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大型新人登場

「えっ!? レジーナちゃん、お休みなんですか? 大丈夫かしら?」


 リアムはノーザンバラ語も嗜みがあるし、耳も悪くない。

 心底心配する顔で、クソの役にも立たないわね、と聞こえない程小声で付け加えられたノーザンバラ語の悪態を拾って思わず漏れた渋面をリアムはレジーナが休んでいる事について浮かべた物のように見せかけた。


「打ち合わせの時に倒れたらしくてさ。心配してくれてありがとう。こんな忙しい時に困っちゃうよね。まあでも君達は優秀みたいだし、やくたたずの妹がいなくても大丈夫」


 先日のペーパーテストの結果を指し示しながら、共感を誘うようにリアムは言う。

 雑用をしている体で二人の後ろをうろうろしているオリヴェルが突然咳き込んだ。

 レジーナの事を悪くいう時に声が上擦りかけたのに気づいて、吹き出すのをこらえたようだ。


「マルファはソフィアとディオンに色々聞いて仕事を教わって。ジョンの方はアネットの補佐をお願いします。オリヴェル先生と三人で入場口の設営計画を立てて欲しい」


「はい!」


 溌剌とした返事と裏腹にねっとりとした動きで擦り寄ったマルファに、ディオンははにかむように笑って目を伏せ、優しくその手を握りしめる。


「今まであんまり関わりがなかったけど、同じ学年だしこれからよろしく。分からないことあったら聞いて。君みたいな可愛い子と一緒だと緊張しちゃうな」


「えっ。そんなぁ、褒めてもなにも出ませんよ! でも、心強いです!」


「マルファさん、男性にベタベタしないように。ディオンも気をつけなさい」


「やだぁ、ソフィア先輩こわぁーい」


 きゃっと小さな悲鳴を上げたマルファがわざとらしくディオンの後ろに隠れた。


「お遊び半分ならやめていただける? 注意されてなお、ベタベタベタベタくっつくならその鳥頭にお似合いのとり餅をフワスカ頭にくっつけてむしり取りますわよ」


「えっ、ひどい……何もそんな言い方しなくってもよくないですか? ソフィア先輩って噂通り意地悪なんですね」


 カチューシャをつけたふわふわのストロベリーブロンドを揺らし、上目遣いで涙をこぼしたマルファに、ソフィアの口許が痙攣した。

 演技を忘れて本気で怒っていると見てとって、リアムは口を挟んだ。


「ソフィア。まだ彼女も慣れてないから見逃してあげて。マルファも節度をもつように。あまり場を混乱させるようならやめてもらうから」


「ごめんなさい。許してくださぁい」


 マルファはソフィアを無視して、にこぉ、とリアムに向かって微笑んでくる。意図するところは明確でリアムは嫌な気持ちで視線を伏せた。


「マルファさん。ここに200個ほど組紐細工があります。これを紐と石で色ごとに分けて何個づつ同じ色があるか一覧を作ってください。それが終わった後、刺繍のハンカチの検品をおこなって5種類ある柄ごとに分けてください」


「えー、めっちゃ地味……」


「なにか?」


「なんでもないでーす! ディオン君、あっちでやろ! センパーイ! 私達二年生でこの仕事やるんで、センパイ(オバサン)は別の仕事どーぞ」


「そ! ソフィア! こっち! こっちでもっと大事な仕事あるの思い出した! ちょっと来て!」


 マルファはもう少し殊勝にすると思っていたがこちらを見くびり、煽るような態度を取ってくる。あのエミーリエがある意味マシに見える大型新人登場である。

 こちらとしては甘く見られた方が隙ができていいのだが、それはそれとて神経を逆撫でされるのもまた事実だ。


「あの……マルファが申し訳ありません。憧れのリアム会長や学生会の皆様と仕事がご一緒出来ることにはしゃいでしまったようです。僕から強く言い聞かせておきます」


 パーテーションで仕切られたコーナーに行ったマルファとディオンを目で追ったジョンが頭を下げる。


「少し、いや相当失礼な言動があるから気をつけるように言ってもらっていい? 学生会を円滑に運営する邪魔になるのならば、レジーナの親友でもやめてもらうからね」


「肝に銘じて、はしゃぐのを止めるように厳しく伝えます。僕としても最後までちゃんとお手伝いしたいと思っていますので」


「よろしく頼む。じゃあジョン、オリヴェル先生、アネット、三人で入り口の確認に行ってもらえる?」


 リアムの言葉に3人は頷き生徒会室を出ていく。


「なんか、とんでもないのが来ちゃったね……与しやすそうでいいけど、ジョンの方がそれを補うそつのなさがありそう。どう思う?」


「人の気持ちを逆撫でするのがとてもお上手でしたわね。分かっててもイラッと来ました。あれに目をつけられていたならレジーナに同情します。ジョンの方は油断がなりません……汚物がアレに御されたのであれば納得しますわ」


「そこはまだ汚物呼びなんだ。久々にソフィア節を聞いて懐かしかったよ」


 それに苦笑したソフィアに今が再告白のチャンスでは? と、リアムは思い立った。

 ユルゲンも口よりも物をいう目で、今だ! 行けと言っている。


「「あの!!」」


 だが、ソフィアも何か言おうとしたらしい。声が重なって、リアムはソフィアと見つめあった。


「お! お先にどうぞ!」


「リアムから先にお願いします! わたくし心の準備が必要なので!」


「いや、君の話を先に聞いてからにしたい!」


「わたくしもリアムの話を先に聞きたいのです!」


「ソフィアの話によっては言わなくてすむかもしれないし!」


「それはこっちも言うことが変わるかもしれませんし!」


 とお互いに譲り合っていると、そこにいいのか悪いのかよくわからないタイミングでガイヤール校長が入ってきた。


「すみません、リアム殿下に用事が……ちょっと校長室まで、あっ、すみません。お邪魔でした?」


「い、いえ! 後でも構いませんわ! リアムも構いませんわよね?」


「う、うん……じゃあ用事を済ませてくる……」


 しおしおと校長と部屋を出る時に護衛として付き従うユルゲンの同情めいた生暖かい視線を感じて、リアムはいたたまれない気持ちになった。

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