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穴だらけの計画(アレックス視点)

 オクシデンス商会所有の箱馬車にアレックスとケインは乗り込んだ。

 大公として学園に顔を出すとなると手続きとガイヤールが面倒なので、商会の代表宛に来ていた招待状を使いお忍びで向かうことにしたのだ。

 時間は昼にかかる少し前、空気は冷たいが春の芽吹きを感じる暖かな日差しが満ちていて平和そのものといった風情だ。

 アレックスは昨晩自分が失神させられた後にケインが作ってくれた資料に目を通しながら眉間の皺を揉んだ。


「ケイ……おっと」


 ケインが珍しく馬車の壁にもたれかかって眠っている。

 あの後この資料を作り、体調が悪い時にそれしか受け付けない自分のために赤狼団のスープまで作っておいてくれたのだ。

 人に朝まで休めと言っておきながら自分は無理をしたのだろう。

 彼の睡眠を妨げぬように静かに資料に目を通し、レジーナに接触してきたという人物の名を見て血の気が引いた。


 グレゴリー・ニコラエヴィチ・ナザロフ。

 二十年前船を沈めて、ケインの父を含むすべての乗員を殺害し、エリアスを奴隷としてリベルタの娼館に売り払った男と同じ苗字、そしてミドルネームに入るニコライという名前。

 公用としては省略されることも多いが、ノーザンバラの貴族は名前と苗字の間に父親の名を父称として入れる習わしがある。

 理由までは読めないが、彼はニコライ・ナザロフの息子だとレジーナに知らしめるために父称を含むフルネームを名乗ったのだろう。

 ディフォリア大陸ではジェネラルフロストと悪名名高かった父親と違い、彼についての情報はほとんどないが、あの男の息子という時点で警戒すべきだと考えてしまうのははたして怯えすぎだろうか。

 そんな事を考えながら資料を読み進め、ノーザンバラの手先と思われる少女マルファのレジーナに対する嫌がらせとジョンと呼ばれる少年が学生会の役員達にしかけている調略についての項目で首を傾げた。

 弱みにつけ込むやり方は悪辣だが、つけ込み方が粗雑かつあからさまだ。

 この企みを一言で表すならば児戯である。

 ヴィルヘルムがリアムに学園内の対処について丸投げしたのも妥当な判断だし、レジーナも通常の精神状態であれば好きにさせなかったのではないかと思える程度のお粗末さだ。

 ノーザンバラという国のやり口を考えれば素直がすぎる。

 身綺麗な傀儡役のレジーナはともかく、テオドールをあまり関わらせていないところも不自然だ。

 それにエリアス(自分)の瑕疵を知っているのならばガイヤールの息子ではなくガイヤール自身を引きこんだ方がはるかに効率がいい。

 ヴィルヘルムは彼らが学園に攻撃を仕掛けリアムとソフィアを暗殺し、王とベルニカ公の動揺を誘って仲違いをさせ、国境を崩すと読んでいたようだが、それもしっくりとこない。

 ベルニカとノイメルシュは平常ならば三週間ほどかかる。

 そちらも何かしらの動きは見せるのだろうが、足並みを揃えて騒ぎを起こすには遠すぎる。


「マルファ達が囮でナザロフとテオドールが秘密裏に動いているとして……。リアムの反対勢力は、フォルトル神殿の過激派……か?」

 

口に出してみた予想が、穴の空いた彼らの動きにかちりとはまる。

 肌があわだち、首の後ろの産毛がさかだった。

 ケインがきな臭いと称した理由を理解する。

 この推測が的外れで、単に国力の衰えたノーザンバラ帝国が真っ当に策略を巡らせられなくなっているだけであって欲しいという願いは、ほどなくアレックス達が学園にたどり着く前に崩れ去った。

 メルシア連合王国の勝利とノーザンバラ征伐の勲であるゾンネンリヒト凱旋門が、爆発と火災を起こし、それと時を同じくしてノイメルシュにあるいくつかの神殿で炎が上がった。

 一方その頃、ノイメルシュ郊外にある王立学園はいまだ仮初の平穏のうちにあった。

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