面会
「伯父上! レジーナに面会する算段をつけました」
レジーナが罪を認めたという報告を受けたリアムは部屋を飛び出し、王太子の権限を使って父との面会をねじこんだ。
そして、納得がいかないと強弁してヴィルヘルムからレジーナとの面会権をもぎ取って帰ってきたのだ。
「伯父上、しっかりしてください。なんでレジーナがあんな出鱈目な書類にサインしたのか、本人に確かめないと」
レジーナが供述したとして調書に書かれた内容は
『テオドールを唆して共謀者とし、マルファとジョンを囮としてリアムに差し出しその目をくらまし、ナザロフやアッシェンと共に、文化交流祭でリアムとリアムの側近たちの暗殺を図るべく襲撃事件をしかけ、その前段階において最も邪魔になりそうなライモンドに毒を持った』
というもので、ここまで当事者としてつぶさに状況を見てきたリアムから見れば、あまりにもレジーナに悪意のある主観の入った解釈で、リアムの知る事実と齟齬がある。
またレジーナの人となりを考えても、とても本人の供述とは思えない内容だった。
そしてこの通りに裁判で認められてしまえば、レジーナは相当厳しい状況に追い込まれるのは明白だった。裁判の票を握る公爵達の気持ち一つで死罪になりかねない。
それを読んだソフィアもベルニカ公爵経由で根回しすべく、慌てて父親の元に戻ったほどだ。
「アレックス、しっかりしろ。リアムの言う通りだ。呆けてる場合か」
ケインに促されて、まだ衝撃からさめやらない面持ちのアレックスはゆるゆると立ち上がった。
「あ……ああ。そうだ、そうだな」
「ディオン。ジョヴァンニ。留守番を頼む。ガイヤールがまた何か情報を持ってくるかもしれないし」
「殿下……! オレも……いえ」
居ても立ってもいられないと言った顔をして半腰になり、しおっと再び席に腰掛けたジョヴァンニを横目にディオンが口を添えた。
「留守番はボク一人で十分だと思うんで、殿下のお付きにジョヴァンニを連れて行ったらどうですか?」
「ジョヴァンニ、ついてきてくれる? 伯父上、行きましょう。どう考えても彼女の本意じゃない」
牢獄棟に赴き貴賓牢の入口前まで行くと、見張りの近衛騎士が一行を阻んだ。
「王よりレジーナ姫との面会の件は連絡が来ておりますが、フィリーベルグ公爵閣下。閣下の同席は認められません」
「なぜだ?」
鼻白んだケインに中年の近衛騎士は告げる。
「被疑者の安全のためです。閣下のご令息は毒の影響で重篤な怪我を負われました。閣下が自らの手で被疑者に報復をはからないとは限らない。貴方は武器を取り上げても素手で他人を殺せるお人だ」
「俺がそんなことをすると思っているのか」
「私の同期は他ならぬ貴方の手で殉職しましたが? 二〇年前、十二歳の子供に過ぎなかった閣下は王の部屋を護る近衛を二人も斬り殺した。我々がそれを黙っているのは王の命と子供に斬り殺された不名誉を彼らに与えないためだ」
そう淡々と詰られて、ケインは俯いた。
握りしめられた拳は震え、眉間に寄った皺とへの字に結ばれた口元は当時を悔いているように見える。
「ケインさん……」
「そうだな。俺は遠慮しよう」
そう言って頭を上げたケインはいつも通りの表情をしていた。
「アレク。前にも言ったが、取り繕わずに全て話して、それでもなお、娘として愛していると伝えてやれ。あの子が求めているのは上っ面じゃない。貴方の心の闇の奥にある真実だ」
「ああ……」
小さく頷いたアレックスの肩をケインが叩き、踵を返す。
リアムがアレックス、ジョヴァンニと共に貴賓牢の中に入り、面会室に通されると足に鎖をつけられたレジーナが連れてこられた。
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