文化交流祭
マルファとジョンは捕えたものの、テオドールが言っていた教師と学園内にはいないナザロフという男はいまだに捕縛されていない。
それどころか教師の正体も分かっていない。
またマルファとジョンが動きを見せた際に、警備兵にテオドールも拘束するように命じた。
が、彼らはまだ学生会室に戻って来ていなかった。
そんな事情もあり、生徒達の安全を優先するために、今日の催しは中止にすると学生会で話し合って決めた。
リアムは副会長のソフィアと護衛のライモンドを連れ、校長のガイヤールと共に学生達の待つホールにおもむいた。
「えー。今回の催しを妨害しようとする人間が、学園に潜入していたのを捕えました。まだ仲間がいる可能性があります。遺憾ではありますが、文化交流祭を中止にしたいと思います」
壇上で校長がそう告げると、大きなブーイングが巻き起こった。
「あとは売るだけになってるのよ!!」
「ここで中止なんてないでしょう!? 毎日遅くまで残って装飾を作っていたのに!」
「劇だって練習したんだ!」
「わざわざ食材をベルニカから送ってもらったんだ! それを無駄にするのか?!」
「それでも安全を優先すべきなんじゃないのか?!」
「ならず者はほぼ捕まったんだろ?!」
憮然としあるいは反対の声をあげる皆の様子に、リアムの心は痛んだ。
自分達もこの準備に時間をかけて来た。計画からだと半年近く経っていると思う。
皆の安全を担保するには中止が間違いだと思わないし、損害はある程度補填するつもりだが、ここまで反対されるとは思わなかった。
「えー! 少々お待ちください! 学生会長のリアム殿下と話し合います! 殿下どうします?」
小声で尋ねられたリアムはソフィアに話を振る。自分の一存では決めかねたからだ。
「ソフィア、どう思う?」
「この状況で中止にするのはノーザンバラに屈することになりませんこと? 皆の意気も軒昂ですし、もう一度危険性を伝えた上で希望者のみの参加にしてはどうかしら」
眉間に寄った皺を揉んだリアムはライモンドに確認する。
「ライモンド、警備の余裕は?」
「今日の出来事は想定内だったからな。完璧とまでは言えないが、なにかあっても立て直せる程度にはいる」
「……なら武道会と語劇については延期、模擬店のエリアだけオープンして縮小開催にしよう。それならある程度不測の事態があっても対応できるかな。それと招待券を持つ人間でも学生の保護者と生徒達の弟妹のみに入場を制限して必ず招待状と本人の紋章を確認。時間がかかってもいい。もしも警備兵に喰ってかかる人間がいたら、その時点で拘束する。その旨は掲示しておく」
「警備責任者としては完全中止がベストだ。が、これだけ反対が出ているところで強行的に中止にすると、別の問題が起きそうだからな」
ライモンドが消極的に賛成し、ガイヤールはにこやかに頷いた。
「次善案として素晴らしいです。ではリアム殿下から伝えてもらえますか? その方が皆喜ぶでしょう」
「責任取ることになったら僕に押し付けられるって透けて見えてるけど?」
「やだなぁ! 責任を分散できたらな程度ですよ!」
「……貴方が話しても、全部被せようなんて思ってないから安心して」
「わ、わぁ、リアム殿下、陛下と違ってお優しい……! 陛下はノーザンバラとの間で生徒に不慮の事故死なんかがあったら私に詰め腹切らせるつもりで校長に任命してるのに」
「え、そうなの? っていうかそれ分かってたのに受けたの?」
「私、エリアス殿下が関わらなければ有能なんでそれぐらい分かっちゃうんですよ。まあでも,エリアス殿下に頼まれちゃったんで受けるしかないですよね」
「なるほど、関わるとポンコツなんだっての伝わってきたよ……。さ、これ以上待たせられないね。今決めたことを発表してくる」
リアムは生徒達に一部延期ながらも文化交流祭の開催を告げ、それに惜しみない拍手が与えられた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、エピソード応援、評価、全てモチベーションになっています。
まだの方はぜひ★★★★★で応援よろしくお願いします。