので、ぜひ評価いただきたくお願い申し上げます。

前作よりお読みいただいた方、二年の長きに渡り連載にお付き合いいただいた方、どこかのタイミングで読み始めていただいた方、ここまで読んでくださった方全てに厚く、深くお礼申し上げます。おかげさまをもちまして、無事に当初の構成に近い形で話をまとめることが出来ました。

連載形式で書いていたため、細かい齟齬や描ききれぬ点、お見苦しい点も多いかと思いますがご寛恕ください。落ち着いたら読み直して修正をしたいと思っております。

リアムとソフィアを主人公にしたこの話は完結となりますが、スピンオフ、この後の話、番外編などの構想もありますのでよろしければユーザー登録などしていただければありがたく思います。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
完結、おめでとうございます! いつも楽しく読ませていただいていました。 ハッピーエンドで良かったです。 個人的にはテオドールが一番好きなので、処刑されずに済んでホッとしました。 番外編も楽しみにしてい…
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