表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/236

鯨飲馬食の夜は更けて(エイプリールフール番外編、エリアス、サミュエル、ケイン、オリヴェル、ライモンドの飲み会)

エイプリールのための番外編の為に書いたわけでもないんですが本編のこの後を考えると、こういう時にアップしておかないと完結まで上げる機会がなくなりそうなのでアップします。脳みそを空っぽにしてお読みいただければ。この世の終わりみたいな飲み会をググってから読むと味わいが深いかと思います。

 ノイメルシュ首都、花鏡通にある最高級娼館、ミルヒシュトラーゼの夜が更ける。


「パイセン? のんでなくなーい? ウォウウォウ」


「はーい! のーんでのんでのんで、いっきっきのき!」


「最悪だ! なんださっきから! この、この世の終わりみたいなコールは?!」


 我慢ならない、といった風情で叫んだエリアスの肩をケインが叩いた。


「ベルニカ騎士団の伝統だな」


 オリヴェルとベルニカ公爵にしてソフィアの父サミュエルのコールに合わせてライモンドが酒を開けていく。


「開けたぞ!」


「いーっきでおわれば男が廃る! にーきにきにき、ライモンドニキ! ニーキでおわれば男が廃る!」


 オリヴェルがそろそろ酔いが回っていそうなライモンドに二杯三杯と盃を重ねさせる。この男、自分は飲むのを最低限に人に酒盃を勧める立ち回りが上手い。


「飲ませすぎだろ。ここは首都最高の娼館だ! 品位を下げるような飲み方をしてくれるな。くそっ! 海亀島の最底辺の飲み屋よりガラが悪い…!」


「エリアスー! 言いたいことわぁ! 飲んでからイェ! のんでからいえ! 飲んでからイェイイエイ! 」


 サミュエルから差し出されたジョッキの酒を片手で止めたエリアスは、目の前の火酒の小さな盃を飲み干す……ふりをして、袖口に仕込んだ手巾に流し込んだ。

 酔客の酒の無理強いに付き合ってやる義理もない。


「はい、サミィ、なーにもってんの? お酒もってんの? 飲み足りないから持ってんの? はい、のーんでのんでのんで」


 さきほど受け取らずにサミュエルが持ったままだったジョッキをエリアスは彼自身に空けさせる。

 ベルニカのコールは品性的に真似ができなくても、エリアスは奴隷時代、娼館で働いていたしアレックスとして海亀島で呑んだくれ共と過ごして来たのだ。相手を乗せる盛り上げなどお手のものだ。


「そうそう! 楽しく飲まにゃ! いいぞ、そのノリだぞ、エリアス! 酌だ! 酌をせい!」


「はぁい。よろこんで!」


 すでに出来上がって馬鹿殿感が高まっているサミュエルのジョッキに、強い酒をまるで軽い酒のように見せかけて注ぎ、飲むように促すと男は腰に手を当てて飲み干した。


「一気で終われば男が廃る。二気でも兄貴に不相応! さーんきさんきさんき、サム兄貴!」


 アレックスの考えを読んだらしく、酒を注ぎ足しながらいい声でケインがコールを入れはじめた。ケインがこういう合いの手を入れられるのを初めて知った。


「任せとけ!!」


 調子に乗ってぐいぐいと酒を煽ったサミュエルは返礼とばかりにケインにジョッキを渡して一気飲みを強要する。

 顔色も変えずに軽く酒を空けたケインはサミュエルとオリヴェルに三杯ずつ盃を重ねさせる。

 

 そもそもエリアスは宮殿ではなく寛げる場所で、サミュエルからベルニカの情報を引っ張りつつこれから学園に派遣するオリヴェルの人となりを確認する気持ちで自分の持ち物であるミルヒシュトラーゼに二人を招待したのだ。

 だが、こうやって空気も読めず、他人に酒を強要し、鯨飲馬食を極めるというのなら少々仕置きが必要だろう。


「ねえ、サミュエル。せっかくですからきれいどころも呼びませんか? ミルヒの星々にもあなたの勇姿を見てもらいたい」


 サミュエルとの距離をつめて、そっと身体を寄せて耳元に甘く囁く。

 腰を抱かれて触られたが、それぐらいは許してやろう。


「おお、いいな! たしかにお前だけじゃ物足りないと思ってたんだ。顔はサイコーに好みなんだが、チ⚪︎コついちゃってるしな!」


「最高の星達を連れてまいります。今日はこの店、サムのために貸切にしていますから、どの娘も用意できますよ。一人と言わず、二人、三人侍らせましょう? 全員呼んで、指名しますか?」


「お、いいな! それは実にいい」


「費用はベルニカ持ちでよろしいですね。サムはそういうところでケチケチしないで私達におごってくれますね」


「おう、おう。よきにはからえ。美人には逆らえんな!」


「え、閣下! それグレイス様におこら……」


 オリヴェルは、吐いた時にすぐ処置できるようにこれを用意するのが伝統、などと言って持ち込んだバケツに盃の半分を捨てていて、まだほろ酔い程度だ。

 ケインに目配せするとちゃんと意図を汲んだらしい。かなり酔いが回って本当に吐きそうなライモンドにバケツを渡してオリヴェルから遠ざけ、酒を勧めはじめた。


「ほら、足りてないぞ。オリヴェルのちょっといいとこ見てみたい!」


「あぁッ! くっそ! 公爵に勧められたら断りきれない! どうにでもなれぇ!」


 ケインにつかれて本気で飲みはじめたオリヴェルを尻目にエリアスは店のキャストに合図を送り、この娼館で最も価格が高い女性と酒を選りすぐりで手配させる。


「搾り取れるだけ搾り取れ」


 後にケインはその時娼婦達にそう命じたエリアスの表情を、優しい顔をした魔王と評した。



「な、なんじゃこりゃあ!!」


 サミュエルは王宮以上の寝心地のふかふかベッドの上で飛び起き、絶叫した。

 キングサイズのベッドの上にはしどけない寝姿の娼婦が三人ばかり。やった記憶はない。

 ないが、シュチュエーション的にやらかしている。

 慌ててベッドから降りて天蓋にかけられた紗をあけて部屋を見渡すと、部屋の中には高級酒のボトルに樽、さらに食べさしのフルーツ盛りが見苦しくない程度に整えられて置いてある。

 まちがいなくご乱行の翌朝だ。片付けられずに置いてある飲食物は派手に遊んで記憶をなくしそうな客がどれほど頼んだのか分からせるために片されないという不文律がある。

 若い頃でもあの人数で樽が空いたことなどあっただろうか。これは人生で十指に入るやらかしの気がする。


「おはようございます。昨日はお楽しみでしたね」


「えっ?! エリアス! そ、その格好、ま、まさかお前とも……とか言わないよな?!」


 風呂上がりの濡れ髪にシルクの薄いガウン一枚引っかけただけのエリアスがやたらと艶かしい。

 肩口まで抜いたガウンの境目に鬱血痕らしきものが見えて危機感がいや増した。

 これは酒の力でその気になって、乱交に引きずりこんだ可能性がある。

 エリアスはにこり、と口許だけで笑んで首を傾げる。


「おっ! おい! 頼む! なんとか言ってくれ!」


「昨日は私の腰を抱いて美人には逆らえない、と言っていたのに忘れてしまった?」


「ああっ……!!」


 それはうっすらと記憶にある。これはやばい。頭を抱えたサミュエルにエリアスは追い討ちをかけた。


「こんな格好、私の忠実なケインに見せられないので着替えてきますね。素晴らしい夜でしたよ、サム。こちら、領収書です。公爵夫人に使いを送りすでにお支払いいただいています」


 エリアスの美しい手が頭を抱えたサミュエルの手を取って白く輝く紙で作られた封筒を渡し、するりと猫が身体をくねらせるような動きで離れていく。


 戦場でも感じたことのない危機感を覚えながら開けた手紙には美しい筆跡で一晩四人で使うにはそうそう考えられないほどの超高額の領収書と支払い明細が入っていて、サミュエルは帰宅後の死を覚悟した。


 その後着替えてケインと共にやってきたエリアスにドッキリ大成功とばかりにネタバラシをされ、やることはやってないと確認が取れて一安心したサミュエルだったが、その後エリアスにしっかりネチネチ説教をされた。

 悄然と王宮に帰ったところで、入り口に鬼の形相のグレイスが立っていた。


「昨日の夜は、相当、お楽しみだったとか?」


 サミュエルは娼館で手渡された領収書だけは冗談でなく本当であり、グレイスが全て把握されていると理解した。


「いや、その……! ただ飲んだだけなんだ!」


 言い訳も虚しく、グレイスにきっちりとしめられたサミュエルだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、エピソード応援、評価、全てモチベーションになっています。

まだの方はぜひ★★★★★で応援よろしくお願いします。

男娼王子中のアレックス(エリアス)回想で、女だったら…って言ってるのはサミュエルという裏設定があります。

あとサミュエルもエリアスと違う方面の超美形という設定です。クール系のイケメンですが残念が上回ります…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ