自分と彼の気持ちを見つめ直す時(レジーナ視点)
「学園に入って、私はノーザンバラの皇族の血を引く娘としてクラスメイトに排斥されて食堂で食事をとれなくなった」
レジーナは腰掛けなおしたデイジー達にテオドールと親密になったきっかけを話し始めた。
「テオもクラスで腫れ物扱いされて、一人庭でご飯を食べていた。行く場所もなく同じ場所で食事を摂るようになって、食事中の雑談からお互いに身の上話をするうちに、親しくなったの。本来の直系であるアレックスのお子さん達も、その次にあたるテオのお兄さんも亡くなった。コンラート殿下以外の王の後継がいなくなった王家のためにコンラート殿下が後妻を娶って産ませた息子だったって、テオは話をしてくれた」
「なるほど……テオドールの自分こそが陛下の後継ムーブはそのせいもあるんですね」
彼の過去の言動を思い出したのか、ジョヴァンニの鼻の上に深い深い皺が寄った。
「陛下は私のことを目的があって儲けたと明言した。子供にだってそれがノーザンバラに対する王権の主張のためだって分かる。あからさまよ。使い終わって殺さなかっただけ情はあるのかもしれないけど、リアムに対するような愛情はない、関心もない。まだ使えるかもしれないチェスの駒みたいなもの」
家族というものに暖かな記憶を持つエリアスはレジーナとヴィルヘルムも本当の父娘として分かり合えると信じてレジーナを実父の籍に戻したのだろうが、現状自分と実父の間にあるのは血のつながりだけだ。
「あの人の事は今は別にいいわ。目的があって作られた子供という立場がテオと私は同じだった。その上、テオは死んだとされていたエリアス王子と顔が似ていたから、皆、エリアス王子の幻想を彼に抱いた。彼らの本当に大切な人は別にいてテオは代替品。私達、その二つに対するもやついた気持ちで共感し合えた。少なくとも私はそう思っていた。私はテオ……テオドールとお互いに慰めあえて、ちょっとしたことで笑い合える。お互いに空虚を埋めあえる。お互いを一番大切に愛し合える。そんな関係を築いている、そう思っていたの……」
レジーナはぐっと拳を握り締め、唇を噛みしめた。見つめ直さないといけないことだ。
毅然と前を向くと皆の心配そうな視線が投げかけられているのが分かる。
「そんなに唇を噛み締めたら、せっかくの可愛い唇が台無しよ」
「手も爪が食い込んでいますよ。握ってましょうか?」
冗談とはっきり分かる朗らかさでジョヴァンニに言われて、レジーナは力を抜いた。
「そうね。お願いしようかしら?」
「えっ?!」
「冗談よ。ありがとう」
レジーナは背中を伸ばし、再び口を開いた。
「でも……テオドールは少し違っていたのね。彼には、私も彼もリアムに未来の王位を奪われた被害者同士という気持ちもあったみたい。神に認められない庶子で赤狼の血を引くリアムは、皇族や高位貴族の母を持った私やテオより格下なのに、王である父親の寵愛で理を捻じ曲げて王太子になった異物。そう思っているんだと思う。それは違うって説得したんだけど、彼には届かなかった」
テオドールの気持ちは彼自身にしか分からない。だが、冷静に彼の言動を振り返れば彼の気持ちを推測はできた。
「マルファとジョンはノーザンバラ帝国の人間よ。私はファストナハトの日に彼らと彼らの上役らしき男にいきなり引き合わされた。その前から少し思い込みが激しい部分もあったけれど、その時にはテオはリアムを排除して私と彼が結婚してこの国を治めるという考えに取り憑かれていたわ……ノーザンバラの二人が吹き込んだんだと思う。正そうと思っても、私は王位に興味はないと言っても耳を貸してもらえなかった。そして私もマルファに脅されて、小さな暴力を振るわれ、ジョンによって味方は誰もいない、頼れば迷惑がかかると思い込まされていた」
ぴりりと緊迫した空気が場に流れた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、エピソード応援、評価、全てモチベーションになっています。
まだの方はぜひ★★★★★で応援よろしくお願いします。