身分という垣根を越えて
遅ればせながらあけましておめでとうございます。本年も励んでいきますので、あたたかい応援よろしくお願いします。
「大丈夫ですか? 殿下」
傾いだ体を支えてくれたユルゲンに礼を言って、リアムは尋ねた。
「ああ。大丈夫。今どのあたり?」
「あと半分ほどですかね」
「あっ! そうだ。ジョヴァンニ、ありがとう。君のおかげでレジーナが助かる道が出来た。兄妹そろって君に助けられてるね」
「もったいないお言葉です。ですがお気になさらず。オレもレジーナ殿下を断罪の憂き目に合わせたくないですし」
「レジーナのことが、好きだから?」
「なっ!!」
リアムが尋ねた瞬間、ジョヴァンニの糸目がこれまでにないほど見開かれ、顔が朱に染まった。
「え?! そうだったのか! いつからだ?!」
ジョヴァンニはうまくそれを隠していたから、ユルゲンは気が付いていなかったらしい。
「いつからだっていいだ……あっ!!」
「ジョヴァンニがこんな誘導に引っかかるの珍しい。皆で組紐を作った時には好きだったよね」
「こいつがあまりにも素で聞くからつい! 殿下も具体的に言わないでくださいよ!! こいつ隠せないんですから!!」
「えっ、失礼だな! ジョヴァンニ! 俺の口は固いぞ!! カチカチだ!」
「口は固くても視線でバレるんだよ! あのオリヴェル先生が気がつかないと思うか?!」
ガックリと落とされたジョヴァンニの肩をリアムは慰めるように叩く。
「片思いがバレていじられる前に告白してしまえばいいんだ。レジーナもまんざらでもなさそうだったし、それでテオドールと別れてくれるなら、こっちとしてもありがたいし」
「オレから告るつもりはないですよ。俺は彼女にとって気のいい先輩以上になるつもりはないです」
きっぱりと言われてリアムは面食らった。
「えっ、どうして?」
「振られない前提がおこがましいですけど、まあ万が一振られなかったとして。オレは子爵の息子、それも連合王国再編時に伯爵の価値はないと降爵される程度の田舎領主の息子です。王女であるあの方には、どう考えても不釣り合いだ」
「父上だって言っていたろ。爵位は責務の多寡に過ぎない。身分の上下ではないって。レジーナだって僕だって気にしない」
「建前はそうでも世間では違います。今回だってオレは彼女の悩みを聞いてあげるくらいのことしかできてないんですよ。問題を解決する力はオレにはないんです。貴方ともレジーナとも学園を卒業してしまえば、公の場で口をきくのも憚られる身分の差だ。そんなオレがレジーナの恋人になったらさらに彼女の足を引っ張るだけでしょう」
「そんなことは」
ないと一蹴できず、言葉尻を淀ませたリアムに向かってジョヴァンニが首を振った。
「ありますよ。だからちゃんと実力を伴って彼女を支えられる人の方がいいんです。包容力と権力があってノーザンバラからの干渉も許さない、そうですね、例えばライモンド先生みたいな人がいいと思います。まあちょっとおじさんですけど。心を通じ合わせても、卒業して別れを告げないといけないとしたらお互い不幸でしょう。オレは彼女に悲しみを与えたくない」
真剣な顔でユルゲンが口を挟んだ。
「一理ありますね。殿下は俺がアネットを慕っているから色々気を回してくださいますけど、騎士爵しか保有していない我が家は侯爵家である彼女の家とまったく釣り合いが取れないんです。ま、それ以前にアネットはどう考えても殿下のことを好きで俺のことなんか興味ないですけど。プレゼントを目の前で下げ渡すとか、二度としないであげてください。いただいた時は舞い上がるほど嬉しかったんですが、あの後の彼女の顔を見たら、ほんと色んな意味でいたたまれなかったんですからね」
「……ごめん。あれは本当に反省してる。急な事でいっぱいいっぱいだったんだ。ソフィアから告白の答えをもらってないのに、彼女の前で他の女性からの贈り物を受け取りたくなくて。でもそれを理由に断れずとっさに……」
ユルゲンは悲しげなため息をついて鞘につけられた剣護を指で弄んだ。
「俺はいいんですよ。殿下の剣と言っていただいたのも誉れですし、うっすらと察してましたし。でもアネットにはちゃんとなにかの機会にわびた方がいいんじゃないですかね」
「お前が事情を察する? ほんとかぁ?」
「ヴァンニ! そこで茶々を入れるな!」
「好かれた時の対応がわからないんだよ。今まで嫌われるばかりだったから。元婚約者でさえ僕を嫌ってテオドールと関係を結んだぐらいで。帰国パーティーの時にソフィアに勢いで告白したけどそのままスルーされてるし……」
言っていて悲しくなってきてしまった。
俯いたリアムに二人の同情めいた視線が刺さる。
「パーティーの後、色々あったじゃないですか。そのせいですよ」
「もう一度想いを告げてみるべきでは? 殿下とソフィアには身分の差もありませんし。当たって砕けろです!」
「あ、あは……砕けちゃうよね。僕じゃ……ベルニカ公が選んだオリヴェル先生もいるし」
「ユルゲン、お前ほんとそういうとこだぞ!」
「あっ!! 殿下!! すみません!! 失言でした。ダメ元で行くのが肝心ですよ!」
「だ、ダメ元……!!?」
ユルゲン的に純粋な善意でこちらを鼓舞してくれているのがまた辛い。
リアムはガックリとうなだれ、小さな声で文化交流祭が終わったらもう一度告白する……と意志を表明した。
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