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外道祈祷書  作者: 夢想起
第二章 スヴァットの書
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第二節 嘆願

町長・村長を束ねていたお祖父様(前国王)が亡くなり、私がこの島の領主となった。


最初は政務に関して執事が補佐してくれていたが、それでは回らないだろうと国王(伯父)が、政務の補佐としてラルスという男を紹介してくれた。ラルスは手際話がよく政務の殆どを処理してくれ、重要事項など必要なことだけ、私と執事に相談に来るというスタイルだった。


私は雑多な政務から離れることができたので、中庭で読書と紅茶を楽しむのが日課になってきた。知識を得ることはとても楽しい、城の外にほとんど出ない私でも各地を見て回っている気持ちになれる。


ただ時折、とても切ない非力感と孤独感に襲われる時がある。


本来であれば、私はそろそろ社交界デビューする年齢である。しかし顔に大きな火傷後、首から下げた動かない右腕、このことを中傷されることを嫌い社交界デビューせずにいた。私は貴族たち、また同じ年頃の女性にどう思われているのだろう。


また、島の中を移動する時も馬の手綱を握れないので馬車である。そのため道が整備されていない島の反対側にある村々には殆ど行った事がない。


お祖父様は定期的に村々を回って領民に気さくに声をかけ、声をかけられた領民たちは笑顔で挨拶をしていた。醜い姿の私には、あの様な振る舞いは出来ない。きっと、あのような笑顔で迎えられる事はないだろう、そのことを考えると切ない気持ちになる。


私はお祖父様に、もっと領民たちと触れ合うどうしたらいいか学んでおくべきだったと、今になって思う。


このことは家族同然の執事にも話せていない。








晴れた日に中庭の木陰で読書を行っていると、近くに居たはずのメイドが男の使用人に代わっていることに気が付いた。


「お久しぶり、悪魔さん」

「悪魔という呼び方は、あまり好きではない。別の呼び名にしてくれないか」


少し考えて、

「では、スヴァットでいいかしら」

「それでいい」


「今日はどうしたのかしら」

「私を呼び出した本を処分したいと思ってお願いに来た。あれはこの世界にあってはならないモノだ」


「あれはお祖父様の本よ。呈げても良いけど、貴方は代わりに何をくれるのかしら」

「花束でいいかな?」


「今後、戦争が起きない世界にして、これが願いよ」


スヴァットは少し考える振りをして

「それはお勧めできない願いだ」


「なぜ、誰もが望む願いよ」

「人間は、群れを作り自己欲求を求める生き物だ。それを奪えば人間と呼べないモノになる。それが望みと言うことでいいのかな」


「ちょっと待って、何をやるつもり」

「戦争を起こせない、もしくは起こそうと誰もが思わない世界にして欲しいのだろう」


「取り消す、取り消すわ。何か大きな齟齬があって、取り返しがつかなく成りそうだから別の願いにするわ。そうね、小さな願いがいいかしら」


スヴァットは軽く笑って、

「じゃあ、この話はまた今度」


目を離したわけではないのに、いつも間にか消え、屋敷からメイドが戻ってきているのが見えた。








その後も、私が独りでいるタイミングを見計らって、スヴァットは何度も姿を見せた。


その都度、町でこんなことがあったなど、私に教えてくれた。私はその聞いた話をメイド、執事やラルスに確認すると本当の出来事であることは分かった。


いつの間にか、私はスヴァットの話を楽しみに待つ様になった。いつもの様に中庭の木陰で読書を行っていると。


「おはよう。スヴァット」

「おはよう。お嬢様」


姿が見えなくても、最近では気配で近くにスヴァットがいるかどうかがわかる様になってきた。


「今日はどうしたの?」

「もうすぐ隣国との戦争が始まる、準備した方が良い」


「その情報は、…」

と聞き返そうとしたとき、スヴァットの気配は消え、その位置にメイドが立っていた。


「何でしょうか…」

メイドは、不思議そうにこちらを見ていた。


私は読書をやめ、ラルスをお茶会と言う名目で呼び出した。


「ラルス。今、各国間の状況はどうなの」

「どう言う意味でしょう」


「戦争の準備をしている国はあるの」

「隣国アナシリアにて不穏な動きがあり、本国が現在調査中という話を聞いています。でも何故その情報を」


「鳥が囁いていたのよ。今後、その手の噂話は、お茶会を開いて報告しなさい。軽率に動くつもりは無いけど頭には入れておきたいわ」


「承知しました。では何故アナシリアが怪しいと思われたかの経緯ですが、…」


ラルスの話では、最近になってアナシリアは、例年にないぐらい大量の物資を城内に運び入れ、また平時なのに大量の兵士や傭兵を雇い入れており、巷では「近いうちに戦争を始めるつもりだ」と、もっぱらの噂ということである。


アナルシアは海に面しておらず、我が国スパンヴィクの港を奪うため何度か侵略戦争を仕掛けてきている。前回の戦争で膨大な被害を受け、余力が尽きて戦争を仕掛けて来なくなっていた。今回は余力が戻ったという事だろう。


しかし我が国の国境はどこも山の谷間で、進行してくる方は地理的に不利な場所で待ち伏せにあう。前回もアナルシアはそれで大打撃を受けた。


二の轍を踏むとは思えない。谷合での待ち伏せを回避するなら、秘密裏に通過するべきだ。なのに戦争準備が大々的過ぎる。まるで戦争を仕掛けると宣伝している様である。違和感は感じるが情報が少な過ぎる。


農兵も募っている様なので、開戦は種まき時期の春と刈り入れ期の秋はない。冬に山の谷合を通るのは自殺行為である。兵を維持するには規模に応じた財と食料が必要になる。それらを考えると開戦は今年の夏。


後半年もないが、対応するにも情報が少なすぎる。本国の調査を待つしかない。


文字数(空白・改行含む):2361字

文字数(空白・改行含まない):2256字

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