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それは落花流水の如く(テオドール視点)

 両手で口を覆って小さくくしゃみをしたレジーナにテオドールは身につけていたマフラーを巻いてやった。


「テオだって寒いでしょ? 無理しないで」


 守るものがなくなった首筋から凍てついた空気がするりと入りこんで、意図せず身体が震える。

 自分も寒いだろうに、レジーナは健気にもマフラーを返そうとしてきた。

 そんな彼女が心の底から愛しい。


「お前が寒そうな方が嫌だからな。遠慮せずに使え。僕は男だし、こんな寒さぐらいどうって事ない」


「寒いものは寒いでしょ。身体も震えてた」


「じゃあ、こうする。こうすれば僕も暖かいし、お互いに暖を取れる」


 そう言ってテオドールはレジーナを抱きしめると、膝の上に乗せた。

 密着した身体から温もりを感じる。

 短い間に二人は急速に距離を縮めていた。

 元々クラスではみ出していた同士だ。

 耐え切れない寒さをやわらげる偽りの廃墟の片隅で、ただ二人きり。

 昼食のたびにレジーナは理由をつけてテオドールにランチボックスを分けてくれた。

 食事をとりながら二人で話をした。

 最初は当たり障りのない他愛のない話からはじまった。

 例えばディクソン商会の品揃えの話や、リベルタとディフォリアの気候の違い、好きな食べ物。

 それがお互いの身の上の話になるのに時間を要しなかった。

 元々身内で、最初に会話を交わしたディクソン商会の時からお互いに気安く話すことができたからテオドールもレジーナの前では少し素直になれた。

 レジーナはこちらの家族の事を知らなかったが、テオドールはレジーナの父である王の事はもちろん、散々比べられてきたエリアスの事も、彼女の異母兄であるリアムの事も知っている。

 求められるまま話をして、話を聞くうちに、彼女の境遇や出自に自分との奇妙な共通点を見いだした。

 そもそもレジーナも自分も父親に必要とされて作られた子供だった。

 レジーナはヴィルヘルムがノーザンバラの継承戦争に口を挟むための大義名分だった。

 自分には異母兄がいた。自分は彼とその母が事故で亡くなったから作られた。

 父は亡くなった二人の話は一切しないが、彼らの部屋は今だに亡くなる前の状態で取ってある。

 幼い頃、三歳になるかならないかぐらいか。

 普段閉まっているその部屋の鍵が開いていて、興味本位で異母兄の部屋に入った事があった。その時、父が烈火の如く怒ったのがテオドールの記憶に残る一番古い記憶だ。

 レジーナの最も古い記憶はヴィルヘルムをパパと呼んで目を逸らされたというものだそうだが、拒絶の記憶が己の根底にあるのは同じだ。

 彼女をはじめて見た時、その美しい見た目に惹かれ劣情すら抱いた。

 もちろん今でも彼女の美しい外見には強く惹かれる。

 だが今はその部分よりもその生い立ちや境遇、強く見えるのに寂しがりで怯えがちな繊細な心持ちに惹かれている。

 寝台の中で語らずともただ抱きしめ合うだけで心が温まるなんて知らなかった。

 レジーナこそお互いの空虚な部分を埋め合う存在だとテオドールは感じた。


「前に渡したリボンはつけないのか?」


「結んでしまったら痛んじゃうかなって」


「あれを結んでいるのが見たいんだ。お前の瞳の色に合わせた。きっとよく似合う」


 さらりと髪を梳いた後、睦み合うようにお互いに一口サイズにちぎったパンを口に運んで、食事を分け合い、ぬるくなったスープを飲む。


 満ち足りた二人は気が付かなかった。

 フォリーの影と冬枯れの茂みの後ろに普段いない人間がいたことを。

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