最も美しいと思うもの
二尊院:はあ…退屈で仕方がありませんわ。この王宮から一歩も出られないのですもの。
依田:致し方ない事でございますよ。姫様は、いずれこの国の主導者におなりあそばす、大切なお方なのでございます。我慢なさってくださいませ。
二尊院:それくらい、分かっていてよ。だけど、ここが終の棲家だなんて。
斉藤:私は騎士の矜持に賭けて、姫様をゆめゆめ退屈させませぬ。
二尊院:あなたはただ黙ってそこに立っているだけじゃないの。幼い頃からずっとそう。何かおもむき深い事をしてくださらないの?
斉藤:それは、うーむ…。
稔土:あー、いたいた。ひい様、庭の手入れが終わりやしたぜ。花が咲き乱れてきれいでごぜえますから、また見に来てくだせえ。
二尊院:大儀なこと。随分と早かったのね。さすが国一番の園丁だわ。
稔土:へへっ、ありがとうごぜえます。…あれ、その花瓶の花…。
二尊院:ああ、あなたにこの前いただいた花ですのよ。枯れてはならないから。
稔土:へへへ…そうですかい。ひい様に後生大事にしてもらえるたあ、その花は、くに一番の幸せ者ですなあ。
依田:稔土様、恐れ入りますが、姫様のお部屋に泥を持ち込むのは看過しかねます。
稔土:おお、こりゃ失敬。ただいま洗って…おっと!
化野:ちょっと…気をつけておくれ。
稔土:へえ、すいやせん。なんせ図体ばかりでかいもんで…。
化野:…おや、僕の事を誰だか知らないと見える。
稔土:誰って……もしや!
依田:隣国の王太子殿下ではございませんか。ご無礼を仕りました。
化野:まあよい。僕はそなたの国よりも広い心を持っているゆえ。
二尊院:…それで、その寛大な王太子殿が、いかようなご用件ですの?
化野:おや…先日の夜会で申し上げたでしょう。「この世界全てを80日で見て回ろう」と。言葉通り、迎えにきたのですよ。さあ、参りましょう。
依田:お待ちくださいませ!王太子とてそのような…。
化野:あの時の言葉、忘れたとは言わせないさ。「まるで夢物語」だと言ってきたじゃないか。さあ。
二尊院:…まるで夢物語だわね。
稔土:待ちな。ひい様は俺がずっとお慕いしてるんだ、いきなり現れたヤツに渡すわけにはいかねえ!夢に帰りな、「王子様」!
斉藤:なんですと…!これは私が姫を守るしかないようだ!姫、私と…。
依田:あなたたちまで!
二尊院:よろしい。では、こうしましょう。一番美しいものを持って来た方が、あたくしの結婚相手です。
依田:姫様!
二尊院:あら、あたくしのことを理解していれば、訳ないことではなくって?では、いってらして。皆さん。
0:(間。全員が退室)
二尊院:ふふっ…熱心だこと…。これで少しは退屈せずに済みそうね。
0:(数日後)
化野:ただいま戻りました、姫!これを…。
二尊院:あら、ダイヤ?
化野:そう。我が国でのみ産出する貴重なダイヤさ。…お受けいただけますね。
二尊院:いいえ。宝石は毎日着けさせられてますもの。今更どうということもなくてよ。
稔土:じゃあ、こりゃどうです?庭で一番きれいな薔薇、しかも深紅のを一本。「美しいあなたしか見えない」って花言葉でさぁ。さあさあどうぞ…。
二尊院:確かに綺麗ね。けれど、いつか枯れるものじゃないの、花なんて。好きだけれどね。…花の部分だけで結構よ。枝は貴方に返すわ。
稔土:「あなたの不快さが私を悩ませる」…そんな!
二尊院:はあ…。これで全部ですの?
依田:おや?足音が…。(勢いよくドアが開く)ひええっ!
斉藤:はあっ…はあっ…申し訳ございませぬ、姫様!大変手間取ってしまい…。こちらをどうぞ!
二尊院:まあ…なんて美しい…。ただの布地のはずなのに、まるで光をまとったようですわ。このレースの繊細なこと…。
斉藤:ボイーコネの森の最深部の、化け蜘蛛の糸で編みあげたドレスにございます。一番美しいものと聞いて、直ぐに思い浮かんだのは良いのですが、なにしろ大変希少なもので、私の懐ではとても賄えず…。
化野:…自らあの蜘蛛を討伐し、糸を採ってきたというのか!
斉藤:それだけではございませぬ、ドレスに仕立てたのも、この私めにございます!…私の思いを、お分かりいただけましたか?姫、私は、幼少のみぎりより、ずっと貴方を…。
二尊院:まあ、そんな…。
依田:ああ、姫様…!
二尊院:…お断りしますわ。
斉藤:……え?
二尊院:ですから、お断りします、と申し上げたのです。
斉藤:あの、完全に私になる流れでは…。
二尊院:蜘蛛の糸?あなたが仕立てた?幼少のころから私を?ああ、おぞましい、おぞましい!貴方がそんなに執念深いだなんて知らなかったわ。第一、貴方とあたくしでは何もかも不釣り合いではなくて?貴方だけではないわ、今まで頂いたもの、いえ、今ここにあるもの、全てが不釣り合いよ!
稔土:じゃあ何か?ひい様が最も美しいと思うものってえのは…。
二尊院:あたくしの事に決まってましてよ!あたくしよりも美しいものがあるなら、ぜひ目にかけたいから持ってくるように頼んだのに…ダメね。
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斉藤:ストーーップッ!
二尊院:あら、どうされましたの?
斉藤:なんですかこれ!僕らのライフはもう0ですよッ!
依田:全然、そのう…夢がないですよね。(小声)口調難しすぎるよぉ…。
稔土:いくらなんでもワガママ過ぎだろ、この姫様は。リスナーも嫌がるって。
化野:ストーリーもなんか見た事あルんだよネー。どーせこの後月に帰って終わりなんデショ?やっぱ現代アートじゃナイノ。ボクとしては最速で不幸になるまでのRTAやってほしいナー。
二尊院:そこまで仰るなら、全員の喜ぶ話に出来るんですのよね?なら今度はあなたがやってくださいまし。
化野:ボクを誰だと思ってルノ?見てナッテ!