表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

3話 入学式は大混乱編

 杏奈は、入学試験を終えて、自宅へと帰っていた。入学準備のために、荷物を詰めている。

「わくわくするー。あ、これも持っていこう」

 杏奈は、枕を手に持った。

「おバカさん。そんなものいらないでしょう」

 杏奈が後ろをむくと、扉に背を向けて立っているチィランがいた。ため息をついて、枕を取り上げる。

「えー!いるよ」

「別に枕が変わっても眠れるでしょう」

「うっ。そうだけど」

「それなら、別の物を持っていきなさい」

 チィランは、杏奈の机を指さした。

「筆記用具とか、本とか」

「わかりました!持っていきますー!」

 杏奈はチィランに言われ、他の小物類など入れ始めた。

 荷物が詰め終わると、杏奈は1階へと降りた。降りるとチィランが、朝食を並べていた。

「ハンバーグだ!やったー!」

「今日から、マジックナイト学園の一員ですからね。英気を養って行きなさい。さあ、早くしないと遅刻しますよ」

 杏奈は足早に席につき、いただきますと言って、朝食を食べ始めた。

「あれ?ワームは?」

「もう行きましたよ」

「相変わらず、早いわね」

「杏奈。今日は学園まで送ります」

「えっ!いいよ。保護者と一緒だなんて、恥ずかしいから」

「別に学園の中までは入りませんよ」

「えー」

「えーじゃありません。いいから、早く食べて」

 杏奈は気だるそうに返事をして、米をかき込んだ。


 杏奈とチィランは、マジックナイト学園の門の前に着いた。奥には、大きな建物が見える。あそこが、マジックナイト学園の校舎なのだ。

 門の前には、顔の右半分に仮面をつけた大男が立っていた。

「ブリュア。久しぶりですね」

 チィランは、大男をブリュアと呼び、話しかけた。

「チィランじゃん!なんで、こんな所に?」

「ちょっとね。あなたこそ、ここで教師なんてしてたとはね」

「いや、まあ、スカウトされちゃって」

「うちの子をよろしくお願いしますね」

「うちの子!?いつの間に産んだの!?」

「私は男ですが」

 ブリュアは、杏奈を不躾にじろじろと見た。

「あの、チィランさん。この人とは知り合いなんですか?」

「ええ、腐れ縁です」

「そうそう。また今度会いに来てよ。僕はいつでもここにいるから」

「ええ、そうします。ジョッツァさんもこちらにいますよね。お元気ですか?」

「元気元気。あの人はいつも元気だよ」

「それを聞いて安心しました。さあ、おバカさん。行ってらっしゃい」

「は、はい。行ってきます」

 杏奈は、チィランに手を振り、校舎へと駆け出して行った。

「あの子……何かあるのかい?」

「いえ、特に何も。ただの暇つぶしですよ」


 杏奈は校舎の中へ入り、1年生の教室に向かった。廊下を歩くと掲示板が並んでいた。掲示板には、部活動や授業のことについて書かれた紙が貼ってある。

「部活があるのね。何かに入ろうかなー」

「あ!杏奈ー!」

 廊下の奥から杏奈に話しかける声があった。

「カルメくん、リン!」

 杏奈はカルメとリンに駆け寄った。杏奈はたくさんの荷物を抱えているが、2人は軽装だった。2人は先に寮に入っていたので、荷物がないのだろう。

「カルメでいいぜ。荷物いっぱいだなー!ここが教室だぜ」

「おはようございます。杏奈さん。荷物持ちましょうか?」

「ありがとう。大丈夫よ」

 3人は仲良く教室の中へと入っていった。

 教室には、まばらに生徒が座っていた。

 カルメは黒板を指しこう言った。

「ここに書いてある席に座るんだとよ」

「あ!カルメの隣ね」

「おう。よろしくな」

 杏奈は自分の荷物を教室の後ろに置く。みんな後ろに置いているようだった。席に座り、右隣を見ると、同じ猫耳族の少女が座っていた。

「私は、杏奈!よろしくね」

「ええ。杏奈さん、よろしく。ショウでいいわよ」

「ショウ!ありがとう。私のことも杏奈って呼んで」

 2人で話していると、杏奈の前の席に黒髪の少年が座り、後ろの席にも誰かが座ったようだ。杏奈が後ろを向くと、またもや猫耳族の少女が座っていた。右目が青く、左目が赤いオッドアイの少女だった。左目には、傷がある。

「私、杏奈よろしくね」

 杏奈の言葉に、彼女は少し耳をぴくりと動かしたが、他所を向き返事をしなかった。

 杏奈は無視されたが、続けて話をした。

「同じ猫耳族の子が2人もいて嬉しいの!」

「そう……」

 彼女は仕方なく答えた。

「あなた、名前は?」

「……猫よ」

「猫?変わった名前ね……。あっ!変わった名前なんて言ったら悪いよね」

「別に」

 猫は面倒くさそうに、机に突っ伏した。

「あー。……ねえ、ショウは入学試験は誰と一緒だったの?」

 杏奈はショウに向き直り、話を始めた。


 鐘が鳴り響き、ジョッツァが中に入ってきた。あらかた説明をされた後、入学式を行うために、外に行くことになった。外で行う入学式とは、なかなか珍しかった。

 杏奈たちは、校舎の外に出て、大きな楕円形の白い線がある土の上に立った。

 1年生はとても多く、今年は21人もいるらしい。人が立つための台の前に、1年生は並ばされた。そして、2、3年生と思われる生徒たちがやってきて、1年生の後ろに並ぶ。1年生の人数より少ない数だ。

「では、これから入学式を始めます。先に学園長からお言葉をいただきます」

 ジョッツァは1年生の右斜め前に立ち、マイクを持っていた。左側に座っていた黒髪で糸目の小柄な男が立ち上がり、正面にある台に登った。

 マイクを少し調整して、話そうとした。マイクは、音の拡大魔法がかけられたものだろう。

「1年生の皆さん。入学おめでとうございます。私が学園長のオーディンです。長い話はあまり得意ではないので、簡単に……」

 学園長が話し始めた時、空からピキっという何かが弾けた音がした。

「何かしら?」

 杏奈が空を見上げると、人間何人分かもわからない巨大な竜が飛んでいた。竜は、深い緑の鱗に、大きな口、長く細い髭をたくわえ、黒い羽を大きく揺らし浮いている。

「きゃー!」

 1年生たちは、パニックになった。1部の生徒は、じっと竜を見つめていた。

「落ち着いてください」

 ジョッツァは落ち着いた様子で話しかけた。1年生たちは、その声に逃げ出そうとするのをやめた。

「防衛魔法がかかっていますので……ああダメでしたか」

 その言葉と共に、空の透明な膜が、パリパリと音を立てて、破れた。竜は一直線に生徒たちに向かう。

 またパニックになり、逃げ出そうとするが足が動かなかった。

 2、3年生が、1年生を庇おうとした姿勢のまま固まっている。

「何これ!」

 杏奈は叫んだ。

「竜の魔法だよ。動きを封じて、獲物を捉えるためさ」

 杏奈の前に立っていた少年が、たじろぐ姿もなく答えた。

「えっ、それってまずいんじゃ」

 少年は、教師陣の方を向いた。杏奈はそれに伴って、そちらを向く。チィランにブリュアと呼ばれていた教師が、宙に浮いた。竜へと向かっていく。

「あれ?あの人、動いてるよ?」

「ここの教師が、たかが竜に遅れを取ったりはしないだろ」

「えっ?」

 ブリュアは、右手に持った、手のひらの2倍くらいの細い杖を振った。

「プロフォンドゥム!ーー奈落へーー」

 竜は、ブリュアの呪文により入学式を行っていた土地の近くに叩き落とされた。振動で、生徒たちは転ぶ者も出てきた。動けるようになっている。

竜はミシミシと音を立てて、地面にめり込んでいく。

「火竜かな。うん!今日の良い夕食になりそうだね。ディアボルマ・フラムーー悪魔の炎ーー」

 杖から黒い炎が出て、竜を燃やす。竜は悲鳴をあげる。炎で周りの気温が上昇した。

「熱気がここまで来る」

 杏奈は口を腕で覆い、灰を被らないようにした。

 竜は叫ぶのをやめ、地面に倒れたまま動かなくなってしまった。

「すごい……。上級魔法2つだけで竜を倒しやがった。いや、無言詠唱を何個か使ってるのか」

 杏奈の前にいた少年は唾を飲み込み、その光景を見ていた。ブツブツと分析している。

 ブリュアは、教師陣の中に戻った。

 竜はその場に置かれたまま、それを背景に学園長が何事もなく話を始めた。

「言うまでもなくなったな」

 学園長は、先程までの丁寧な話し方から、砕けた話し方へとなっていた。

「1年生、君たちにはこの程度簡単にできるようになってもらう。もちろん、今の2、3年生もだ。マジックナイト学園に入り、メガノポリスになる気があるのならな。これで終わりだ」

 学園長は壇上から降り、元いた席に戻らず、竜の元へと行く。学園長は、竜が来てからは1歩もそこから動かず、ずっと静観していたのだ。

「入学式はトラブルがあったので、これで終了にさせてもらいます」

 ジョッツァが生徒たちに呼びかける。

「2年生は、1年生を教室まで送ってください。1年生は、教室に行った後、私が来るまで待機。3年生は、竜の解体の手伝いをしてください。では、解散」

 2年生と3年生は、すぐに動き始める。

「1年生の皆、俺は丁人。この学園の副生徒会長だ。着いてきてくれ」

 短髪の男が1年生に話しかけ、校舎へと向かった。1年生はそれについて行き、残りの2年生が、1年生の周囲に付き従った。

 杏奈は1人の2年生の女性に話しかけられた。

「怖くなかったかしら」

「怖かったです。でも、それよりも驚きが勝って。竜なんて初めて見ました」

「そうよね。私も初めて見たから怖かったけど、先生たちなら、何とかしてくれると思ったから平気だったわ。先生たちのこと、信頼してあげてね」

 女性はにっこりと笑い、他の1年生にも声をかけ始める。安心させるために話しかけていたのだ。

「やっぱり、すごい学校なのね」

 杏奈は驚きながらも、自分が強くなることを夢見て、胸を躍らせながら校舎へと戻って行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ