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強運な公女

 遠目から見た西門には二人見張りがいて、剣を片手に立ち塞がっているように見えた。当然門は閉じられている。

その二人を倒して門を開け、外に出るのは難しいだろう。覚悟を決めたソフィアは馬を落ち着かせながら足をためる。


「やれるわね」


 馬がそれにぶるんと首を回して応えた。老いてはいるがいい馬だ。かつての戦乱の際に活躍し、引退した馬かもしれない。

 ソフィアは馬に合図を送り、脚を一気に早めた。

 それに気づいた門番が呼び子を鳴らすが、増援が来る前にソフィアは馬を見張の横手の柵の手前で跳躍させた。

 馬が力強く大地を蹴り、体が浮き上がる。スリットを入れたスカートがはためいて足に風が当たった。

ソフィアを乗せた馬は、間抜け顔を晒す見張りを尻目に、学校と外とを隔てていた高さ6フィートの柵の向こうまで見事な跳躍を見せてくれた。

 鞍があればもっと安定していただろうが、裸馬だ。着地の瞬間身体が傾ぐ。

 冷や汗をかきながらも体勢を立て直して振り返ると、柵の向こうで、呼子で呼ばれたノーザンバラの手勢が慌てた様子で門の方に移動したり柵を乗り越えようとする様子が見えて胸がすいた。


「それでは、ごきげんよう! ノーザンバラの豚野郎! ひりだしたクソの壁ごときでわたくしを止められるとお思い? 悔しかったら手持ちの駄馬で追っていらっしゃい!」


 彼らが門を開けて追ってくれば、他の人間が逃げる隙に繋がるだろうか。

 ソフィアは手の甲を見せて、人差し指と中指を天に向け、煽るだけ煽り散らかしながら馬を走らせる。

 そうして逃げた先、城へと向かう大通りは馬車がひしめいていた。


「まずいわ……」


 文化交流祭には生徒の家族や学園の関係者がたくさん訪れる予定だったから、学園に向かう馬車と学園から帰らされた馬車が交錯して、動けなくなっているようだ。

 それは馬にとってもストレスなのだろう。さきほどは素晴らしい跳躍を見せた馬だったが、喧騒のせいで落ち着かない。

 鞍がないのも手伝って思うようなスピードを出すことが出来ず、ソフィアは苛立たしげに舌を打った。

 さきほど煽りに煽った彼らが馬を確保して追いついてきたら、という不安が背中を這った。

 当然、それに加えて焦りもある。

 一刻も早く王宮に行き、応援を連れて学園に戻りたいのに、馬の脚は遅々として進まない。

 リアムと二人で門を突破して彼だけを逃すべきだったかもしれないと、ソフィアは後悔していた。

 自分を逃した時のリアムは何か嘘をついていた。口実を探して自分を逃がそうとしているように思った。

 それは勘のようなもので根拠はない。

 リアムの言葉は彼の身体能力を考えても筋が通っていたし、彼の意思を無視して揉めて時間を無駄にも出来ないと思ったから、その意思に従った。

 けれども、それでよかったのだろうか? 

 戦場において迷いは害悪でしかないと、何事にも拘らない父がそれだけは何度も言っていたのにソフィアは迷った。

 それが体勢の崩れに繋がった。さらにタイミング悪くそこに爆発音が響いて馬が暴れ、ソフィアは馬から投げ出された。

 スローモーションのように空を飛んで、これは死ぬか取り返しのつかない大怪我になるな、と、どこか他人事のように考えたソフィアだったが、その未来は訪れなかった。


「公女は強運だな」


 危なげなくソフィアを横抱きで受け止めた男が、琥珀色の獣めいた瞳を細めて小さく笑う。


「ケインさん?? どうしてここに?」


「レジーナに会いに学園に向かう途中だった。が、それどころじゃないようだな。馬車が動かないから状況を確認しに外に出たら、馬に乗ったお前が見えた。止めるつもりで待ち構えていたら爆発騒ぎで馬が暴れて、今というわけだ」


「助かりました。おろしていただけますか? あと馬はどこに? 早く城に助けを呼びに行かないと」


「凱旋門で爆発が起きている。おそらく他のところでも。その騒ぎを収めるのに人手が割かれていて、城に向かっても無駄足になるかもしれない。その様子、学園でも何かあったんだろう? はやる気持ちは分かるが、まずはアレックスと俺に状況を聞かせてくれ。悪いようにはしないから」


ケインはソフィアを降ろして身につけていた無骨なマントを脱ぐとソフィアの肩に羽織らせた。

それはマントとしてありえないほど重かったが、その重みがソフィアの心をほんの少し落ち着けた。

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