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新たなる門出の日2


「殿下! 一人でふらふら動き回らないでください」


 戻るなり、近衛騎士の正装で腕を組んだユルゲンに嗜められ、リアムは頭をかいた。


「ごめん。会場内の確認に行っただけだから許して」


「ああ。髪型も少し崩れてますよ。後ろ向いてください」


 雑に見せかけてきめ細かいユルゲンに髪を直され、メルシア王太子の正装にしわが寄らないように調節される。


「入場するまでは乱れがあってはなりませんからね」


 護衛兼近侍を意識したのか、普段より硬い口調でユルゲンが言った。


「ありがとう。ユルゲンも近衛騎士姿、決まってるよ」


「ありがとうございます。本当は制服で参加したかったんですが、騎士団の内規で騎士団所属になった生徒は団の制服で出るように決まってて……」


 揃いの制服でダンスしたかったのに、と萎れるユルゲンのところにアネットがやってきて、制服姿で淑女の礼を取った。


「王太子殿下に卒業の寿ぎを申し上げます」


「ありがとう。アネット。今日は制服でよかったの? オクシデンス商会でドレスを仕立てても良かったんだよ」


 ロスカスタニエ家は爵位を失った。

 アネットも放校になるところだったが、来年度から実施される特待生制度と平民の特別入学制度で優秀な成績を取り、特待生として今までと変わらず学校に通えることになった。

 また、ロスカスタニエ家凋落の原因を作ったオクシデンス商会からアネットに対し私生活の支援を行なっていて、今回のドレスもそこに含まれるから気にせず仕立てるように伝えたのだが、アネットはそれを固辞したのだ。


「もちろんです。学生会の役員としても、今の身分にもふさわしい装いだと思っています」


「彼女に俺の色のドレスを贈りたかったんだけど学生同士でおかしいって嗜められました。しっかりしていて素敵だと思いませんか? だからアネットが制服なら俺も制服であわせたかったんです」


 デレデレとした態度を隠しもせずにユルゲンがのろけて、アネットがはにかんだ。

 あの事件の後二人は順調に愛を育んでいるようだ。


「ああ、でもアネットの卒業の時はドレスを贈らせて欲しい。俺の色のドレスを纏った君が見たいんだ。リアム殿下が給料を弾んでくれるはずだし」


「まあ。楽しみにしていますね」


「ユルゲンってさ、結構そういうのに憧れがちだよな。物語から影響受けたり、形から入ったり」


 軽やかに笑うアネットとユルゲンに横からジョヴァンニが茶々を入れる。


 困難を乗り越えた学生会の役員の間には気楽な空気感と強固な絆があって、リアムにもそれは心地が良かった。


「憧れたっていいだろ。憧れるだろ?」


「それがきっかけだったので、私にはそこも好ましいんですよ」


「おっと、ごちそうさま。ユルゲンからでなくてアネットから惚気で返されると思わなかった」


「お前らだって相当なもんだからな」


「のろけてるつもりはないよ。ただ、気持ちに応えてもらって、将来まで約束してもらえた彼女に誠実なだけだ」


 ジョヴァンニの細い目がさらに細まり頬が染まる。あの辛い状況で見返りなど考えずにレジーナにその想いを明かしたジョヴァンニの誠実さにレジーナは心を開き、紆余曲折の末に婚約に至った。

 大人の事情の調整諸々に巻き込まれ、テオドールとの一年間でも胃を壊さなかったジョヴァンニがよく効く胃薬をリアムに所望してきたのも記憶に新しい。


「ソフィアもだけど、ジーナも遅いね。何か聞いてる? ジョヴァンニ」


「大公閣下と一緒に来ると聞いているので、そろそろ来るかと思いますけど」


「待たせてごめんなさい」


 噂をすれば影。そこにレジーナがエリアスとケインにエスコートされてやってきて、その顔を大輪の花のような笑顔で綻ばせる。

 もちろんその表情はリアムに向けられたものではない。


「ジーナ。男を待たせるのがいい女の条件だよ。君は今日も素敵だ」


 笑顔を向けられた相手であるジョヴァンニも顔を輝かせてレジーナに手を差し出し、婚約者としてエリアスからエスコートの役を引き継いだ。


「大公閣下、公爵閣下、本日は学生会主催の卒業パーティーにご参列いただきありがとうございます」


 ジョヴァンニが礼儀正しくレジーナの保護者二人に頭を下げる。


「なに、来年のためにしっかりきっちり釘を刺しておこうと思ってね」


「賛成です。卒業後はオレ達の目も行き届かなくなりますし」


「パパもジョヴァンニも心配しないで。交流祭の後、皆から謝罪も受けたし、ソフィアと一緒にベルニカ刺繍の会に入って、そのおかげで仲の良い子もたくさん出来たの」


 そう言ったレジーナの表情には一片の曇りもない。ただ眩しく輝く笑顔がそこにあってリアムは目を細めた。


「今の顔、ちょっとヴァンニっぽかったですよ。殿下」


 こそりとユルゲンに囁かれてリアムは吹き出した。


「ユルゲン、少しふざけすぎですよ」


 アネットに嗜められたユルゲンは気安くそれに返した。


「学生生活も今日でおしまいだからね。王太子殿下や公爵令息にふざけた口のききおさめだ」


 そう、ジョヴァンニは今、ジョヴァンニ・ダスティ子爵令息ではない。今はジョヴァンニ・フェリエール、インテリオ公爵令息だ。

 レジーナと添い遂げるためにインテリオ公爵であるフェリエール家の次男として養子に入り、ダスティ子爵家は彼の妹が婿を取って継ぐことになった。

 ジョヴァンニは『権力と金と地位のあるしごできおじさん達のパワーゲームの恐ろしさを垣間見た』と震えていて同情したが、彼を領地に帰す事なく未来の宰相候補に据えられたので結果オーライである。


「レジーナ殿下がああやって幸せそうに笑えるようになって良かったです」


「そうだね。アネットもありがとう。君の心配りに感謝している。卒業までレジーナを支えて欲しい」


「もったいないお言葉です」


 綺麗な礼をもう一度向けられたところで、さりげなくユルゲンが自分とアネットの間に割り込んできた。


「殿下、大公閣下達を来賓席にご案内しなくてはいけないのでは?」


「愛されてるね。アネット」


 リアムが笑うとアネットもそれに笑顔を返す。そこで話を打ち切ってリアムはアレックスとケインを来賓席に案内した。

いつもお読みいただきありがとうございます。

現在書いているこの章がエンディングエピソードとなり、9月中に完結予定です。

あと数話で完結となりますのでよろしくお付き合いください。エピローグをつける予定でしたが、話としてこのシーンで締めた方がこの話の完結として正しいと判断しましたので、エピローグのエピソードは別途番外編としたいと思います。

ブックマーク、エピソード応援、評価、全てモチベーションになっていますので、ぜひ★★★★★で応援よろしくお願いします。

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