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1話 入学試験編A

「2人1組で、時間内にこの森を抜けて、ゴールにたどり着いた者を合格者とします。森の中にはモンスターがいますが、私たちが監視しているため、命の危険が迫った場合のみ助けに入ります。では、10分後にスタートしますので、それまでは自由にしていてください」

 メガネをかけた男の教師、ジョッツァはそう言い残し、近くの椅子に腰掛けた。

 ここは、森の入口。この森の奥に、国立マジックナイト学園の校舎がある。そこがゴールということだ。

 杏奈はペアを組む男に話しかけた。

「私、杏奈。よろしくね」

「ああ。俺はアキラ。よろしく」

 アキラは、杏奈を横目で見た。猫耳族が珍しいのか、耳やしっぽを眺めている。

「珍しい?猫耳族」

「まあ。会ったことはないかも」

「そうよね。そんなに居ないらしいのよね。私も自分以外の猫耳族に会ったことないのよ」

「そうなのか?両親は?」

「いないわよ」

「そうか。悪いな。俺もいないんだ」

「そうなのね」

 2人は会話を終え、スタートに備えた。

 杏奈はカバンから、弓矢を取り出し、背中に背負った。さらに、30センチほどの杖を右手に持った。

「そろそろスタートの時間ですね。皆さん、位置についてください」

 ジョッツァが立ち上がり、参加者を所定の位置に促した。

 杏奈とアキラも位置に着く。

「はあ。ドキドキしてきた」

「俺も」

 2人は静かな声で話した。

「受かるように頑張りましょう」

「そうだな」

 ジョッツァが右手を上げた。

「では、スタートです!」

 その声と共に、参加者は一斉に走り出した。杏奈たちも、走り出し、森の中へと進んで行った。

「猫耳族を含む動物族は、視覚や聴覚が優れてるんだっけ?」

「そうね。でも、これだけ参加者がいたら、モンスターの足音かどうかわからないかも」

「そうか。その線に頼るのはやめておくか」

「とにかく、方向を見失わないように進みましょう」

 杏奈はコンパスを見ながら、駆ける。

「私の足の速さに着いてこれるなんて、鍛えてるのね」

「それはな。マジックナイト学園に入りたくて、鍛えてたんだよ」

「そうなんだ!あなたは、なんで学園に入りたいの?私は、自立してお金がほしいからなんだけど」

「俺か?俺は、自分が何者か知りたくてさ。旅に出るために、冒険者のライセンスがほしいんだ」

 杏奈が、どういうことか聞くと、アキラは答えた。

「10歳までの記憶がなくて、両親もどこにいるかわからない。育ててくれた孤児院がなかったら、死んでいたかもしれないんだ。だから、自分が何者か知りたいんだよ」

「そうだったのね。ありがとう。教えてくれて」

「いや。別に……君にはなぜか話せたんだよ」

 2人は顔を見合わせて、笑った。打ち解けれたようだった。

「あ!」

 杏奈が叫んだ。足を止めて、近くに咲いている草花を見た。アキラも足を止め、杏奈に近づいた。

「マンドレイクか」

「そうよ!ここにも、生えてるなんて!」

 杏奈は嬉しそうに飛び跳ねた。

 アキラがマンドレイクと言った花は、青い花びらに、赤黒い葉を付けていた。

「しかも、希少な色ね。これは高く売れるわよ」

「そうなのか?」

「知らないの!?まあ、いいわ。燃やしたりしたらダメよ。無力化させて、採りましょう」

「どうやって?」

「眠らせるのよ」

「どうやって?」

「ああ!もう!役立たず!自分でやる!」

 アキラは、はあと、ため息をついた。

「クバーレ!ーー寝ろーー」

 杏奈は、呪文を唱え、杖が青く光った。

「これで良し」

 そう言って引き抜こうとしたが、アキラに止められた。

「おいおい。このまま引っこ抜いたら、俺たち、失神するぞ」

「大丈夫よ。眠らせたから」

「そうなのか?」

「見てたでしょ!?」

 杏奈は制止したアキラの手を払い除け、マンドレイクを引き抜いた。根っこは、土がつき、根の膨らんだ部分は悲鳴をあげたような顔をしていた。

「寝ててもこの顔なのかよ」

「さて、咲いてるのは、この2つだけね」

 杏奈は2個目を引き抜いていた。良しと言いながら、カバンに詰める。

「あ!」

「え?どうした?」

「この匂いは……マンドラゴラ!」

「え……?」

 杏奈は、後ろに飛んだ。目の前に、頭に青い花をたずさえたマンドレイクが現れた。緑色の肌に、見開かれた赤く充血した瞳。下半身は花になっていて、上半身がそこから生えていた。地面から根を這わせて、移動しているようだった。

「マンドレイクを取られて怒っているのね」

「今すぐ返した方がいいんじゃないのか」

「ダメよ!お金になるんだから!」

「試験の方が大事だろ!」

「お金の方が大事!」

「なんで、そーなるの!」

 アキラは仕方なく、腰の剣を抜いた。

 マンドラゴラは、その瞬間、口から糸を吐いた。アキラの剣を絡め取ろうとした。アキラは抵抗している。

「アキラ!他のマンドレイクは、燃やさないでよ!」

「俺の心配は!?」

「凍てつく風よ、ゲロー!ーー凍れーー」

 杏奈の杖が薄く青い光に包まれ、マンドラゴラの花に光線を放つと、マンドラゴラの花弁が2枚だけ凍った。

「しょっぼ!」

「何がショボイよ!これで手一杯なの!さっき魔力使っちゃったから!」

「変なことに使うからだろ!」

 アキラは、凍らされた花に気を使われたマンドラゴラの糸から逃れようと叫ぶ。

「吹き出ろ!フラム!ーー燃えろーー」

 剣から火が出て、糸が焼き切れていく。糸をつたい、マンドラゴラの顔へと火が移る。

「あー!マンドレイクが!」

 火が顔に移ったマンドラゴラの悲鳴と共に、杏奈も叫んだ。マンドラゴラの火は、すぐに身体中に燃え移り、下にあるマンドレイクにまで燃え広がった。

「だから、俺の心配は!?」

 マンドラゴラと残りのマンドレイクは、燃えきった。アキラはそれを消火し、体育座りでしょげている杏奈の肩を叩いた。

「悪かったって。杏奈の金を燃やしちまって」

「いいよ。私も悪かったわ。心配はしてたのよ」

 杏奈は、屈託のない笑みを見せた。アキラは、それに少したじろいだが、平静を装おうとして、別の話をし始めた。

「杏奈はどうして、自立したいんだ?」

「……私は、育ての親に恩返しをしたいからよ。私は両親には捨てられてから、ずっと1人でいたの。でも、育ての親に出会って、それからは、その人に育ててもらってたの」

「そうなのか」

「アキラには、そういう人はいたの?」

「俺は……。あ!それより、先に進まないとな」

「え?あー、そうね!試験があったわ!忘れてた」

「忘れてたの!?」

「冗談よ。本気にしないで」

 2人は笑い合って、先を急ぐことにした。


 森を進んでから、50分経った頃だった。

「アキラ、待って!」

「なんだよ。もう時間ないぜ」

 杏奈とアキラは足を止めた。

「人の声がするから、ゴールまでは、あと少しなんだけど、異臭がさっきからするの。腐った匂い。どんどんこっちに近づいて来ていて」

 杏奈の言い分をアキラは遮る。

「そんなことより、急いだ方が」

「もうここまで来てるの!」

「え?」

 アキラが間抜けな声を上げた瞬間、おおおと大きな野太い声とともに、2メートルはある巨人が2体現れた。どちらの巨人も、肌は深い緑色で所々に苔が付いていた。長くとんがった耳に、禿げた頭、下半身には腰巻がされていて、木でできた大きな槌を持っていた。2体は、杏奈とアキラを見下げて、ニヤリと笑みを浮かべた。

「トロールよ!逃げるべき?戦うべき?」

「迷ってる場合かよ!逃げられない!」

 アキラと杏奈に2体の巨人の木槌が振り下ろされる。2人は左右に分かれ避けるが、土や石の破片が飛び散る。土煙が起き、杏奈たちも巨人も、お互いを見失った。

「杏奈っ!大丈夫か?」

「大丈夫よ」

「……杏奈、ゴールは分かるよな」

「ええ」

 アキラは、杏奈がいる方へ叫ぶ。

「先に行け!」

「え!?でも……」

「良いから、行けよ!ここは、俺が2体とも相手するから。もう時間がないんだ!」

「でも、置いてなんて行けないよ!」

「良いから、行け!早く!」

 杏奈は、アキラの叫びで、仕方なくゴールを1人で目指すことにした。あまりにも必死そうだったから。

「アキラ、気をつけてね」

「おう!」

 杏奈がゴールへ行こうとするのを阻もうと、巨人が迫るが、そこへアキラが立ち塞がった。

「悪いけど、おいしい所いただくぜ」

 そう言って、剣を巨人の目にぶん投げた。

 杏奈が後ろ手に見たのは、その光景までだった。


「あと、3分ですね」

 杏奈の耳に、その声が飛び込んできたのと同時に、目の前が開けた。森から抜けたのか、目の前に大きな門が立っている。

「来ましたね。おや、1人ですか」

 入学試験前に見たジョッツァが立っていた。他の受験者は見当たらない。

 杏奈はアキラのことを考えた。無事なのだろうかと。

「番号は、12番ですね。では、こちらの方へ」

「あ、あの、ここで待ってても良いですか?」

「ああ、ペアの方を置いてきてしまったのですかね?こちらで見ておきますので、あなたは別の所で待っていてください」

「……わかりました」

 杏奈は、渋々了承し、門の中へと入っていった。

 門の中には、十数人の合格者がいた。

「杏奈さん」

「杏奈ちゃん!」

 杏奈は、2人の人物に同時に声をかけられた。メガネをかけた男の子がリン、後ろに髪を縛っている男の子が、ワームだ。

「え?!リン!わあ。久しぶりね」

「ええ。まさか、ワームさんと杏奈さんに会えるとは」

「この女の子も知り合いなのか?」

 リンの後ろから、薄い水色の髪をした男がやって来た。

「杏奈よ。よろしくね」

「おお!俺はカルメ。よろしくな!」

「お話しはそこまでにしてください」

 大きな声がした。声の方を向くと、先程の教師が立っていた。杏奈はいつの間に移動したのかと驚いたが、はっとしてアキラを探した。

「いない……」

 杏奈は、アキラは間に合わなかったのかと落胆した。


 入学の説明が終わり、入学式まで解散となった。もう寮に入る者と、一旦家に帰る者で分かれた。

「俺は寮に行くけど、リンはどうする?」

 カルメはリンにそう聞いた。

「僕も寮に行きますよ」

「え?リンも、家に帰ろうよ!」

 ワームがリンの袖を引っ張った。

 3人が話してる間に、杏奈はジョッツァの所へ行った。

「あの、ジョッツァ先生。アキラっていう人は」

「ああ。11番の子ですか。それなら、門の前にいますよ」

「門の前ってことは……」

「時間内にゴールできなかったので、不合格ですね」

「そうですか……」

 杏奈は、ジョッツァにお礼を言い、門の前に向かった。そこには、不合格になった者たちが何人かいた。門の前にいる教師のような風貌の男性に文句を言っている者や、帰ろうとしている者などがいた。

「アキラ!」

「杏奈!そこから、来たってことは、合格したんだな。良かった」

「ごめんなさい。私のせいで」

「良いのさ。杏奈が、ゴールできて良かったよ」

「でも……」

「俺はさ、良いんだよ。自分探しがしたいだけだし、杏奈みたいに育ての親に恩返ししようなんて考えたことなかったな」

 アキラは、杏奈の頭を優しく撫でた。

「俺は、ゴールネディア学院に行くよ。そこでも、冒険者のライセンスは取れるしな」

「そう……アキラがそれでいいなら」

「そ、それでさ、良ければなんだけど!」

 アキラは頬を赤くして言った。

「遠いけど、手紙でも送り合わない?ほら、俺たち、親いない同士だしさ。杏奈と、せっかく仲良くなれたし……どうかな?」

「ふふ。良いよ。アキラは、なぜだか話しやすいしね」

「やったー!ありがとう杏奈!」

 アキラは、杏奈に抱きつこうとしたが、普通に避けられた。

「こちらこそ、助けてくれて、ありがとう」

 杏奈は満面の笑みを見せた。

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