失格護衛の見栄と意地
「パーイセン、それ大事な証拠でしょ。握りつぶしてどーすんの」
「ああ、いや、それはそうだな。つい」
オリヴェルに言われてライモンドは手の中の紙をそっと伸ばして裏に書きつけられた文字に目を通した。
「アッシェン……ディアーラの茶と繋がったな。元ディアーラ人と聞いていたが、ノーザンバラの工作員だったんだろう」
「あいつかぁ。あいつたまーにオレのことすっごいじっとり見てきて、こっち見んなって思ってたんだけどディアーラ絡みならしゃーなしか」
「ん??」
「ベルニカって戦争でも気候でも人が死ぬから養子とか連れ子とか一般的でさ。ベルニカ公の後継は実子がよっぽど有能じゃない限り養子だし」
唐突な前振りにライモンドは首を傾げた。
「雑談してる場合じゃないぞ」
「雑談じゃないヨ。オレの実父、ディアーラ王なんだヨ。オレってば亡国の王子なの。気品、あふれちゃってるデショ?」
「いや、まったく?? まあ皆エリアス殿下のようにはいかないから。ほらヴィルヘルム陛下もベルニカ公もテオドールも王族だから気にすんな」
「そこで言葉を尽くして慰めんのよして! 話の腰おんないでよ。王子つっても、オレが物心つく前に母親は離縁されてベルニカに戻ってベルゲン侯と再婚、オレもベルゲン侯の養子になったから、それが? って感じなんだけどさ。ただアッシェンがホントにディアーラ人でノーザンバラの工作員をさせられてるなら、楽しく生きてた王子のオレは恨まれてたのかもなって」
湿っぽい内容とは裏腹にからりとした口調でそう言ったオリヴェルは話を変えるように護衛の書き置きの続きを指で示した。
「でこれ、レジーナ姫サン、地下牢に誘い込まれてるって判断して良いんだよネ? パイセンが書いた手紙じゃないなら」
「ああ。地下牢というと旧王宮の遺構か。なら寮の側を通れるな。レジーナ殿下を追う前にリアム達と一度合流する」
レジーナの身柄の保護も大切だが本来のライモンドの役割はリアムの護衛だ。ユルゲンもずいぶんと頼もしくなったがまだ不安も残るし、このままレジーナを追うわけにもいかない。
「姫さん達も心配だしね。パイセン走れる?」
「まあ……なんとかな」
「パイセェンー! 頑張ってぇ!」
「気持ち悪い裏声を出すな。吐き気が戻る。そうだ、オリヴェル、俺が毒に冒されてることリアム達には絶対に言うなよ? いいな」
「パイセンってば見栄っ張りなんだから」
呆れたようにいうオリヴェルに首を振る。
「見栄じゃない。護衛対象に不安を抱かせちゃいけないんだよ。俺達に不安を覚えたら彼らは護られてくれなくなる。だから、俺に護られているから大丈夫、と思ってもらわないといけないんだ」
「それを見栄って言うんですぅ。そもそも立派な護衛様はこんな風に毒なんか盛られないかんね。自分の失敗を誤魔化したいだけでショ」
ライモンドはまぜっ返してきたオリヴェルに乾いた笑いを返した。
「ああ、そうだな。だが、失格護衛なりの意地がある。それぐらいの意地を張らさせてくれ」
「んふっ、リョーカイ。じゃあミルヒシュトラーゼ一回分で口止めされちゃいましょ」
「……高けえよ」
「えぇー?! パイセンのケチンボ! 死なないようになんか約束あった方がいいでショ?」
「そんなつまらない約束が未練になるか! この戦いが終わったら結婚するとかそういうのだろ、踏ん張りがきくやつは!」
「あーあ、ご愁傷様。パイセンのフラグ一級建築士! その約束口にして生き残った奴、オレしんないからね!」
「死ぬもんか。結婚どころか俺は俺の理想の嫁さんもみっけてないし、リアムが王位につくところだって見たいんだ」
「あー。オッパイとお尻の大きいバインバインの野営でも付き合ってくれそうな元気っ娘タイプね。巨乳派としては分からんでもないけどオレは健康的な子よりエロガリオ奏でちゃう艶女派。生き残れたらそういう子呼んで豪遊ネ! パイセンの金で!」
「なんで俺の好みを……って! 見た目の問題じゃないし、今そんな話してる時かよ!」
「こういうの、案外大事でショ。パイセンだって分かってるよね? もう学生のおままごとじゃないってコト」
「……生きて、帰るぞ」
噛み締めた歯が軋む。
ライモンドがそういうと、オリヴェルがなにもかも理解した、とでもいいたげにその肩を叩いた。
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