第二節 戦争
悪魔の召喚には成功したが契約には至らなかった。僕は彼をノワールと名付け、一緒に暮らし始めることとなった。
ノワールとの生活も3ヶ月が過ぎ、夏になった頃、
村長が戦争への召集を告げに来た。
僕がノワールの顔を見ると、
「私も付いて行こう」
と言ってくれた。
僕たちは戦争に行くことを決めた。
村から2名出す事になっていたが、ノワールが付いてきてくれるおかげで、戦場に行かなくて済んだ村人がいた。
彼は結婚したばかりなので、戦争に行きたくなかったが、村を出て生活して行く自信がないため、戦争に行く事を決めていた。
ノワールは、その村人に普段着を一着要求し、それぐらいで済むならと、村人は気持ち良く譲ってくれた。
次の日の朝、僕たちは荷馬車に乗って戦場へと向かった。
その時、ノワールは村人から受け取った服を着ていた。
流石にスータン(神父の普段着)は戦場に来ていけないと思ってのことだろう。
ノワールは、周囲の捉え方によく配慮ができている。
一緒に暮らしていて、時折ノワールがまるで将来が見えている様に、先をよんで行動していることに感心させられる。
野営地に着き、受け付けを済ませると
「武器は持っているか、なければそこにある武器の中から好きなのを持っていけ、槍は必ず持っていけよ」
と言われた。
弓や槍などは立てかけてあったが、樽の中に中古でボロボロだが、ロングソード、戦斧、メイス、ウォーハンマーやウォーピック、フレイルやモーニングスターなどといった様々な武器が入っていた。
武器は沢山あるが、防具の類は殆ど置いてなかった。
僕が何を持って行くか悩んでいるとノワールが、
「槍、それと腰に提げられる短剣だけでいい」
と助言したので、そのとおりにした。
僕はなんとなく、
「ソード系より打撃系を持って行く人が多いけど、僕も何か持って行った方が良いだろうか。」
ノワールは、
「打撃系は防具の上からでも攻撃できるので人気が高いが率先して攻撃しないと威力が出ない。ロングソードは取扱が難しく慣れていないと防具に弾かれる。使いこなせないなら荷物は軽い方が良い」
と教えてくれた。
その後、野営地隅でノワールが槍と短剣の基本的な使い方を教えてくれ、最後に
「他の者と歩調を合わせて進軍し、隊列が崩れ始めたら、味方の矛先に気を付けながら逃よう」
と言った。
その日の晩、食事が振舞われ、開戦は明朝だと告げられた。
僕たちは、木の根元に近くでローブに包まり、早々に寝ることにした。
空が白みかけるころ、パンとスープが配られ、
「パンは多めに貰って半分を懐に隠しておいた方がよい、それと水筒に水を」
とノワールが囁いたので、そのとおりにした。
食事が終わると、4列重体で戦場である草原に向かって進軍が開始された。
ノワールが右端に行こうと誘うので、僕たちは右端の隊列に前後の形で並んだ。
進軍は最初に十数人の軍人、次に農兵、その後に本体らしき軍人が続く隊列だった。
農兵と職業軍人の違いは明白である。鎧を付けていないのが農兵で、付けているのが軍人。
命令している態度を見なくても、軽装であったり、量産品と思える同じ鎧を付けているのが兵士、装飾の付いた全身鎧が指揮官だと分かる。
先頭の兵士が草原まで扇動し、草原に着くと農兵を草原沿いに左右に展開させ、広がり切ったところで、草原中央に向かって進軍が開始された。
僕たちは右端にいたので草原中心に向かって右側の最終列になった。
農兵が草原中心に向かって進軍を始めると、僕たちの後ろに、軍人たちが隊列を組み始めた。
しばらく進軍すると草原の反対側に敵が見えてきた。
敵も同じく前列に農兵、後ろに軍人が配置されているのが分かった。
「左手の方が豪華な装備が多い」
とノワールが呟き、そう言われて見るとそんな感じがした。
進軍していると、馬に乗った兵士が僕たちの前に出てきて、
「進軍止まれ」
と大声を出した。
3機の騎兵が敵陣に向かって駆け出し、敵側からも3機出てきて対話を始めた。
その間に僕たちの前の騎乗した兵士が、
「合図と共に敵に突っ込み、目の前の敵を殺して草原の反対側までたどり着け、それが生き残るたった一つの方法である。もし逃げ出す奴がいたら後ろに控える兵士が殺すと思え。」
と檄を飛ばした。
僕がノワールの顔を見ると、ノワールは軽く頷いた。
騎兵が戻ってくると進軍が再開され、敵最前列にいる人間の顔が分かるぐらいの距離まで近づくと、後方から弓矢が頭上を超えて敵方に飛び始め、突撃の合図が鳴り響いた。
叫び声の様な突撃の声と共に、前列の農兵は槍を構えて敵に突っ込んで行った。
僕たちも味方に矛先が当たらない様に槍を構え突撃した。
ノワールは敵の槍先を柄で逸らし、敵目掛けて突っ込んで平手で相手の顎を押し、仰向けに倒した。
「離れずに着いてこい」
とノワールは僕に向かって大声を出し、僕はノワールの後ろを追った。
戦場での槍は最初の一撃だけで、両者最前列がぶつかると、今度は打撃系の武器が飛び交い、血肉らしき物を飛び散らしていた。
ノワールは、殴る蹴るなどで敵を押し倒しながら前に進み、僕に道を作ってくれた。
ノワールが武器を使っていないことに意識が向いた一瞬、右から僕に向かって横殴りに剣を振り抜く兵士に気が付いた。
死を意識したとき、ノワールが敵兵を蹴り飛ばしていた。
呆然とした僕を、ノワールは叩き起こし、
「槍を捨てて着いて来い」
と、僕の手を引っ張って走り出した。
「止まれ」、「走れ」、「着いて来い」…
的確に指示を出すノワールに、迷う事なく指示に従う。
単に思考力がなくなっただけなのかもしれないが、僕がノワールに憧れに近い信頼を抱いていることが自覚できる瞬間だった。
気が付くと戦場を抜け、少し丘になった草原の反対側にいることに気がついた。
振り返って戦場を見ると僕たちが走り抜けた道のりは、何故か敵兵たちの間隔が広く、ノワールが戦闘を避ける最善のルートを通ったのが分かった。
もしノワールが右前方に進まず、左側に進んだのであれば、僕たちは激戦区に突入していたであろう。
まるでノワールは、戦場がどの様になるのか、前もって分かっていた様に敵兵を避けながら僕を連れ出したのだ。
ノワールは戦場をしばらく見ながら、まだ時間がかかりそうだから、ここで戦闘が終わるのを待とうと言った。
僕たちは、パンを食べながら戦闘を遠目で眺め、畑での収穫など身の回りの様々な話をした。
ノワールを家族の様に身近に感じた。まるで兄の様に。
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