第四節 準備
仮想国です。同じ名前が実在していたとしても、それは偶然で関係性は一切ありません。
革鎧が届いた。
二重になっており、内側は柔らかい革で、私の体に沿った曲線で羽織感じで着衣する。外側は固い革のパーツが革紐で繋がっており、重要部分には金属板が鋲止めされ、斜めからの矢なら弾き返すだろう。
特に気に入ったのは、全体的に茶黒に染められた無骨な革鎧であるが、所々に細かい細工が施され、おしゃれであるところである。
「良い出来だ、気に入った。執事、十分な褒章を払ってやれ」
「領主様。もう一つお送りしたいものがございます」
「ん?」
仕立て屋が差し出したのは、とても柔らかい革でできた仮面で、左半分に大きく国章のライオンが描かれていた。
「ヘルメットを被るとき、どうしてもスカーフの結び目が邪魔になります。それに視界を遮ります。この仮面であれば、それらを解消できると考え、作成しました。お気に召さなければお捨てください。」
私は、顔のやけどを気にしてスカーフを巻いていたが、ヘルメットの採寸をするときだけは外さなければならなかった。その時に私は、「どうしても、外さなければならいのか」と不機嫌な声を出していた事を思い出した。
重い沈黙が流れ、場は私の返答を待っていた。
「気に入った。私はこれから戦時以外でも、この仮面を着けていよう。」
安堵の雰囲気が流れた。特に執事の表情は事前にこのことを知っていた感じである。もしかすると執事が作らせて仕立て屋に喋らせたのかと思うぐらい。
私は、執事、丞相ラルス、それ以外にも領内の有識者を集め、情報を整理共有した。
まず敵国は、アナルシアとヴィンタシュトウの連合
アナルシア
、人口 34,000人(男性16,000、女性18,000)
、スパンヴィクの東、ヴィンタシュトウ南に位置
、軍人9,600(半数は傭兵で陸戦部隊)
ヴィンタシュトウ
、人口 8,000人(男性3,500、女性4,500)
、スパンヴィクの北東、アナルシア北に位置する
、軍人700(海賊が主)
対して、我が国スパンヴィク
、人口 22,000人(男性10,000、女性12,000)
、軍人3,000
うちマルグレーテ領(島)
、人口 1,800人(男性800、女性1,000)
、軍人160
圧倒的である。ヴィンタシュトウの海賊が総力を挙げて島に襲ってきた場合、1人あたり島民2、3人殺せば良いので、半日も持つ事なくわが領土は占拠されるだろう。また本国スパンヴィクもアナルシア兵が全員襲ってきた場合も半日持つ事なく占拠される。
しかし、そう単純ではない。ヴィンタシュトウ単体がアナルシア領海に進出した場合、スパンヴィクは半数の兵を出すだけで立場が逆転する。またアナルシアも谷合を通り抜けれるのは最大同時10列、前から5列迄が同時戦闘できるとして50人迄、これをスパンヴィク兵1,000人が交代で攻撃すれば時間はかかっても必ず勝てる。
今回のアナルシアの作戦は、谷合から少数づつではなく、海から一斉に上陸することで勝敗を決めようと言うものである。これが成功すればスパンヴィクは成す術もなく壊滅する。
海戦に慣れていないアナルシア兵を上陸前に壊滅させることが取れる対策だが、今回はヴィンタシュトウの海賊船団が護衛して来ると考えるべきだろう。
通常、ヴィンタシュトウの海賊船は鎧張りと呼ばれる頑丈なオーク材の板を重ね張りする工法で作られるが、今回はスパンヴィクの搬送のみに主眼をあてた急造の船で海戦に向いていないということなので、そう言う事だろう。
もし長期戦を顧慮に入れるなら総力を持って、先に島を奪って要塞化し、そこから来年スパンヴィク本土を襲う方法もあるだろうが、アナルシアの徴兵は膨大すぎて来年まで維持する体力は無い。取れる戦略は、短期決戦、直接スパンヴィク首都への攻撃だろう。
問題は、敵兵がどの経路で何処にどれぐらいの兵力で襲って来るかである。ヴィンタシュトウが保有また建造中の船は、海賊船大型120人乗りが2隻、中型60人乗りが5隻、小型30人乗りが8隻、搬送船250人乗りが9隻、計最大3,080人、満載で来るとは限らないが3,000人近い兵が襲って来ると思っていいだろう。
「私が敵なら、500人をこの島に向かわせ、3人1組でこの島の軍人を駆逐、制圧を図る。残り2,500人は首都に上陸、陸路を確保させ、アナルシアに残した6,000人と合流してスパンヴィクを制圧する」
執事の顔を見ると、
「私でしたら、アナルシア軍を全員上陸させた後で、ヴィンタシュトウ全軍を島に向かわせます。国単位で兵を動かした方が統制が取れますし、海賊どもに強奪機会を平等に与える事ができますから。」
「どちらにせよ。絶望的な戦力差だな」
「他国に亡命されますか?」
私は鼻で笑ってしまった。
本国から注文の品が届いていた、馬50頭である。流石に足の速い軍馬は調達不能であったが、荷馬車の馬や農耕馬は辛うじて入手できた。また注文してないものも届いる、兵士16名これは執事が近衞中将だった時の部下が志願して島に移住して来たのだ。
それなりに歳は取っているが、歴戦を生き抜いた熟練の兵士である。
この島は、中心から、東側に交易港を備えた800世帯程の街、西北西の方角、南西の方角に各々50世帯ほどの遠洋漁業を兼ねる農村がある。彼ら16名をそこに配置し、何があっても村民を護る様命じた。
農村の村長は、お互い目を合わせると頷き、
「領主。見てもらいたいモノがある。私たちの村にお越し頂けないでしょうか」
私たちは、島の西側に向かった。そこで洞窟の中に隠された船、30人乗りの戦船3隻。
村長たちは代わる代わる、
「私と此奴の村は、元々海賊で、先代領主が海賊行為を禁止する条件で、この地に住み続けることを許してもらいました。」
「今回は海賊行為ではなく戦です、先代領主も許してくれるでしょう。」
「村人を護るではなく、共に戦えと改めて頂けないでしょうか。」
つい、私は大声で笑ってしまった。
「村長たちに見せたいモノが、こちらにもある。街に戻ろう。」
街の工房で突貫で作っているモノがあった、 大型弩砲である。
それも据え置き式と4輪牽引式の2種類。牽引式は360度回転する台の上にバリスタを載せて馬に引かせるタイプである。
「これを各村の港に配置する。牽引式は馬に引かせて港以外でも対応可能にするものだ。もし使える様であれば船に取り付けるのもありだと思う」
「威力を見せてもらっても」
完成している牽引式バリスタを街外れまで移動させ、射程距離と貫通力を披露した。
村人たちは恐怖と歓喜で笑い始め、私も釣られて笑い始め、次第に大声での笑いに変わっていく。
ついでに村の港に配置予定の 投石器も披露した。
みんなの笑いが止まった。
標的にした石造の空き家が木っ端微塵に吹き飛んだのである。
村人の誰かが大声で、「勝てるぞ」と叫んでたのを切掛に集まった全員が雄叫びをあげ始めた。
「まるで海賊だな」と呟きそうになったが、「元海賊だから当然」という言葉が頭をよぎり、笑ってしまった。
兎に角、士気は高い、勝ちに行く、いや勝たねばならない。
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バリスタ(ballista)、カタパルト(Catapult)は、双方ともロドス包囲戦(紀元前305年-紀元前304年)で実際に使用されていた兵器
但し、 投石器には、 平衡錘投石機、 人力補助式投石機、 ネジ巻き式投石機などいくつも種類がある。当時どんなタイプの投石機を使用していたかは分からない。




