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唯一執着する者(教師⬛︎⬛︎⬛︎ェ⬛︎視点)

『何やってんのさ。このまぬけ』


 男に与えられた教員控え室。

 レジーナに近づけなくなったと聞いたジョンにノーザンバラ語で罵られたマルファの頬が膨らんだ。


『別にいいじゃない。もう学生会にもぐりこめたんだもの。あの役立たず(レジーナ)に色々やらせてビッて裏切られるより、ディオン君やアネットにやらせた方がいいじゃない。ディオン君と私で校長の気を引いてる間に警備隊の配置場所も写せたんでしょ?』


『はぁーあ、お前さぁ、それは結果論だろ。今お前、クラスの女どもにどんだけ悪く言われてるか分かってんの? レジーナを深みに嵌めないと逃げられるかもしれないのに何やってんだよ。そうやって男にうつつを抜かしてこれ以上ミスんなよ』


『別にうつつなんか抜かしてませんー! 向こうが私に夢中なだけでーす!』


 彼らの能天気なやりとりを聞いていると、ぬるいシロップの中に浸かっているような不快感で息が詰まりそうになる。

 メルシア連合王国の子供達よりはノーザンバラで苦労していた分多少はマシだが、それでも男から見ると甘ったれて姦しい鬱陶しい子供達だ。


『レジーナ王女は逃げられない程度に沼に嵌ってもらうだけで構わないんだ。あんまり手を汚させて、周囲から恨みを買うと使いやすい傀儡にならないからね。目的はあくまでもリアム王子とベルグラード公爵令嬢、それに王子の側近になりうる学生会役員と教師陣の暗殺で、一般の生徒は間引き程度で十分だ。だから二人はそれぞれガイヤールとロスカスタニエの方に集中してくれればイイヨ』


 苛立ちを押し殺して男はノーザンバラ語で言ってやり、銀の髪を引っ張るように掻く。


『君らが動けないならこちらでやるから、テオドールとレジーナの事はナザロフ殿とオレに任せておいてくれ。今のところ誰にも疑われていないし、すでにいくつか別の種は蒔いてある』


『了解しました』


『はーい』


 男は大陸共通語に言葉を切り替えた。密談はもう終わりだ。


「さて、教師として君達に課題を与えないとネ。レポートを三枚提出。題はノーザンバラとベルニカの戦術の違いの観点から見たティグ川の攻防戦について。なんで教員の控室に来たのかって言われたら困っちゃうでショ」


 うんざりした顔で出された課題に文句を言う二人をさっさと追い出してドアを閉め、男は紙で細くきつく巻いた煙草に火をつけ肺の奥まで煙を入れ、ソファーに身を投げ出し天井を見上げた。


「ああ、クソ。なまぬるくて甘っちょろくてリコリス菓子みたいなバカガキどものおもりはもううんざりだ。ノーザンバラとメルシアでせいぜい潰しあって、ぜーんぶ塵芥になればイイ」


 天井に向かってひとりごち、再び煙草を深く吸って、煙で輪を作ってぼんやりと見つめた。

 脳裏に浮かんだのは、自分と同じ銀の髪に自分以上に鮮やかな赤い瞳の持ち主のこと。

 そう。こういう時に思い返すのは、殺し殺され裏切りすらも当然の世界に身を置き他のなににも感情が動かなくなってしまった自分の心を唯一動かすあの子のことばかりだ。

 学園ではリアムやライモンド達と楽しそうにじゃれあっていても、あの子が時折退屈そうに遠くを見つめているのを知っている。

 まだ生ぬるい死しか知らないあの子に、本物の死と破壊を、あの子の瞳のように赤く染まった空と大地の強烈な世界の素晴らしさを見せつけて本性に目覚めさせ、そしてもう二度とベルニカ公に引き離されないように腕の中に囲い込まないといけない。

 最愛であり同じ血も引くあの子は余人には理解できないあの景色の素晴らしさを理解して共に楽しんでくれるに決まっている。

 男は学園が燃え落ち灰燼に帰す様を彼の人とともに見る日を想像してうっそりと笑み、腕に落ちた灰を払い落とした。

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