捨て石(マルファ視点)
昨日の夕方に1話更新しています。お読みでない方はそちらからお読みください。
文化交流祭当日。
アネットが作ったはずの入場経路の隙をつこうとしたノーザンバラの手先はことごとく拘束され、マルファとジョンも学園の警備兵によって捕えられて、役員の揃う学生会室に連れてこられた。
「どういうことよ!! なんで!? なんでよ! ディオン君! お父さんの事嫌いじゃなかったの?!」
「どうしてボク達が手伝うと思ったの。学生会の生徒はリアム殿下に忠誠を誓っている。君たちにはその価値がないから誓わせなかっただけで。あとさ、開会の時に使ってって君に渡された花火、花火じゃなくて殺傷能力あるやつだよね。人の命を奪うようなこと恋人にやらせようと思うなんて、ひどいなぁ」
こちらを拘束した人間の口から出る、恋人という言葉は白々しくていかにも薄っぺらい。
「別にあなたのことなん……」
「あっ! 先に言わせて。ボク、君のこと好きでもないのに恋人のふりをしたんだ。ごめんね、騙しちゃって」
マルファの言葉を遮ってディオンが言い、てへっと舌を出してウィンクする。
自分だって同じだったが、先に言われたのがくやしい。
自分のかわいさを理解して、てへぺろとやるところも腹立たしい。
「家が潰れてもいいのか?! アネット・ロスカスタニエ!! 僕達を裏切るってことはそういうことだぞ!」
ジョンはジョンでアネットにしてやられたのだろう。納得いかないとばかりにアネットに罵声を浴びせかけ、アネットはそれにおっとりと微笑んだ。
「あのままあなたがたに与せば、どのみち大逆罪です。それならばまだメルシア貴族としての誇りを保ったまま没落した方がマシでしょう」
「ボクを使って校長室から警備計画を盗み、アネットを使って隙のある部分をさらに脆弱にして、さらにボクの手を汚させる目的で爆発物を仕掛けさせて陽動。警備の厳しい学園内に暗殺者を入れる。計画は悪くなかったと思うよ。君達の敗因は偏見に影響されすぎてリアム殿下の人望を甘く見てたところと、このクソ親父の事を能なしだと思ってたところだ」
「ディオン君……。私のことを父と呼んでくれるんですね!」
「クソ校長。一生黙ってて」
ディオンにクソ校長と呼ばれなおされ、しょんぼりとする校長はとても有能には見えない。
こんなダメっぽいおじさんと、顔だけと思っていたディオンにしてやられたのだと思うと悔しくてしかたがない。
「親子揃ってそっくりよ! ムカつく!」
「はぁ?! 取り消して!」
「え! もっと言ってください!」
ディオンと校長、二人のやりとりを片手を振って黙らせたリアムがマルファとジョンに言い放った。
「ジョン、それにマルファ。君達を拘束し、大逆罪の疑いで逮捕する。国籍がどこであれ君達はメルシア連合王国の法をもって裁かれる。仲間や計画について全てを供述するのであれば酌量しよう」
リアムの言葉にマルファは揺れたが、ジョンが嘲るように先に口を開いて、マルファは口をつぐまざるえなかった。
「そこにいるお前の妹のレジーナ殿下だヨ! そいつが首謀者で俺達は手助けしただけサ! アネット! せっかくのチャンスを無駄にしたんだ。変態ジジイとお幸せにな。それとも娼館に売られて兄貴みたいな瘡毒持ちになるか? お前のお父様とお母様はそうなった可哀想なアネットちゃんにお金をだしてくれるかな。出せないヨなぁ! ああ、それこそ俺達を売った売女にふさわしい最期だ! アネット・ロスカスタニエ! 呪われろ!」
「その薄汚い口を閉じろっっつつ!!」
リアムの後ろに控えていたユルゲンが、憤怒の表情で踊り出てジョンの顎を勢いをつけて蹴りあげた。
顔が斜め後ろに跳ねて歯が飛んで、鼻が折れ、血がぼたぼたと地面に垂れる。
拘束されたジョンに対し、自分の真横で容赦なく振るわれた暴力が恐ろしくて、マルファの身体は意識せずに震える。
普段なら制御できる涙もコントロール出来ずにマルファは無様に啜り泣いた。
「おい、ユルゲン」
しかめ面でライモンドがジョンに暴力を振るったユルゲンに声をかけた。
彼は強面な見た目に反して、快活で優しい教師だった。
もしかしたら人道的に諭してくれるのではとマルファは期待したが、その口から出たのは血も涙もない言葉だ。
「アネットやレジーナ殿下もいるんだ。あんまり派手にやってやるな。怖がってるだろ。いいか、こういう時は腹だ。この後牢屋でたっぷり内情を吐いていただかないといけないんだから、歯は多い方がいい」
「あっ、ハイ。気をつけます」
「先生! わたくしのこと抜かないでいただけます?! 失礼じゃないですか?!」
「お前は平気だろ。ソフィア。むしろ生き生きしてるし、沽券にかかわるから入れないでやったがディオンやジョヴァンニの方が青い顔をしている」
「あめるな、ヨ……。どんなあつかいをうけヨウとも、話すもの……か」
「別にお前が話さなくても、おまえを痛めつけられるのを見たお隣のお嬢ちゃんはどうかな」
「わっ!! わたし、いい子にします!! ちゃっ! ちゃんと、はなしますから!!」
『まルファ! てめぇ! 裏切ったらおうなるか分かってんだろうな! 指の先から1週間かけて削ぎ切りにしてやる!!』
『メルシア連合王国の法をもって裁くと、さきほど伝えたよ。ジョン。もう君にはそんなことは出来ない。マルファ、怯えず全てを話して、僕達に協力してくれ』
リアムはノーザンバラ語でマルファに話しかけてくれ、その優しげな顔で微笑んでくれる。
『ええ! もちろんです! 全部お話しします!』
ジョンの怨嗟の言葉など耳に入れず、マルファはそう宣言した。この優しげに微笑む王子だけが頼りだ。
だが彼女は、そしてもちろんジョンもナザロフに大した事を教えられていなかったのだ。
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