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王子様に見えますか?

 全力で走って寮のところまで戻った一行だったが、全ての敵を振り切れたわけでなかった。

 しんがりのユルゲンが追いついて来た二人を相手取って戦い始めた。

 危なげなく一人を斬り伏せたものの、そこで一瞬動きが止まった。

 その隙をついて敵のもう一人が剣を振りかぶった。


「ユルゲン!!」


 リアムの叫びに応えたのは、ユルゲンではなく走り込んできたライモンドだった。

 彼は鮮やかに敵を倒して、剣についた血を落とす。


「間に、あったな。大丈夫か? ユルゲン」


「……うっ……あっ、はっ……」


 青ざめた顔で半開きにした唇を震わせ目を見開き、剣を強く握りしめて固まったユルゲンの肩をライモンドの後ろからやってきたオリヴェルが抱いた。


「ユル騎士、処女卒業オメ! はじめてはさ、ちょーっと刺激強いよネ。ねぇ知ってる? ライモンドパイセンは初めての時、相手の横でゲボッたんだって。ちゃんと立ってるだけ立派立派」


「初陣吐きの話を引っ張んな! 吐いてねーから!」


「えー、じゃあ失禁派? それとも興奮してイッちゃったクチ?」


 実にオリヴェルらしい不謹慎な軽口だが、はじめて人を斬って自失し呆然とするユルゲンの気持ちを立て直すためだと理解して、リアムは口を挟むのをよした。


「どれでもねぇっての!! ユルゲン、騎士ならば必ず通る道だ。よくやった。今の状況を報告しろ! 一般の生徒達はどうした?」


「え……! あっ! ああ! はい! 我々は東門から脱出をはかりましたが、列が伸びたところを潜伏していた敵に襲われました。死者や怪我人はなく生徒達は警備兵に守られながら東門から逃れることができました。我々は東門に陣取る敵に加えて北門方向からも増援が来たために逃げることが能わず、こちらまで引き返してきたところです」


 オリヴェルとライモンドのフォローで衝撃から立ち直ったのか、ユルゲンがきびきびと事情を説明しはじめる。


「そうか……そいつはよくないな。リアム殿下、私からこちらの状況を報告いたします。先程殿下を狙った射手については屠りました。それはさておき、まずこれを」


 臣下としての口調で報告を始めたライモンドに皺の寄った紙を渡されてリアムは首を傾げた。


「これ、ライモンドの筆跡だよね? いつ書いたの?」


「これは私の手跡ではありません。射手を追っている時にオリヴェルと合流し、彼がテオドールを捕縛していない旨を聞きました。レジーナ殿下の安否が危ぶまれると判断し、学生会室に向かいましたが、すでに殿下は護衛と共にいなくなっておりこの紙が置いてありました。ノーザンバラ帝国の工作員であった教師アッシェンに、この手紙で誘い出されたと思われます」


「……まずいね」


 報告は終わり、とばかりにライモンドは口調を崩した。


「ああ。なんで、オリヴェルに地下牢に行ってもらおうと思っている。出来るな?」


「まっかせて! レジーナ姫さんを探し出して救出して脱出って勇者っぽくていいね!」


 オリヴェルの軽い態度や、今までの言動にレジーナ救出を彼一人の働きに頼むことに不安が拭えない。

 リアムが渋い顔をすると、ジョヴァンニが手を挙げた。


「殿下、俺も一緒にレジーナ殿下を助けに行きます。剣の腕では足手まといになるとは思いますけど、二人運ばないといけないとか、単独行動じゃ対処できないことも出てくるかもしれませんし。あ、そうだ。殿下、ローブを交換していただけますか?」


「え??」


 ジョヴァンニが制服のローブを脱いでリアムに差し出した。


「オレと殿下は背格好や髪の色が近いですから、俺がローブを替えてオリヴェル先生と歩いてたら、遠目には護衛付きの王子に見えて撹乱できるでしょ? 目もなるべくかっ開いて歩きますよ」


「あ、ひょっとしてバンニってば……」


「今ここで、あんたの他にいっぱしに戦える人間はソフィアとユルゲン、それにライモンド先生しかいません。ユルゲンもライモンド先生もリアム殿下の護衛ですからね。あんたについて行ったほうが生き延びる確率が高いって判断なんで、ゲスの勘繰りはやめてください。ってわけでオリヴェル先生、オレのこと守ってくださいね」


 ジョヴァンニはオリヴェルの軽口を遮って、リアムが受け取るのをためらっていたローブを今度は強く押し付けてきた。


「オレ、一度オクシデンス商会縫製部謹製の王族用最高級ローブ、着てみたかったんですよ。それを着たら冴えないオレも王子様に見えちゃうかもしれない。ねっ! 殿下。貸してください」


 ジョヴァンニは露悪的で打算的で商売っ気が強いように自身を装っているが、実際のところは底抜けのお人好しだ。そうでなければ惨めな庶子だった自分に手を貸さないし、リアムが行方不明になったあと一年近くテオドールの下で理不尽に耐えたりしないし、レジーナにも手を差しのべない。

 ぐっと拳を握りしめたリアムはローブを脱いでジョヴァンニに渡した。


「レジーナを頼む。ジョヴァンニ」


「誠心誠意、努力します」


 リアムのローブを身につけて髪型をリアムに寄せたジョヴァンニは深々と礼を取った。

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