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腐朽の果実

『偉大なるフォルトル神の敬虔な使徒であらせられる神殿騎士よ。私はメルシア連合王国、国王ヴィルヘルムの子、リアム・トレヴィラスと申します。後ろの彼らは北方の要、ベルニカ公爵令嬢、ソフィア・ベルグラードと我が盾ライモンド。我々は邪悪な人買いに攫われ、逃げ出す機会を伺っておりました。神の慈悲と恩寵を我々にお与えいただきたく伏してお願い申し上げます』


 レグルス神聖公国の言葉で一息に言ってリアムが従順に首を垂れてみせると、目の前の神殿騎士は目を見開いた。


『其方は神と騎士に対する礼節を心得ているな。それに言葉も異国の若者とは思えないほど自然だ。この海で感嘆したのはこれで二度目だ。私はジョアン・サントス、フォルトル神殿より伝道と神殿の守護を命じられた神殿騎士である』


 東方地域を除くディフォリア大陸、またリベルタ大陸の開拓地・統治領では大陸共通語と呼ばれる共通言語が使われるのが一般的だ。

 メルシア王国も連合王国となった際、大陸共通語を第一言語に、第二言語はその地方ごとの言葉とする旨を発布し、公文書も大陸共通語を使って綴られるようになったし、大陸共通語さえ話せれば誰も第二言語については気にしない。

 だが、レグルス神聖皇国においてはレノクと呼ばれる神聖皇国語を用いる事が基本となっており、交渉や外交において皇国語を使えれば友好関係を築きやすいと知り、リアムは教師に教えを乞い、読み書きのみならず神聖皇国語の会話も習得した。

 国の将来の役に立つかもしれないと考えてのことだ。


『お褒めいただきありがとうございます。それでジョアン殿、我々を助けていただけますか?』


『ああ、もちろ……』


『この若人が本当にメルシアの王子だとすればそれは腐朽の果実(私生児)だ。いかに言葉を操ろうとも、神に対しての従順さを見せようとも、その穢れた血は拭えない! 捨ておけ!』


 温厚そうな中年の神殿騎士の隣にいた老齢の神殿騎士がすごい剣幕で言葉を遮った。

 腐朽の果実という侮蔑の言葉にリアムは唇を噛む。

 まただ、と、無力感が体の隅々に重りをつける。

 フォルトル教では本来庶子は認められておらず、腐朽の果実と呼ばれて蔑まれる存在であることは知っていた。

 メルシアの神殿は寄進さえすれば、その罪を灌いで跡取りとして認めてくれるからなんとかなるかと思ったが、神聖皇国の神殿騎士はそれを認めてはくれないらしい。


『確かに、私は婚姻関係のある両親から産まれてはおりません……』


 全てを諦めそうになったリアムだが、後ろに庇った二人に思いを馳せた。今交渉出来るのは自分だけだ。

 顔を上げて、中年の騎士の方をじっと見て頭を下げる。


『いえ。では、せめてソフィアとライモンドはお助けください。彼らはフォルトル教の教えに反する存在ではありません』


『穢れた言葉に耳など貸すものか!』


『バティスタ! 罪禍の生まれであれ、こうやって礼節を治め、神の言葉を流暢に話す。それは彼の努力に他ならないだろう。助けなければ信義に悖る! いいな!』


『ぐっ……お前がそういうなら。おい小僧! 決して儂の前に姿を見せるな!』


 バティスタと呼ばれた男はリアムに指を突きつけ、そう言って踵を返す。

 去っていくバティスタに肩をすくめたジョアンは、リアム達の方を向いて今度は大陸共通語で話し始めた。

 どうやら、言葉の分からない二人のために大陸共通語を使ってくれる気になったらしい。

 いや……本当のところは自分と話したくないのだろう。


「そなた達を保護した上でフォルトル神殿を通じて皇国と連合王国に連絡を取り、君達を最終的にメルシアに引き渡す。少し時間がかかると思うが理解してくれ」


「いえ、保護していただけるだけで充分です。よろしくお願いします」


 リアムは頭を下げた。また冷たい石のような物が腹の奥に溜まった気がしたが、命を助られただけでも充分と思わなければいけないと思い直した。

いつもお読みいただきありがとうございます。

また、ブックマーク評価、エピソード応援もありがとうございます。モチベーションにして頑張っていきます。

そろそろ書き溜めてある話が減ってきたので週一程度の更新になるかと思いますが、週一回は更新したいと思っていますのでよろしくご愛顧ください。

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