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ライモンドの危機(ライモンド視点)

 こちらに矢をいかけながら逃げ回る射手をライモンドは追いかけ、学寮からずいぶん離れた場所でやっとの事で斬り捨てた。

 普段の自分ならばありえない事だが、たかがこれしきのことで息が切れて、脂汗がしたたり落ちる。

 いや、普段ならば、そもそもこんなくだらない鬼ごっこをする羽目に陥っていないはずだ。


「うぐっ……ゲホッ」


 敵を倒した事で気力が途切れた。

 胃の痛みに耐え切れなくなってライモンドは地面に四つん這いになる。

 のたうち回るほどの痛みをこらえて、喉の奥に指を突っ込み胃の中の物を吐きもどすと、吐瀉物の中に血が混じっている。

 皮袋の水を流し込んで吐いてもう一度胃の中を洗い、さらに口を濯ぐとほんの少し症状が和らいだ。


「クソッ……。串焼きはソフィアも食ってたし、茶か……。ケインさんにドヤされる」


 敵を捕らえて慢心していた。

 リアムは一切の飲食物に手をつけなかったのが幸いだが、彼が催淫剤を盛られて謹慎してた時にあれだけ偉そうに教師面をしておきながら、自分がこのていたらくである。

 ベルニカのブース、オープンスペースで作られた物、さらに茶も反ノーザンバラの機運の高いディアーラ出身の少女が手渡してきたから平気だろうと口にしてしまった。

 耐毒訓練は受けているからこの程度なら命に関わるほどではない。

 ないのだが、今万全に動けないのはまずい。


「うっわ、きったな! パイセン、どうしちゃったの? 百戦錬磨って顔してまさかの人殺処女ひとごろしょじょ? はじめての相手(死体)の横でゲボっちゃうなんて、かわヨがすぎない??」


 顔を上げると、血まみれなのにいつも通りのへらへらとした笑顔のオリヴェルがライモンドの前に立っていた。

 片手には鈍色の抜き身の剣。

 もちろんただ抜いているだけではない。

 それには赤黒く血と肉がこびりついていて、オリヴェルが今日、すでにその得物でいくつもの命を刈り取ってきたと雄弁に語っていた。


「初陣吐きじゃねーよ! 体調不良だ! 汚いとか言うな。少しぐらい心配しろ!」


「ばっちいもんはばっちいでショ?」


「毒を盛られたんだ。しゃーねーだろ」


 立ち上がった瞬間に胃が再び捩れて、ライモンドはしゃがみ込むと再び血を吐き出した。


「うわぁ……だっさ。どうせ買い食いでもしたか、可愛い生徒がくれた差し入れ、疑いもせずに飲み食いしちゃったとかでショ」


 あの場にいなかったのに、見てきたかのようにそう言ったオリヴェルに不信を覚えた。


「なんで、知ってる?」


 オリヴェルは何も言わず、鮮血のような色味の赤い瞳を三日月の形に細めて、意味深な笑みを見せ剣を振りかぶった。

 むせかえるような血の匂いと共にライモンドの赤髪がさらに赤い赤い血に染まった。

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