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どちらが猫でどちらが鼠か?(ディオン視点)

「ディオン君のお父様って、この学園の校長先生なのよね?」


 他愛無い話をしながら、剣護を数えて表を作り、ハンカチの集計に作業が移ったところでマルファがディオンの父親であるヴァンサンの話をはじめた。


「あれの話はやめてもらえる?」


「校長先生、その前はリベルタ総督だったんでしょ。その間、お母様とお二人で領地を守ってたって聞きました。水害で領地に被害が出たのをやりくりしたり、大変だったね」


 だが、マルファは話を続けた。それ以上口を開くなと掴みかかりたいのをディオンは眉間に皺を浮かべるだけでこらえた。

 彼女は下調べの上でディオンが与しやすいと見て、二人きりになって懐柔するためにソフィアを煽って排除したのだろう。こちらもそう思われていると予想して人を配置したのでお互い様だ。


「よく知ってるね」


「だってあなた素敵だもの。好きな人のことって調べたくなっちゃうでしょ?」


 少女はディオンにすがりつき、唇を奪える距離で上目遣いに見上げてきた。

 あまりにも意図があからさまでいっそ笑えてくる。

 ディオンは微笑んで、指先を少女の唇にそっと押しつけた後、距離を取る。


「見た目に惑わされたならやめておいたほうがいいよ。僕はこの見た目通りの優しい人間じゃないから」


「惹かれたのは見た目じゃない。お父さんが外で好き勝手してるのに、お母さんを助けていた健気なところがとっても素敵だなって思ったの」


 そこまで言って少女は声をひそめた。


「だってあなたのお父様、とってもひどいじゃない? 知り合いがリベルタに昔住んでいたことがあってね……。総督は高級娼館の男娼にいれあげて、湯水のようにお金を使ってたって聞いたの。金の冠や最高級の宝飾品まで送っていたとか」


 ディオンは奥歯を噛み締めた。


 ノーザンバラは個々人の弱みをついてくる可能性が高いからと、今回の打ち合わせをした時にリベルタでの父の行状を事前に本人から聞いている。

 父曰く接待で連れて行かれた娼館でエリアスが囚われていた為、保護の意味で通えるだけ通っていただけでやましいわけではないとのことだったが、その辺はまったく信用していない。

 あのクソみたいな父親は、間違いなく、絶対に、推しが娼館にいたことにはしゃいで貢げるだけ貢いで、ちゃっかりやることもやっていたに決まっている。

 腹立たしいが父の性格はこの数ヶ月でしっかりと身に染みた。

 軽薄な弁舌から繰り出されるのは、嘘とは言い切れないけれど本当でもない言葉ばかりで信用しがたい。

 父に対する諦観の上で母と自分のために連合王国に忠誠を誓っているので、どんな言葉をかけられても靡く気はないが、腹に怒りが溜まっていくのは感じる。


「聞きたく、なかったな……」


 口からこぼれたのは紛れもない本音で、ずいぶんと説得力があったらしい。

 こちらに隙があると見たのだろう。


「ねえ……。そんなひどいお父様なんて困っちゃえばいいと思わない?」


 より一層声を潜めて誘ってきたマルファにディオンは、甘く愚かしく、父親に反抗したい子供のようにみえるよう微笑んだ。


「え? なにそれ、面白そう。詳しく話を聞かせて」

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