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父よ、何故我を見捨て給うのか

「ち、ちうえ……。どうして! 僕を見捨てるってことですよね?! それもただ見捨てるわけじゃない!! ノーザンバラ人達のように広場で嬲られながら惨めに処刑されて死ねってことですよね!」


 テオドールは絶望に灼かれた肺を引き絞って叫んだ。

 この裁判の前にノーザンバラ人達は連合王国の平民として仮の戸籍を与えられ、苛酷な取り調べにかけられた末、生き残った者は大逆罪の裁定を受けて酌量なく死罪となり、王都の広場で犯した罪の重さに相応しい形で処刑された。

 唯一助命されたのは未成年の女だったマルファだけで、その彼女も大衆の前で目立つ位置に大罪人の印を入れられ、ナザロフの首をノーザンバラまで徒歩で運ぶ労役を下されたという。

 今、父はテオドールを彼らと同じように断罪し、公開で罰を与えよと王に言っているのだ。

 指先が冷えて小刻みに震える。

 前回のリアム達との揉め事の時も、両親の懇願で助かったから今回もなんとかしてくれると漠然と考えていたのが、無惨な形で打ち砕かれた。


「それすら、分からないのか……」


 耐えきれない様子のコンラートは顔を覆って、力無く口に出した。


「お前の兄を殺したのは、ノーザンバラ帝国の人間だ……」


「え?!」


 無知なテオドールを詰るように舌を打って、父は語気を荒げた。


「あの査問会の時、謝罪をし、命乞いをし、反省をする約束で温情をかけられた! なのに、なのにお前は! それを理解して真摯に行動するどころか、よりにもよって兄を殺した人間と手を結び、ことが露見した今、その罪をレジーナ姫になすりつけようとした。それを赦せると思うのか」


「そんな事知らない!! 兄上は馬車の事故で死んだとしか聞いてない!」


「馬車に細工がされていた! 疑わしい者もいた。だが、確証までは得られなかった。迂闊に殺されたなど口に出せるはずがない! 子供に恨み言を聞かせるつもりなどなかった」


「そんなこと! 聞いてもいないこと! どうやって分かれって言うんだ!」


「時期を考えろ!! エリアスが南溟で襲われ、彼の子供達が王宮で不審な死をとげた。それらすべてノーザンバラの仕業だと発表された。同じ時期に事故死した兄もそうだったかもしれないと想像も働かなかったのか?!」


「僕が産まれる前になにがあったのかなんて、聞かなきゃ分からないじゃないか!! 死んだ兄上のことばかり大切にして!! 貴方は僕には説教ばかりだ!」


 テオドールは悲鳴じみた声をあげた。

 父に期待されていたのも分かる、正しく育てようとしていたのも分かる。求めれば与えられた。

 でもそれだけだった。上辺だけだ。

 詰られたコンラートは目を見開き唇を引き結んだが、厳しい態度を変えなかった。


「何があったか伝えなくても、常々お前にノーザンバラは敵国だと教えていた。王族としての正しい立ち振る舞いも教えたつもりだ」


 確かに父はそう自分に教えていた。だからテオドールは最初アッシェンとの対話を拒絶した。


「でも父上はノーザンバラ人やノーザンバラの血を引く者が全て敵ではないとも言った。アッシェンから話を聞いて、自分でも調べて、彼らは陛下と協力関係にあったって見つけたから……敵ではないと思ったんだ……」


 独り言めいてこぼれたテオドールの言葉に誰ともしれぬため息が上がった。

 子供じみた言い訳への呆れとも同情ともとれるそれだ。


「それはノーザンバラの血を厭う者も、ノーザンバラのやり方に反発を覚えて連合王国に力を貸すノーザンバラ人もいる。それを見誤るな、という意味だろう」


 哀れみを含ませてインテリオ公がテオドールを諭し、周知の秘密を口にした。


「私はノーザンバラの血を引くが明確に奴らと敵対している。インテリオは私が王位を継いだせいで彼の国に属国扱いをされた。だから私は完全な属国になる前に母を切り捨て、連合王国に恭順した」


 テオドールはレジーナに視線を飛ばし、レジーナは彼を睨みつけて首を縦に振る。

 レジーナが訴えてきたことを、そして自分の今の立場とやった事をここに来て彼は自覚した。


「母上。はは、うえ……助けて、ください! 貴方は僕を愛してくれていたでしょう??」


 テオドールは幼い時のように母に縋り付くが、ペトロネラはテオドールから顔を背けた。涙がぽたぽたと膝の上に品良く置かれた彼女の手の甲にかかる。


「無理なの……テオドール。私の私有財産はあの査問会の時に、あなたを助けるために、なにもかも、使い果たしてしまったの。ごめんなさい」


 無力をかぼそく訴える母の姿に、テオドールは慟哭した。

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