兄と妹(レジーナ視点)
きょとんとした様子のジョヴァンニ、イタズラがバレたような顔をする大人達の様子を眺めることしばし。
「隠し部屋から盗み聞きしていたの、いつから気がついていたの?」
気まずげに隣室のドアから顔を出したリアムにレジーナは笑顔を作ってみせた。
リアムの背後にユルゲンが存在感を消して静かに佇んでいる。どうやら二人で盗み聞きしていたらしい。
「今さっき。隙間風が入ってきて、見たらそこが少し開いてたから。密談用の部屋以外はラトゥーチェ・フロレンスと同じように盗み聞き用のスペースがついてるのは知っていたし」
「えっ……?!」
「商人は皆そんなもんだから気をつけろよ。ジョヴァンニ」
「肝に銘じます」
大きくため息をついたジョヴァンニがリアムに尋ねた。
「あっちは大丈夫です?」
「大丈夫。ライモンドとソフィアが対応してくれてるよ」
「いやいや、脳筋二人じゃないですか」
「直情的に見えるけど、あの二人筋肉だけじゃないからね。多分ね。あ、ほら、それにディオンとアネットと一応学園長もいるからフォローしてくれてると思う」
二人のどこか気の抜けた会話を聞きながら、リアムにあらためて自分の気持ちを伝えないといけないとレジーナは思った。
再び拳に力が入りそうになったところに、ジョヴァンニの手が流れるようにレジーナの前に差し出される。
「さっきは冗談で言いましたけど、不安ならどうぞ。自分を傷つけないで」
返事はせずにレジーナはジョヴァンニの手を握った。彼の手は優しく温かい。
その暖かさにほんの少し勇気をもらって、姿勢を正したレジーナはリアムに頭をさげた。
「リアム、ごめんなさい。あなたの助言を聞き入れなかったこと。それよりも脅されてだとしてもノーザンバラのあの二人を学生会に連れて行ったこと。許してとは言わない。けれど謝罪はさせて」
「許すに決まってる。まだあいつらはなにもしていないし、こちらでも奴らが怪しいことは把握して対応しているから大丈夫。謝るのはこっちの方だ。君が辛い立場にあったのもある程度は把握していたのに、積極的に動けなくてごめん」
レジーナは首を振った。
「ううん……。当然よ。私は一人で抱え込んでいたし、テオドールとつきあって、結果として貴方に仇をなそうとする人達を引き込んだ……」
「君がテオドールに惹かれたのも仕方がないと納得はできたよ。学園で君が昔の僕よりもはるかに難しい立場になるだろうことは予想するべきだった。おそらくアレックスさん……エリアス伯父上もそういう事を危惧して君のことを頼むと言っていたはずなのに」
「予想できてたとは思わないわ。それならずっと前に戻っているはずだし」
「あ……うん。それは」
「……リアム、あのね。たいして覚えてもいない母のせいでクラスの皆につまはじきにされるのもつらい。テオドールは説得に応じてくれない。マルファは傍若無人……私、これ以上どうしたらいいのか分からない。貴方のこともアレックスやケインのこともこれ以上傷つけたくない。ノーザンバラの利になる行動は取りたくない。図々しいのは分かっているの……。でも私、もうどうしていいか分からない」
一人で抱え込んできた重荷を思いを吐き出したレジーナは、ついにその一言を口にできた。
「助けて……リアム、お兄ちゃん」
お兄ちゃんと呼んだのは、王宮で父であるはずの国王に突き放された時に支えてくれ、兄として頼って欲しいと言ってくれた彼を思い出したからだ。
リアムは愁眉を開いて微笑み、そしてあの時のように力強く言ってくれた。
「ああ、もちろん。君は僕のたった一人の妹だ。助けるに決まってる。レジーナ」
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