2話 入学試験編B
「カルメは強いから、いつか私たちの目の前から消えてしまいそうで、行ってほしくないの」
カルメの母親がそう呟き、引き留めようとしたが、カルメはマジックナイト学園の入学試験に行くことを決めた。
薄水色の髪をした少年、カルメは、入学試験に行くための道中で迷子になっていた。
「ここはどこだー!」
持っていたコンパスは狂い、太陽を目印にして森の中をさ迷っている。
「歩いても歩いても、森森森!試験まであと2時間しかないぞ」
カルメは足早に歩きながら、文句を垂れている。
その時、後方から人の声のようなものが聞こえた。
「なんだ?もしかして、人か?マジックナイト学園までの道がわかるかもしれない」
カルメは来た道を戻って行った。少し歩くと、眼鏡をかけた少年が、青緑色をしたスライムと戦っていた。数が多い!20匹はいるであろう。大きさは、50センチくらいで、ぶよぶよと粘液を出しながら動いていた。酸性の液を飛ばしてくるので、注意が必要だ。
カルメは素早く剣を抜き、加勢した。
「あなたは!……って、待って!」
少年が口出した時にはもう遅く、スライムはカルメによって真っ二つになったが、小さく分裂しただけだった。カルメの剣は、魔法が施されていて、酸にも強くなっていた。
「何だこれ?」
カルメは間抜けな声をあげた。
「このスライムは、切っても分裂するタイプみたいです。進化したモンスターが最近出ていると聞いています」
少年は、杖を振りかざした。周囲のエネルギーが集まるがごとく、杖の先端に付いている宝石に光が集まる。
少年が息を大きく吸いこんだ。
「フラムエクスオルキスムス!ーー炎の悪魔祓いーー」
杖から巨大な火球を作り出し、スライム全体に放った。スライムだけが、蒸発し始めた。周囲の木には、炎は一切燃え移らなかった。
「す、すごい」
「あの、助けようとしてくれて、ありがとうございます」
「いや、俺は必要なかったみたいだし」
「……ところで、あなたは」
「ああ!俺はカルメ。道に迷っていた所なんだ。マジックナイト学園の入学試験を受けようと思っているんだけど、どこに行ったら良いかわかるか?」
「ええ。……僕もそこへ行くところでしたから。僕は、リン。リン・レーンです」
「そうなのか!良かった。一緒に行こうぜ!リン」
そう言って、2人は一緒にマジックナイト学園の入学試験会場へと向かった。森の中では他のモンスターに会うことなく済んだ。
森を抜けた先には、街道があり、近くに森がまたあった。
「あちらの森の入口に行きましょう」
「おう!時間に間に合いそうだぜ」
リンは、本当にギリギリだなと考えていた。
2人は、近くの森の入口まで、歩いて行った。そこには、たくさんの入学志願者が募っていた。100人はいるであろう。
「うお。すげーたくさんいるな」
「毎年、受験人数は100人くらいらしいですね。合格者数はまちまちですが、5〜20人ほど受かるそうです」
「そうなのか?大丈夫か。受かるかな」
カルメは心配そうに声をあげた。
「そちらの方、受験シートに名前などを書きに来てください」
カルメたちは、遠くの方から、眼鏡をした男の教師、ジョッツァに話しかけられた。
「はい!行こうぜ、リン」
「ええ」
2人は教師の所へ行き、受験シートに名前や出身地などを書いた。
その後、受験番号を渡された。
「説明はもう少しで行いますので、待っていてください」
「121番か。本当にたくさんいるんだな」
「そうですね」
リンは、122番と書かれたバッジを胸に付けた。2人が受験者の中を歩いていると、声をかけてきた人がいた。
「リン!なんで、ここに?」
「ワームさん!君こそ」
ワームと呼ばれた少年、髪の毛を後ろ手に縛って、大きめのコートを羽織っていた。
「まあ、僕はちょっとね」
リンは濁すように答えた。
「ボクは、ここに入って、生計を立てたくてさ!こっちの人は?」
「道中で会った方ですよ。カルメさんと言います」
「よろしく。えっと、ワーム?」
「ああ!よろしくね」
ワームは、笑って答えた。ワームの胸には、76番と書かれたバッジが付いている。
「さて、そろそろ、説明がされそうですね」
リンが向いた方向を見ると、ジョッツァが段の上に立っていた。
「皆さんこちらを見てください。これから、2人1組で、時間内にこの森を抜けて、ゴールにたどり着いた者を合格者とします。森の中にはモンスターがいますが、私たちが監視しているため、命の危険が迫った場合のみ助けに入ります。では、10分後にスタートしますので、それまでは自由にしていてください」
段から降りて、ジョッツァは、近くの椅子に腰掛けた。
「俺はリンとペアか。よし!また、よろしくな」
「はい。ワームは?」
「僕はペアの人の所へ行ってくるね!じゃあ、お互い頑張ろう!」
ワームはそう言って、人混みの中へ消えていった。
残された2人は所定の位置に移動した。
「モンスター相手なら負ける気がしないね。さっきみたいに、進化したモンスターでなければ」
「そうなんですか?結構、戦ったことがあるんですね」
「いや!全然ない!」
「えっ?」
「実戦は今日が初めてだぜ!」
「えええ!?」
リンが叫んだ。
「それで、よくそんな自信が出ますね?」
「鍛えてるからな!」
カルメはふんと鼻を鳴らした。リンは呆れたように、項垂れた。
「そろそろスタートの時間ですね。皆さん、位置についてください」
ジョッツァの声が聞こえてきた。
2人は森の方を見すえ、いつでも走れるように待った。
「では、スタートです!」
その声と同時に、カルメたちや、他の参加者たちが一斉に走り出した。
「よーし!頑張るぞー」
「気合いだけは十分ですね」
リンはまだ先程のカルメの発言に呆れていた。カルメの方はというと、希望に満ちた目をして、元気に走っている。
「リンは、何か目的があって、マジックナイト学園に入るのか?」
「ええ。まあ、そんなところですね」
「ふーん。俺は、親父を探すために、入るんだ」
「お父さんを?どういうことですか?」
「親父は、メガノポリスなんだけどよ」
メガノポリスとは、マジックナイト学園を卒業した者だけが所属できる国営の冒険者ギルドである。
「依頼で危険区域に行ってから、行方不明になってるんだ。危険区域に行ったってだけで、どこの危険区域かわからないし、メガノポリスのヤツらも兄貴も、探そうとしないんだよ」
「……そうなんですか」
「だから、俺がメガノポリスになって、親父を探そうと思ったんだよ」
「でも、メガノポリスになるには、3年間マジックナイト学園に所属する必要がありますよね。その頃にはもう……」
リンは言い淀んだ。死んでいるのではないかと。
「俺は飛び級する気だぜ!飛び級っていうのがあるんだろ。それで、一気に3年になって、メガノポリスになるんだ」
「それって、歴代でも、2人しかいないと聞いていますけど」
「俺ならできる!」
「その自信はどこから来るんですか」
リンは再度呆れたが、カルメのアホさ加減に少し笑いがこぼれた。
そこに、横の茂みから狼の見た目をした青いモンスターが現れた。前足と後ろ足がそれぞれ4本ずつあり、しっぽが二叉に分かれている。青い体毛が、風に揺れた。モンスター……ブルーウルフは、6体いる。
「早速、お出ましだな」
「そうですね」
「腕が鳴るぜ!」
カルメはそう言って、剣を取り出した。
「自信がありすぎるのも、困ったものですね」
リンは身の丈ほどある杖を振り、持ち方を変え、両手で持った。
「なあ!リン、これからの道中、どっちが多くモンスターを倒せるか勝負しないか?」
カルメは、ブルーウルフの体を切りつけながら、言った。リンは杖の先で、ブルーウルフの頭を殴る。
「え?まあ、いいですけど」
「よし!負けた方が、今日の昼飯おごりな!」
「ええ!?……わかりましたよ」
リンは杖でブルーウルフの足をなぎ払った。
「では、本気で行かせてもらいますね」
リンは、後方に跳躍し、宙に浮いた。
「えっ!そんなことできるのか?」
カルメは、リンを見て驚きながら、1体のブルーウルフの首を切り落とした。
「そういう特技ですよ。……ウェントゥス・カニスーー風の犬ーー」
リンの杖から、風が起こり、ブルーウルフたちを切り裂いていく。青黒い血が飛び散った。
「すげー!」
カルメは叫びながら、もう1体のブルーウルフを縦に切っていた。
「感心してないで、戦いに集中したらどうですか?」
「戦いってもな。もう終わったぜ」
カルメたちの足元にはウルフブルーの死体があった。
「ちえ。こっちは2体で、リンは4体か。今のところ、リンがリードしてるな」
「そんな事気にしてる場合ですか。先に進みましょう」
2人は、その場を後にし、先へと進むことにした。
「カルメさんは、全然魔法を使わないんですね」
「魔法?あー、あんまり得意じゃなくて」
「その割に、戦闘力はあるみたいですね。剣筋もとてもいい」
「そんなに褒めたって何もでないぜ」
2人は話し走りながら、目の前に来るモンスターをなぎ払って進んで行った。
「おい。目の前が開けてきたぜ!」
カルメたちの目の前に、大きな門が現れた。
「おや、とても早いですね」
ジョッツァが門の前に立っていた。カルメは、どうやって森の入口から移動したんだと疑問に思った。
「一番乗りですよ。さあ、門の中へ」
「一番乗りだってよ!すげえな!」
「カルメさんのおかげですよ」
「いや、リンのおかげさ!さあ、行こうぜ!」
カルメとリンは、門の中へと入っていった。
倒したモンスターの数は、同数だったそうだ。